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医療崩壊の次は、行政崩壊? ~ 新型コロナだけではない危機

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:maroke/イメージマート)

・「自衛官だけだと思っていた」

 猛威を振るう新型コロナウイルスのニュースばかりが聞こえてくる。しかし、昨年から今年にかけて、鳥インフルエンザ、豚コレラの感染拡大も大きな問題になっている。

 1月11日には、千葉県で同県でこの冬2例目となる鳥インフルエンザが確認された。さらに、13日には、鹿児島県で全国では今シーズン15県目となる鳥インフルエンザが確認された。殺処分される鶏の数は、千葉県で約114万羽、鹿児島県で約3万3千羽に上る。

 鳥インフルエンザだけではなく、豚コレラ(豚熱)も感染が各地で確認されている。12月25日には、山形県で感染が確認され、約1300頭が殺処分に、さらに29日には、三重県で豚コレラが確認され、約7000頭が殺処分された。

 こうした報道をテレビなどのニュース映像で見た人は多いだろう。防護服に身を包んで、殺処分をする作業員の姿が映し出される。こうした作業に従事しているのが、全て自衛隊員だと思っている人は多い。

 「そうなんですよね。自衛隊の出動が要請されたということは報道されますから。しかし、実はこうした殺処分の作業には、多くの自治体職員が動員されています。」関西地方のある自治体職員が話します。「各部署から動員されて、殺処分に行きます。普段はデスクワークをしている普通の事務職員です。鳥や豚を殺し、埋める作業で、体調を崩したり、精神的にも体力的にも参ってしまう人も少なくありません。」

 防疫業務は、各都道府県の仕事である。公開されている愛媛県の「鳥インフルエンザ発生時における県職員緊急動員マニュアル(平成28年度版)」によると、採卵を行う養鶏場の場合、中規模であっても、殺処分を行う2日間で動員されるのは延べ986名。動員される部局職員の約70%に及ぶ。自衛隊の動員は、あくまで大規模になり、県職員だけでは対応できない場合の補助としてなのだ。この結果、都道府県庁の通常業務に大きな負担となる。こうした事実は、あまり知られていない。

・新型コロナウイルス対応で、すでに人員不足に

 首都圏のある自治体職員は、「新型コロナ感染拡大で混乱しているのは、医療現場や保健所だけではなく、その後方支援を行っている役所の窓口もです。当然ながら、各部署から保健所や保健福祉関係の部局に応援を出していますから、その分、各部署はぎりぎりの人員でやっています」と言う。

 さらに、各地方自治体による給付金や協力金などの支給にも職員が動員されている。こうした給付金や協力金の支給にあたっては、膨大な事務作業が必要となる。こうした作業には、臨時の窓口が設けられ、自治体の各部署から作業員が動員される。

 「新型コロナの感染拡大で、その臨時対応に各部署とも人員を取られている。この状態で、鳥インフルエンザや豚コレラが発生したことを考えると、恐ろしい」とある自治体の管理職の男性は話す。「臨時職員の雇用など、一時的にでも人員を確保しなければ、機能不全に陥る可能性が出てきている」と危機感を持っている。

 作業を行う人員が不足すれば、給付金や協力金の支給にさらなる時間がかかり、事業者の支援が間に合わなくなる可能性もある。昨年の一回目の緊急事態宣言時よりも、多くの企業や事業者の資金状態が悪化しており、遅れは、そのまま被害拡大となる。

・緊急事態として「行政崩壊」に備えよ

 「事業者に対して一律の給付金や協力金」が、大きな問題となっている。個人事業者にとっては良いが、中堅や大手事業者にとっては不足である。この一律支給という発想は、作業時間の短縮と作業負担の軽減からやむを得ず選択された。流行の第一波の時は、それもある程度、受け入れられた。

 二回目の緊急事態宣言となり、それによる不公平感や危機感は、日増しに大きくなっている。事業規模や損害割合に応じた補償を求める声が高くなっている。ところが、そうした作業に充分な人員が配置されていないと言う問題がある。「多くの公務員がいるはずだという政治家は、現場を見に行き、話を聞くべきだ。鳥インフルエンザなどは、徐々に拡大しており、時限爆弾を抱えているような状況だ。」先の自治体職員はそう言う。

 誰でもできるというわけではないが、医師や看護師に比較すれば、臨時職員の確保は容易である。地方自治体は、すでにその多くが余剰金である財政調整金を失いつつある。こうした臨時職員の給与などを政府が用意することも対策の一つだ。

 さらに、平常時は地方自治体の業務とされている部分に対しても、緊急事態であることを考慮し、政府の各省庁の地方局などが一部業務の代替、人員派遣なども検討すべき段階だろう。従来の発想とは異なった思い切った支援策が必要だ。

 新型コロナウイルス対策の最前線である医療現場はもちろんのこと、後方支援部隊である地方自治体の行政部門への支援も、その機能が崩壊する前に、現段階で充実を検討すべき段階だ。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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