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“斜めから見た”大統領選挙予想=誰が民主党の大統領候補になってもトランプに勝利する可能性は十分ある

中岡望ジャーナリスト
戦う姿勢を崩さないバイデン大統領ー最終決断の日は迫る(写真:ロイター/アフロ)

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■「選挙予測」は当たらない/■バイデン大統領の討論会はそんなに悪かったのか/■急速に民主党内で高まったバイデン大統領に対する撤退圧力/■民主党ポピュリストのサンダース上院議員はバイデン支持/■改めてバイデン勝利の可能性を問う/■何が最終結果を決めることになるのか

■「選挙予測」は当たらない

 最近、専門家も、専門家もどきも、素人も、口を揃えて「もうトランプで決まりですね」とか、「民主党はバイデン大統領に代えて他の候補者を擁立すべきだね」と言う。筆者は、選挙見通しに関して質問されると、「選挙はやってみなければ分からない」と答えることにしている。特に共和党全国大会でトランプ陣営が盛り上がっている最中で、メディアは共和党党大会とトランプ前大統領に焦点を当てている。それに対して、民主党は「バイデン降ろし」を巡って対立している。どう考えても、分裂した民主党のイメージは良くない。共和党が日向にあり、民主党は日陰にある。「トランプ勝利は確実」と思う人が多いのも無理はない。ただ、まだ結論を出すのは早すぎる。

 選挙の結果を決めるのは「無党派層」の動向である。支持政党の候補者が誰であれ、その候補者に投票する忠誠心の強い有権者は、それぞれ有権者の3割いる。残りの4割は「無党派」と呼ばれる。無党派の動向が選挙結果を決める。多くの場合、無党派は選挙が迫ってきて、投票する候補を決める傾向がある。11月の投票日までまだ3カ月余ある。秋口の経済状況や、何等かの突発的な事件が起これば、情勢は一気に変わる。筆者の敬愛するアメリカのエコノミストは「当てずっぽうに言って当たるよりも、理路整然と間違う方が尊い」と言っていた。できるだけ、理路整然と状況を判断してみたい。

 多くの議論は世論調査を基に行われる。世論調査は当たることもあれば、当たらないこともある。調査によっても結果は大きく違う。複数の調査結果を平均したからと言って、予測の精度が高まるわけではない。世論調査が当たるのなら、選挙は形式的なものに過ぎなくなる。世論調査が有権者の投票行動に影響を与える場合もある。分析者の期待値が入ってくる場合もある。世論調査の分析は慎重でなければならない。

 2007年の民主党の大統領予備選挙では、投票が始まる直前までヒラリー・クリントン候補が圧倒的に勝利するというのが大半の予測だった。だが勝利したのは、無名に近かったバラク・オバマ候補であった。2016年の大統領選挙でも、投票1か月前まで、多くの世論調査はヒラリー・クリントン候補の勝利を予想していた。だが勝利したのはドナルド・トランプ候補であった。2022年の中間選挙では、ほとんどの選挙予測は共和党の「赤い波」が押し寄せ、共和党が大勝すると予想したが、下院は僅差で勝利したものの、上院では敗北した。今回の大統領選挙に関して言えば、世論調査では一貫してトランプ前大統領のリードが続いたが、6~7月になってバイデン大統領が盛り返し、見通しは拮抗するまでになっていた。

■バイデン大統領の討論会はそんなに悪かったのか

 バイデン大統領の盛り返しがあったが、トランプ前大統領との討論会で民主党内の風向きが急に変わった。特に『ニューヨーク・タイムズ』を筆頭にリベラル派のメディアが一斉に「バイデン降ろし」のキャンペーンを始めた。同紙はわざわざ社説でバイデン撤退論を主張している。その最大の理由は、バイデン大統領が討論会で冴えなかったことだ。下を向く場面が多く、活舌も悪かったことが、バイデン大統領の「健康問題」と「年齢問題」を呼び起こした。

 2016年の大統領選挙での討論会では、バイデン候補がトランプ候補より良いパーフォーマンスを見せた。それと比べると、今回は、多くの人がバイデン大統領の“衰え”を感じたのは間違いない。ホワイトハウスは「バイデン大統領は風邪気味であった」と説明した。また別荘のキャンプ・デービッドで討論会に備えたが、その疲れが出たとの釈明もあった。「ボクシング選手に試合前に長時間サウナに入れておくようなものだ」と、スタッフの不手際を責める声もあった。

 筆者は討論会を直接見たが、バイデン大統領に対する印象はそれほど悪くはなかった。むしろトランプ前大統領が「多くの嘘」をついていた方が気になった。「なぜ平然と嘘をつく人物が大統領になれるのか」というのが、筆者の正直な印象であった。トランプ前大統領は司会者の質問に誠実に答えない場面が多く見られた。なぜ、それが問題にならないのか不思議に思った。政策論争でもバイデン大統領が負けていたわけではない。両者にとって年齢問題は五十歩百歩である。討論会後の世論調査では「トランプ勝利」の方が多かったが、バイデン大統領を“圧倒する”ほどではなかった。トランプ前大統領にも勢いがなかった。筆者には、9月の2度目の討論会でバイデン大統領は挽回することは十分可能と思われた。

■急速に民主党内で高まったバイデン大統領に対する撤退圧力

 だが討論会が終わるとすぐ、『ニューヨーク・タイムズ』が急先鋒に、「バイデン降ろし」の大キャンペーンが始まった。バイデン大統領は頑なに選挙からの撤退要請を拒否した。記者会見を行い、「神が止めろと言わない限り、選挙運動を続ける」と語った。記者会見に同伴した神父も「神がバイデン大統領の選挙運動を鼓舞した」と同調した。バイデン大統領はカトリック教徒である。やや皮肉を込めて言えば、アメリカの政治は宗教とは切っても切れない関係にあるようだ。

 バイデン大統領がコロナ・ウィルスに感染したことで、「バイデン降ろし」に拍車がかかった。7月19日、アメリカのメディアは、進退に関してバイデン大統領が家族会議を行っていると報じた。バイデン大統領は、最終決定を「神の声」ではなく、「家族の声」を聞いて決めるだろう。

 2024年7月20日の『ニューヨーク・タイムズ』は、バイデン大統領は民主党内の「バイデン降ろし」に激怒していると報じている(「Secluded in Rehoboth, Biden Stews at Allied Pressure to Drop Out of the Race」)。記事は「コロナに感染し、仲間に見捨てられたバイデン大統領は、自分を選挙から追い出そうと仕組まれたキャンぺーンに対して次第に怒りを募らせ、親しい仲間と思っていたオバマ元大統領を含む民主党の人々を苦々しく思っている。バイデン大統領はナンシー・ペロシ元下院議長を主な扇動者とみなし、オバマ元大統領に対しても苛立っている。オバマ元大統領が舞台裏で人形を操っている主役だと見ている」と書いている。

 バイデン大統領の実質的な運命は大口の献金者の決定に掛かっている。7月初旬に大口献金者75名がZoomで、今後の対応について話し合いをした。出席者の74人はトランプ前大統領に勝つためにはバイデン大統領が撤退する必要があると発言している。バイデン大統領を支持したのはわずか1人であった。大口献金者は民主党議員にバイデン大統領に選挙を断念させるよう説得することを求めた。バイデン大統領があくまで選挙運動を続けるなら、献金を中止すると主張している。バイデン大統領の側近は「大統領は献金者の意見をあまり気にしていない」と語っている。そうはいえ、兵糧攻めは時間と共に確実に効いてくる。選挙資金が枯渇すれば、運動を継続できない。ちなみにクリントン夫妻は大口献金者にバイデン大統領への献金を続けるように訴えている。

 問題は時間がないことだ。8月19日から民主党全国大会が開催され、正式に党の大統領候補が承認される。予備選挙ではバイデン大統領が圧倒的な勝利を収めている。手続的に言えば、バイデン大統領が自ら辞退しない限り、誰もバイデン大統領を引き降ろすことはできない。ただバイデン大統領の最終決断のタイムリミットは近づいている。バイデン側近から「発表のタイミングと場所を検討している」との声も聞こえてくる。さらに最有力の後継者と見られるハリス副大統領のイベントのチケットは売り切れが続出しているという(CNBC, 7月18日、「Democratic megadonors push Biden to quit race, as Kamara Harris events fill up」)。大統領の意図とは関わりなく、周囲は動いている。

 バイデン大統領は14日に「来週、(コロナによる隔離がとけたら)選挙運動に復帰し、トランプ氏の『プロジェクト2025』の脅威を暴露し続ける。民主主義を救い、国民の権利と自由を守り、すべての人に機会を創出するという私のビジョンを訴える」と、意欲満々の発言を行っている。21日の日曜日に療養を終え、ホワイトハウスに戻り、選挙運動を再開するとしている。24日に「公民権法」60周年の記念行事でテキサス州オースチンのジョンソン大統領図書館を訪れる予定も組まれている。

 「神の声」あるいは「家族の声」が、いつバイデン大統領の耳に届くか分からない。もう一つの声がある。それは「有権者の声」である。CNNの世論調査(7月2日、「Most voters think Democrats have a better chance of Keeping White House if Biden isn’t the nominee」)では、民主党支持者の56%がバイデン以外の人物の方が選挙で勝利する可能性が高いと答え、43%がバイデン大統領の方が勝つチャンスが大きいと答えている。バイデン大統領がどの声に耳をかたむけるかは分からない。

 NBCニュースは、バイデン大統領が家族と話し合いをしていると伝えている。家族は、バイデン大統領が選挙から撤退する方が民主党にとって好ましいと認めているとの情報もある。他方、バイデン大統領はまだ自分が勝利する可能性があると語っているとの報道もある。

 報道は錯綜している。時間は確実に過ぎていく。おそくとも8月初めまでには、バイデンで行くのか、新しい候補者を擁立するのか、決めなければならない。そして党の分裂を克服し、候補者のもとで民主党は団結する必要がある。

■民主党ポピュリストのサンダース上院議員はバイデン支持

 筆者は民主党の「バイデン降ろし」は「党エスタブリッシュメント」と「ポピュリスト」の対立だと理解している。バイデン大統領に撤退を迫っているのは、ペロシ元下院議長、ジェフリー民主党下院院内総務、シューマー民主党院内総務、オバマ元大統領などの党エスタブリッシュメントと選挙で苦戦を強いられている民主党の候補者である。

 これに対して党内のポピュリストを代表するバーニー・サンダース上院議員は7月13日に『ニューヨーク・タイムズ』に「Joe Biden for President(ジョー・バイデンを大統領に)」と題する記事を寄稿している。その中で「私はバイデン大統領が再選を果たすように全力を尽くす。理由は、特定の問題に関して私と大統領の意見に相違はあるが、バイデン大統領は我が国の歴史において最も有能な大統領であり、扇動的で嘘つきなトランプ氏を倒す最強の候補者である」とバイデン支持を宣言している。「この2週間以上、メディアは6月の大統領討論会と、世界で最も困難で、ストレスの多い仕事に就いている人間の認知力に執拗に焦点を当ててきた。残念なことに、あまりにも多くの民主党員が銃殺隊に加わっている」と嘆いている。

 続けて、「私はバイデン大統領が高齢で失言しやすく、歩き方がぎくしゃくしていること、トランプ氏と悲惨な討論をしたことは知っている。しかし大統領選挙はエンターテインメントのコンテストではない。90分の討論で始まったり、終わったりするものではない。バイデン大統領は理想的な候補者ではないかもしれないが、彼は候補者であり、候補者でなければならない。働く家族に訴えかける有効な選挙運動を行えば、彼はトランプ氏を完膚なきまで打ち負かすだろう。民主党員は内輪もめをしている場合ではない」と主張している。

 さらにバイデン支持の理由として、バイデン政権の政策を挙げている。政権発足直後に成立させた「アメリカ救済法」は、「経済学者が予想しているよりも早くコロナ感染下のアメリカ経済を再建した。アメリカ国民を職場に復帰させ、絶望した親たちに現金給付を提供し、中小企業、病院、学校を守った」と指摘している。「インフラ投資法」も「インフラ再建に、これまで以上の資金を投入し、数百万人に高収入の雇用を創出した」と書いている。政策の成果を列挙し、「バイデン大統領が選挙に勝つためには、今までの成果を誇るだけではなく、大多数の国民のニーズに答えるような大胆な政策を打ち出し、そのために戦うべきだ」と主張している。「バイデン大統領が中西部のスイング州(激戦州)の労働者を味方に結集できれば、11月に勝利するだろう」と、バイデン大統領支持を呼び掛けている。

 若手のポピュリストを代表するアレクサンドラ・オカシオ・コルテス下院議員は、7月19日にインスタグラムに投稿し、バイデン大統領を擁護した(NBC News, 2024年7月20日、「AOC slams media ‘craziness’ surrounding Biden drop out speculation」)。エスタブリッシュメントが進める「バイデン降ろし」を巡るメディアの報道を「狂気である」と批判している。さらに同議員は、今後数日間に何が起こるか分からないと認めた上で、「バイデン降ろし」は「有権者である国民の利益のために行動していない議会外の有力者が行っていることだ」と、その正当性を否定している。そして「党員は、こうした人々が提案している内容の現実と重大性を理解すべきだ」と主張している。同議員は、メディアに匿名で情報を流している党幹部を激しく批判している。

■改めてバイデン勝利の可能性を問う

 PBSニュースが、NPRとマリスト世論調査と共同で行った調査結果を発表している(2024年7月12日、「These 3 Democrats didn’t do better than Biden in this poll」)。

 PBSニュースは「今日、選挙が行われた場合、登録有権者の50%がバイデン大統領を支持すると答えたのに対し、48%はトランプに投票すると答えており、両者の差は誤差範囲である」、「調査結果はバイデン大統領にまだ選挙で勝てる可能性はあることを示している。バイデン大統領に必要なのは、彼に投票しようとしている人に、自分は勝てると説得することだ」と書いている。この調査は、バイデン・トランプ討論会の後に実施されたものであり、討論でのパーフォーマンスは有権者にあまり影響を与えていないことを示している。「バイデン降ろし」を図る党幹部と有権者の間に大きなイメージ・ギャップが存在している。

 また同調査では、「今日、選挙が行われ、ハリス副大統領がバイデン大統領に代わって出馬した場合、回答者の50%がハリス副大統領に投票すると答え、49%がトランプ氏に投票する」と書いている。ちなみに7月18日に行われたNATO会議後の記者会見で、バイデン大統領はハリス副大統領に関して、「もし彼女に大統領になる資格がなければ、私は彼女を副大統領には選ばなかっただろう」という含みのある発言をしている。

 選挙予測で有名な「FiveThirtyEight」は7月21日に「トランプとバイデンはほぼ互角である(Trump and Biden have about an even chance to win)」と題する調査報告を掲載している。具体的には、トランプ勝利の確立は51%、バイデン勝利の確率は49%であると指摘している。この差は誤差範囲である。

 選挙結果を決める「激戦州」7州(ペンシルバニア州、ウィスコンシン州、ネバダ州、ミシガン州、ジョージア州、アリゾナ州、ノース・カロライナ州)のうち、現在、世論調査でトランプ前大統領が5州でリードしている。前回の大統領選挙では、ノース・カロライナ州以外ではバイデン候補が勝利している。だが今回は、バイデン大統領は激戦州で苦戦を強いられ、それがバイデン当選確率を下げている。もしバイデン大統領がウィスコンシン州とジョージア州で盛り返せば、選挙は大激戦の様相を呈することになるだろう。

 なお2020年の大統領選挙では、バイデン候補は26州で勝利し、トランプ候補は25州で勝利している(ワシントンDCを含めた数)。得票数はバイデン候補が8128万3501票(全体の51.3%)、トランプが7422万3975票(46.8%)、選挙人はバイデンが306、トランプが232であった。大統領選挙の度に民主党候補と共和党候補が変わるのが「激戦州(swing stated)」である。こうした州の動向が選挙に決定的な影響を与える。前回の選挙ではバイデンが勝利した。現状ではトランプが有利に選挙運動を進めている。だが、こうした州が最終的にどう動くかは予測しがたい。バイデン大統領が巻き返す可能性は残っている。

■何が最終結果を決めることになるのか

 今までは選挙を取り巻く状況を説明してきた。これから筆者が重要と思われるポイントを整理する。

 最大のポイントは「投票率」がどうなるかである。2020年の大統領選挙の投票率は史上最高になった。これには2つの要因がある。ひとつは、多くの有権者が「トランプ再選を阻止」するために投票所に足を運んだことだ。もうひとつは、コロナ感染の関係で、郵便投票や期限前投票が積極的に推奨され、投票率を高めた。トランプ陣営は、こうした措置が「不正である」と主張し、トランプ派が連邦議会に乱入するという事件に繋がった。

 今回、同じような「反トランプ」の動きがでてくるかどうかである。バイデン大統領は、トランプ前大統領は権威主義的な指導者を目指し、民主主義の脅威になっていると主張している。それが反トランプ派の危機感を煽り、動員に結びつくかどうかである。

 トランプ陣営も、こうしたトランプ前大統領が民主主義の脅威だという批判を気にしている。そうしたイメージを払拭しようと必死である。シンクタンクのヘリテージ・ファンデーションは『プロジェクト2025』とい政策案を発表している。それはトランプ前大統領の政策の基礎になると考えられている。そこで提案されている政策は、権威的政権の樹立である。共和党全国大会では、トランプ陣営は『プロジェクト2025』はトランプ前大統領の政策とは無関係だと主張を展開している。

 同時に2022年の中間選挙で共和党の不振の最大の要因は「中絶問題」であった。共和党は中絶禁止を州レベルから国レベルへ引き上げることを主張し、多くの女性票を失った。この反省から、共和党の政策綱領では中絶問題に関してトーン・ダウンをしている。トランプ前大統領も、極めて“ソフトな姿勢”をアピールしている。いわば「強権的トランプ隠し」を画策している。ただトランプ前大統領が中絶問題など、エバンジェルカルが強硬に主張する政策で後退すれば、保守派の反発を招くことになるだろう。

 同時に、そうしたトランプ前大統領の姿勢の変化は、無党派層へのアピールを狙ったものである。共和党の支持層だけでは選挙に勝てない、無党派層の支持が不可欠である。「ソフトなトランプ」を強調することで、無党派層の票の確保を狙っている。ただ、共和党はもはや多様な支持層に支えられた「国民政党」ではなく、保守派キリスト教徒の白人エバンジェリカルが支配する「宗教政党」の色合いが強くなっている。今回の党大会で、その傾向が一層鮮明になった。こうした状況に対して、無党派層がどう反応するかが、選挙結果を決める大きな要因となる。

 もうひとつのポイントは、どちらの候補が「より嫌われているか」である。世論調査では、両候補が嫌いだという回答が最も多い。「どちらの候補を支持するか」ではなく、「どちらの候補を大統領にしたくないか」が、投票を決めることになるだろう。

 選挙戦終盤になると、候補者のイメージより、具体的な政策が問題となる。選挙運動の様子がかなり変わってくるだろう。さらにハリス副大統領が出馬することになれば、情勢は一変するだろう。これは筆者の直感であるが、「ハリス・ブーム」が起こる可能性がある。トランプ陣営は、バイデン大統領の方が組みやすいと見ている。

 最初に書いたように、「選挙はやってみなければ分からない」。しかし、一部の専門家や専門家まがい、素人が語るように、「トランプで決まり」という状況ではない。まだ、当確を出すのは早すぎる。それが、筆者が考える理論的な筋道である。

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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