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ジェイコブス晶:「完璧な試合はない」と貪欲な20歳が、韓国戦で持ち味を発揮してパリ五輪の代表入り

青木崇Basketball Writer
韓国戦のステップアップでパリ五輪のメンバー入りを果たしたジェイコブス(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

「有明で2試合目、もう少しナチュラルに動けた気がしました。よくできたと思うんですけど、前の試合よりは動けたので、そこはうれしい。今回もオフェンシブ・リバウンドが取れたけど、ディフェンスの方でアンド1(得点+1フリースロー)を2、3回許してしまったのはありますが、完璧な試合はないので、そういうのは学んで次の試合でしないようにしたいです」

 韓国との強化試合を終えた後、ジェイコブス晶は笑顔を交えながらこう語った。7月5日のゲーム1の4Qで猛反撃のきっかけとなる3Pを決めるなど9点、7リバウンドを記録。ゲーム2ではベンチから出てくる選手として最初に登場すると、1Q2分19秒にドライブから豪快なワンハンドダンク。2Q4分1秒に決めた3Pショットは、日本に勢いを与えたという点でも大きな意味があった。

 ジェイコブスはゲーム2でも8点、7リバウンドのスタッツで勝利に貢献。トム・ホーバスコーチが選手に求めていた3Pショットとリバウンドという点で成果を出していたからこそ、2試合とも23分を超える出場時間を得られたのである。203cmの身長、高い身体能力、腕の長さに加え、シュート力が武器のジェイコブスは、世界の強豪に挑む日本にとって非常に魅力的な選手。韓国戦で得たチャンスで実力を発揮できたことからすれば、パリ五輪のメンバーに選ばれたことに驚きはない。

 ゲーム1で最初の5本がミスになりながらも、「打たないと決まらないので打ち続けることは大切です。でも、打っているだけではダメなので、決めなければなりません」と語っていたように、ジェイコブスはオープンになれば躊躇することなく3Pショットを打ち続けた。これこそが『10本連続で外したとしても11本目で決めてやる』というシューターに必要なメンタリティであり、3Pショットに大きな自信を持っていることの証。韓国とのゲーム2に勝利した後、ジェイコブスはこう語っている。

「チームメイトが自分を信じてくれていることが、一番の自信になると思います。周りの選手がいつも『またボールが回ってくるから打て』と言ってくれることが自信になります」

 4月に20歳になったジェイコブスが素晴らしいシューターであることは、昨年のFIBA U19ワールドカップで証明済み。ブラジルとの初戦で大腿部を打撲するアクシデントに見舞われたが、翌日のエジプト戦では痛みと付き合いながらのプレーをし、3本の3P成功を含む25点、9リバウンド、6アシストで日本を勝利に導いた。その後もチームの得点源となり、ブラジル戦を除いた6試合で2本以上の3Pショットを決めており、成功率も41.5%。アメリカとセルビア相手には4本決めていた。

 U19の代表活動後、ジェイコブスは日本代表の合宿に参加し、韓国との強化試合に出場する機会を得た。ワールドカップのメンバーには入れなかったが、今回の代表合宿における競争を勝ち抜いてパリ五輪に出場する機会を得たのは、ハワイ大でプレーした1シーズンでフィジカルを強化できたことが大きい。韓国戦では持ち味であるシュート力を発揮しただけでなく、91kgだった体重が101kgになったことは、リバウンドでの貢献度を上げられた理由の一つと言える。NCAAのワシントン・ステイト大で活躍した経歴を持つジョシュ・ホーキンソンは、ジェイコブスを次のように称賛する。

「昨年のワールドカップ前に彼がチームに加わり、ハワイで経験を積み、身体を鍛えて良くなっているのを見て、本当に誇りに思う。彼は以前よりずっと強くなり、運動能力も向上しているから、それを見るのは本当に励みになる。そして、一昨日は彼のメンタリティに本当に感銘を受けた。特に、最初4〜5本の3Pショットを外したけど、シューターなら打ち続け、次こそ入ると確信して信じるというメンタリティだ。彼は後半にビッグスリーを決め、試合を盛り返してくれた。

 そして、今日も3Pショットを決めたし、リバウンドも本当に印象的で、2試合とも7本を記録した。本当に長いウィングスパンを活かし、リバウンドを奪いに行くことができている。だから、彼がどれだけ成長したかは驚くべきことだと思うし、これからも彼には限界がないと思う。彼は運動能力が高いし、シュートも打てるなど何でもできる。だから、彼が進歩していることや、今後どれだけ高いレベルに到達できるかを見るのは、自分にとって本当に励みになる」

 パリ五輪では渡邊雄太と八村塁がプレーするだけに、ジェイコブスの出場時間は限られたものになるかもしれない。しかし、ふくらはぎを痛めている渡邊のコンディション次第では、初戦の相手であるドイツのオールラウンダー、フランツ・バグナーとのマッチアップを任されることも十分に考えられる。NBAで活躍するビッグネームとのマッチアップはすごいチャレンジになるが、ジェイコブスのメンタリティは変わらない。

「ずっとやってきたことを普通に試合で同じようにすればいいという考えだったので、活躍してもしなくても、自分に自信を持って試合をやっている」

 FIBA U19ワールドカップでの活躍から1年、ジェイコブスがパリ五輪の舞台でさらなる飛躍を遂げるかに注目したい。これが現実になれば、日本代表の未来は明るい。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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