Yahoo!ニュース

帰国後初勝利を目指す田口貫太騎手が、人生初のフランス修業で学んだ事とは?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
フランス、ヴィシー競馬場で騎乗した際の田口貫太騎手

ダービーを見て騎手になる事を決意

 両親が共に笠松競馬の元騎手。「物心がついた時、父は調教師でした」と語るのが田口貫太騎手だ。

田口貫太騎手
田口貫太騎手

 当然、小さい頃から競馬を見ていたが、騎手を目指す引き鉄となったのは2017年の日本ダービー(GⅠ)だった。

 「父の関係で諏訪守オーナーと面識があり、この年のダービーを生観戦しました」

 諏訪オーナーが送り込んだスワーヴリチャードは健闘虚しくレイデオロの2着に惜敗した。

スワーヴリチャードがレイデオロの2着に敗れた17年の日本ダービー
スワーヴリチャードがレイデオロの2着に敗れた17年の日本ダービー

 「諏訪さんを応援していた皆の中には悔し涙を流している人もいました。それを見て、大の大人達の心を震わす競馬って凄いと感じ、自分も騎手になりたいと考えました」

 中学3年の卒業時には競馬学校を受験したが、乗馬未経験という事もあり、不合格。しかし、夢は諦め切れず、その後、乗馬を教わりながら定時制高校に通い、翌年、再受験をした。

 「毎日、馬房掃除から始め、乗馬のレッスンを受け続けました。これで不合格ならもう諦めるつもりで受けたところ、合格出来ました」

 こうして無事に競馬学校に通う事3年。23年に卒業すると、その春、栗東・大橋勇樹厩舎からデビューした。

 「大橋先生は馬乗りや競馬に対して厳しく教えてくださいます。また、普段の生活に関しても親身になって考えてくださります」

 3月4日、阪神競馬場でのデビュー戦には、両親が応援に駆けつけた。結果は2着に善戦したが……。

 「スピード感や馬群のタイトさが模擬レースとまるで違い、下半身が疲れました。調教で6頭乗るよりも実戦で1レースの方が疲れると感じました」

23年3月4日、デビュー初日の田口貫太騎手
23年3月4日、デビュー初日の田口貫太騎手

 初勝利は同月26日。自厩舎のレッツゴーローズを駆って、1番人気に応える勝利だった。

 「大橋先生から『自信を持って乗って来なさい』と言われました。道中ずっと好手応えで、4角先頭からの押し切り。馬の力で勝たせてもらいました」

 大橋からのプレゼントは、同時に同調教師の通算300勝祝いというお返しのメモリアル勝利でもあった。

 「大橋先生は人気馬も特別レースもほとんど乗せてくださっていたので、やっと勝ててホッとしました」

 結果、1年目は35勝。最多勝利新人騎手として、JRAから表彰された。

 「焦って無駄に外を回すような進路取りをする等、反省するレースが多い中、馬主さんや関係者の方々に勝てる馬を用意していただけたお陰で、実力以上に勝たせてもらえました」

23年のJRA賞最多勝利新人騎手賞として表彰された田口貫太騎手
23年のJRA賞最多勝利新人騎手賞として表彰された田口貫太騎手

人生初の海外渡航

 そして今年「まずは前年の勝ち星を上回り、重賞も勝ちたいという気持ちで臨んだ」ところ、6月2日にはアンデスビエントで関東オークス(JpnⅡ)を勝利。重賞初制覇を飾った。

 「人気だったので、嬉しいというより安堵した感じでした。また、この日は母の誕生日でもあったので、忘れられない勝利になりました」

 その直後の事だった。

 「デビューした当初から、帰国後も減量の効くうちに海外へ行きたい」という思いを実行に移す事にした。

 「先輩の(岩田)望来さんのフランス遠征が決まったので、僕も行動力だけあればこのタイミングで行けると思い、大橋先生に相談しました」

 その結果「快く承諾していただけ」人生初の海外渡航となるフランス行きが決まった。

岩田望来騎手(左)を追いかけて渡ったフランスで、R・ムーア騎手と
岩田望来騎手(左)を追いかけて渡ったフランスで、R・ムーア騎手と

 パスポートを取得し、弱冠20歳での海外修業が始まったのは7月24日。この日、現地入りすると、翌朝には馬の街で知られるシャンティイで開業する小林智厩舎の馬に跨った。

 「調教場はラチのない森の中という感じで、開放感があって驚きました。キャンターが思った以上に速かったのと、馬が躾けられていて従順なのにも驚きました」

 毎朝、真面目に取り組む姿勢を見て、小林だけでなく、もう1人の日本人調教師である清水裕夫も騎乗馬を用意してくれて、リオンダンジェやヴィシーといった競馬場でレースに乗る機会を得た。

フランスの森の中のような調教場で調教騎乗する田口貫太騎手
フランスの森の中のような調教場で調教騎乗する田口貫太騎手

 「リオンダンジェは馬運車に乗り、ヴィシーは車を4〜5時間の運転をして行きました。検量から何から何まで日本とは勝手が違って、緊張する間もなくレースになりました。向こう正面もカーブしている感じの日本にはないコースを経験出来る等、勉強になりました」

 更に帰国直前の9月15日にはロワイヤン競馬場で2鞍に騎乗。どちらも勝利して遠征の最後を最高の形で締め括った。

フランス最終日に2レース騎乗して2勝した(写真提供;y)
フランス最終日に2レース騎乗して2勝した(写真提供;y)

 「技術面だけでなく、考え方が変わったところなどもあり、人間的にも成長出来たと思います。そんな遠征の最後、次の日には帰国するという状況の中、良い馬を用意していただき、勝たせてもらえました。関係者の皆様には本当に感謝しかありません」

 9月21日から日本での騎乗を再開した。その感謝の気持ちを返す最高の手段は活躍する事だろう。「まずは中央の重賞勝ち。それからGⅠ騎乗。そしてゆくゆくは世界で活躍出来るような騎手になりたい」という本人の願いを叶える事が、皆への恩返しとなる。復帰週こそ勝利で応える事は出来なかったが、今週は遠征の成果を数字で可視化出来るよう、期待したい。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

平松さとしの最近の記事