「見えないものを見ようとする」アップルのAR特許出願について
「ヘッドセットを被ればWi-Fi信号やガスが“見える”?アップルが特許を出願」と言う記事を読みました。
上記記事の元ネタになっているPatently Appleの記事で紹介されている米国特許出願の公開番号は、20220292821、発明の名称は、”Visualization of non-visible phenomena”(非可視現象の可視化)です。出願がされただけで実体審査は始まっていません。
しかし、よく調べると、実は、この出願は継続出願であって、その原出願はもう特許登録されているので、以下では権利化済みの方について解説します(既に権利化済・公開済の特許をあたかも初公開情報のように紹介しているのはPatently Appleの見落としだと思います)。
原出願の特許番号は11380097です。発明の名称は継続出願と同じく”Visualization of non-visible phenomena”、実効出願日は2020年8月7日、登録日は2022年7月5日です。米国のみの出願と思われます。
発明のポイントはシンプルで、センサー(HMDに内蔵されたものである必要はありません)で取得した情報を、AR(拡張現実)により外界と重ね合わせ表示するというものです。たとえば、空気の流れを表示することで部屋の空調が正常に機能しているか、ガス漏れがないかなどをチェックできます。超音波を表示することで、ペット用のバーチャルフェンスが正常に機能しているかをチェックできます。熱を表示することで部屋の空調や機械の稼働が正常化をチェックできます。音波を表示して楽器のチューニングを行う実施例(タイトル画像参照)も開示されています。
では、特許としての権利範囲を見ていくことにしましょう。かなり範囲が広いです。審査経過を見るとほぼ出願時点のクレームのままで、拒絶理由通知なしで一発登録されています。目に見えないものを可視化してAR的に表示するという発想自体が斬新なのでこういう結果になるのはうなづけます。
今の時点で考えると「いやなんで楽器のチューニングするのにHMDかぶらないといけないの?」という印象かもしれませんが、何年か(十何年か)後に、たとえばスマートグラスがもっと小型化されて普通に多くの人が着用するようになった段階で「そのユースケース、実はこの特許に抵触しますよ」と他社に権利行使できるタイプの特許と思います(特許としては表示デバイスは任意でありHMDに限定していません)。
クレーム1の内容は以下のとおりです。
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