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自粛解除はいつ、どのように? 満たすべき出口戦略の7基準とNY知事の「北風と太陽」作戦

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
クオモ知事が定例会見を行う州議会議事堂前でロックダウン解除を求めたデモ。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク州では5月4日、1日の死者が226人となった。この数は5週間で最低値だ。州では1ヵ月前の最悪期に、1日の死者が700人を超える日が6日間続いた時期もあった。

重症の入院患者数が減る中で、クオモ州知事が毎日開く記者会見で再三語っているのは、経済活動再開をいつ、どのようにするか、ということだ。

3月22日以降ロックダウン(外出制限)となっているニューヨークでは、その期限は当初4月19日だった。しかし途中で4月29日まで延長され、現在は5月15日までとなっている。

となると、今のような不自由な生活はあと10日間ということか?

経済活動再開へ向けた出口戦略について、クオモ知事はこの日、州内を10地域に分け、それぞれに適応される自粛解除計画のために満たすべき「7つの基準」を明示した。

  1. (コロナ関連の)入院患者数が14日間減少、もしくは3日間の平均が1日につき15人未満になること
  2. (入院患者数の中からの)コロナ関連の死者数が14日間減少、もしくは3日間の平均が1日につき5人未満になること
  3. 1日あたり新規入院者が、3日間の平均で10万人あたり2人未満になること
  4. PPEの備蓄が少なくとも90日分あり、病院の病床数に少なくとも30%の空きがあること
  5. PPEの備蓄が少なくとも90日分あり、集中治療室の病床数に少なくとも30%の空きがあること
  6. 住民1000人あたり、7日間平均として、少なくとも30検査/月が実施されること
  7. 住民10万人あたり、少なくとも30人の濃厚接触者の追跡調査を行うこと
クオモ知事の定例会見資料より。
クオモ知事の定例会見資料より。

クオモ知事はシンガポールやドイツなど他国の失敗例を紹介しながら、再三「命よりも大切なものはない」として、経済再開の時期を慎重に決め、計画を進める意向を示してきた。

知事によると州内北部や中部など一部の地域はこれら「見える化」された7つの基準のうちすでに5つ(緑色部分)を満たしており、すべての基準を満たすのも時間の問題とのこと。ただし被害の1番大きいニューヨーク市は、上記項目1、2、6の3つしか満たしておらず、すべての経済活動再開=日常生活に近い状態になるまで、しばらく時間がかかりそうだ。

また、経済活動再開は一気に行われるのではなく「段階的に」進められる。

  1. 生活に不可欠なエッセンシャル度が高く
  2. 感染リスクの低い業種

が優先され、その逆(エッセンシャル度が低く、感染リスクの高い)業種は、再開まで時間がかかりそうだ。

活動再開の業種の第1フェーズは建築業と製造業。第2フェーズは小売業、不動産業。第3フェーズは外食産業やホテル業。第4フェーズは芸術、娯楽、エンターテインメント業となる。

日本では大阪府の吉村洋文知事が、自粛を解除するための解除基準を「見える化」し、独自の大阪モデルを公表した。ニューヨークのクオモ知事が試むスタンスと非常に似ており、今後の行方が期待される。

アメリカ全体では?

全米で、すでに再開している州とまだロックダウンしている州

See Which States Are Reopening and Which Are Still Shut Down

5月11日までに31の州で、経済活動再開のため社会的距離の確保が緩められるとされている。しかしそれに伴う代償は大きい。トランプ政権は1ヵ月後の6月上旬、国内で1日の死者数が3000人に増加すると予想している(現在は平均1750人/日)

Coronavirus Live Updates: As States Move to Reopen, Trump Administration Privately Predicts Deaths Will Rise

NY州、実効再生産数は0.8に

Transmission Rate(感染率=実効再生産数)は現在0.8以下まで下がっている。
Transmission Rate(感染率=実効再生産数)は現在0.8以下まで下がっている。

最悪期には1.4だったInfection/Transmission Rate(感染率=実効再生産数)。1ヵ月間のロックダウン(外出制限)の成果として、この数字が0.9まで下がったことが発表されていたが、先月26日には新たに州北部(アップステート)は0.9を維持、州南部(ダウンステート)は0.75まで下がっていることも発表されている。

これについて知事は「It(コロナウイルス)が勝手に下げてくれたのではない、We(我ら)がそのような結果をもたらした」という言葉で、外出制限やソーシャルディスタンシング、マスク着用などに従った人々やエッセンシャルワーカー1人ひとりを評価し、感謝の気持ちを示した。

今後の行方も「We」の努力にかかっている。

「GWはがまんのウイークです」(神奈川知事)

「データを開示しなぜそれが必要か考えてもらう」(NY知事)

クオモ知事は先日、「ロックダウンを決めた時に、州の人口1950万人すべてがおとなしく家でじっとできるとは到底思えなかった。だからこそ、毎日の会見でデータ、数字という『事実を』開示し、なぜ自宅待機が必要なのか、それぞれに考えてもらうことにした」と語った。また知事は「ニューヨーカーとはタフで、賢く、結束力があり、忍耐強く、愛=思いやりがある」というスローガンを何度も何度も会見を通して、人々に繰り返し訴えかけている。

ここに住む人々が毎日午後7時から未だに1日も欠かさず、自室の窓から拍手と声援を送り続ける行動を通し、知事の思いが全員とは言わないまでも多くの人々に伝わっていることを感じる。目に見えない敵に勝つには、結束してこそというのを、ここの人々は心から理解している。

一方、神奈川県の黒岩祐治知事がゴールデンウィーク中の外出自粛をお願いするために送った緊急速報メールには、こう書かれていたそうだ。「GWはがまんのウイークです」。私は「我慢」という言葉を聞き、日本の戦時中のスローガン「欲しがりません勝つまでは」を思い出した。世界中で長期戦が予想されるウイルス戦争とそれに伴う経済復活戦略に向け、辛くネガティブな気持ちのままで今後も闘い続けていけるだろうか?

クオモ知事が行なっているのは、まさしくイソップ寓話の「北風と太陽作戦」だと思った。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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