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トイレットペーパーはなぜ消えたのか:みんなのことを考えることがあなたの家庭を救うことに

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
台湾 トイレットペーパーの買いだめ 価格上昇の噂で(写真:ロイター/アフロ)

<トイレットペーパーの大量買いは、もはや社会的迷惑行為です。社会を混乱させ、そうなれば、あなたの家庭も困ります。>

■トイレットペーパーがなくなる?:本当はなくならないはずなのに

マスクの次はトイレットペーパーです。東京だけではなく、地方都市でもトイレットパーパーが店から消えつつあります。

トイレットパーパーが不足するのはデマで、問題なく生産されていて、在庫もあると、業界も政府も言っているのに。

トイレ紙の在庫潤沢 冷静に

■デマ、誤情報は、なぜ広がるのか

「トイレットペーパーは中国から輸入されているので輸入が止まる」「マスク増産のおかげで、トイレットペーパーの材料がなくなる」「マスク増産のせいで、トイレットペーパーの生産が減る」。「トイレットペーパーがなくなる」。みんなデマ、流言、誤情報です。

熊本地震の時には、「ライオンが逃げた」というデマが広がりました。地震でみんなが不安がっている時に、この情報はインパクトがありました。あっと言うまに、このウソ情報は拡散されました。

不安な時は、人は不安がっていて当然だと感じる情報に飛びつきます。不安だからこそ、少しの危険情報にも敏感になります。情報を収集しようとする欲求が高まっているのです。

情報を知った人は、誰かに伝えたくなります。伝えるのが親切と思いまます。

デマは、完全に信じた人だけが広げるわけではありません。「〜らしい」「よくわからないけど〜」、このような形でも十分にデマは広がります。

デマが広がる中では、その情報は誤ったデマだという正しい情報も出てきます。

今回のトイレットペーパー騒ぎも同様です。

「新型コロナウイルスの影響でトイレットペーパーが不足」は誤り 品薄となる薬局も>2/27

ところが、ライオン騒ぎの時も同様でしたが、正しい情報が出た後でも、「それは誤っています」という情報よりも、「ライオン逃げた」「トイレットペーパーがなくなる」という誤情報の方が、変わらずに広く早く広がっていきます。

ライオン逃げた、トイレットペーパーなくなる、という情報の方が、情報の価値が重要な情報と人々が感じるからです。

■買い占め、買いだめ、異常な大量買いは、なぜ起きるのか

最初に動く人は、不安が高い人です。不安が高い「強者」の人々です。

不安が高いので、不安情報に飛びつきます。情報強者なので、ネット上の情報にもすぐにアクセスします。彼らは強者で、時間やお金や体力があります。

素早く店に行き、大量買します。いくつもの店を回る人もいます。

そんな様子を見る人々がいます。報道されてしまうこともあります。すると、追随する人が現れます。こうなると、本当に店から商品が消え始めます。そうなると、最後に、冷静な人々すら、生活防衛上の買い急ぎが始まってし舞います。

どんな理屈を言っても、トイレットペーパーがなくなったら大変だ、もう我が家にはないという人は、生活防衛上の買い物をしないわけには行きません。

さらに、一度大量買いをした強者の人々は、大量買いが癖になります。お一人様一個までとなれば、何店でもまわって、大量買いします。

このような人々がいると、普通の人は、どこの店に行ってもいつも売り切れになってしまいます。

■トイレットペーパー騒動を止める方法

良い方法は、在庫を出して、店頭にトイレットペーパーを山積みすることです(ただし、大量買して転売したり、海外に持ち出したりする人を防ぐことが前提ですが)。

「トイレットペーパーは十分にあります」と言葉で伝えても、空っぽの棚は、やはり衝撃的です。オイルショック時のトイレットペーパー騒動も、そうして収まりました。

もはや、マスクやトイレットペーパーの大量買いは、社会的迷惑行為です。大量買いしている強者の皆さんは、ぜひみんなのことを考えて欲しいと思います。

パニックは、自分だけ助かろうと思う人々が作り出します。

このままでは助からない→助かる方法はある→だが助かる人数は限られている→早い者勝ちである→自分だけが助かりたい→社会的パニックです。

このままでは助からないなどということはない→品物は十分にある→早い者勝ちのシステムを作らない→自分だけが足すかろうと思わない→パニックの防止です。

マスクもトイレットペーパーも、大量買いは迷惑行為だという雰囲気を作りたいと思います。社会的なパニックが起きれば、結局各家庭も困ることになります。

学校の突然の休校に関しては、学校、職場、学童保育、地域、ママ友の、助け合いの輪が広がり始めています。マスクもトイレットペーパーも、互いに配慮し合いましょう。

みんなで助かろうと思うことが、あなたもあなたの家庭をも守ることにつながります。

「なくなったら大変」は、ごもっともです。トイレットペーパーがもう1個2個しかない人が慌てるのはわかります。しかし、何十個もあるのに「なくなったら大変」と思い大量買いを続けるのは、心のバランスが崩れている証拠です。

この新型コロナウイルスの危機を乗り越えましょう。危機感を持つのは大切です。しかし、心理学の研究によれば、個人の心が持てる危機感には限度があります。

マスクやトイレットペーパーにばかり気持ちが行ってしまうと、他に用心しなければならないことに気が回らなくなってしまいます(危機の中の心理学:コロナウイルスで緊急事態宣言がなされる今の生き方:Y!ニュース個人有料)。

あなたのためにも、みんなのためにも、もう一度、冷静さを取り戻しましょう。

マスク不足は解消するか:マスクは今週1億枚を供給、来月には6億枚体制へ=官房長官

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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