二地域居住・多地域居住に関する人々の意識は?…「次世代政策デザイン研究所」の三ツ石代表に伺う
近年、特にこの10年ぐらい、ワーク・ライフ・バランスに関する意識変化、働き方改革、コロナ禍によるリモートワークの普及、テクノロジーの急速な発展および進展などによって、人々のライフスタイルや居住の仕方などが大きく変化してきた。そのために、時間と場所にとらわれないノマド的な働き方をすることや複数の居住地で生活しながら仕事や活動をすることができるようになり、実際にそのようなライフスタイルをとる方も増えてきた。
そのようななかで、民主導の自律的な経済社会の発展を目指し、規制改革等を推進する(一社)次世代政策デザイン研究所が、2024年12月15日(日)から22日まで、「二地域居住・多地域居住に関する意識調査」をインターネット上で実施した。
そこで本記事では、同研究所の代表理事の三ツ石將嗣さんに、その調査およびその成果などについて、お話を伺った。
(一社)次世代政策デザイン研究所について
鈴木(以下、S):まず(一社)次世代政策デザイン研究所について教えてください。
三ツ石將嗣さん(以下、三ツ石さん):当研究所は、一言で言うと、「未来のために政策をDIYしよう」(注1)という団体です。
「デジタルと協力のテクノロジーで『分断』と『失われた30年』を乗り越え、次世代に自信をもって引き継げる魅力的な経済社会をデザインする」というミッションを掲げて、2024年7月に設立しました。
世の中が複雑化し、不確実性が高まる中で、社会課題が多様化し、現場の「お困りごと」などが急激に増えてきています。それらの問題や課題を解決していく際に、全てをお上に任せにしてしまうのではなく、民が自分ごととして現場の知恵と経験を活かし、関係者と自律的に対話・連携しながら、政策づくり・規制改革に参画する必要があります。また私たちの方が現場に近いところにいるので、そこでの問題をより的確に理解し、より実態に即した解決策を構築できる可能性もあります
私たちは、それを楽しみながら続けていきたいと思っています。会員の皆様の声をもとに、複数のメンバーが共通して取り組みたい課題があればプロジェクトチームを立ち上げ、政策提言づくりやその提言の実現に向けた活動、あるいは社会実装の支援を進めていきます。
現在は、主にコロナ後の持続可能な観光立国の実現にむけた「観光立国4.0」プロジェクトと今回意識調査を行った二地域居住等推進プロジェクトチームが動いています。
アンケート調査の実施の理由とは
S:なるほど。では、なぜ「二地域居住・多地域居住に関する意識調査」に関するアンケート調査を実施されたのですか?
三ツ石さん:先ほど申し上げたように、二地域居住の推進をやりたいというメンバーが集まっていたので、プロジェクトチームを立ち上げることになったのです。そのメンバーの思いは、自分や子どもたちなどに対してできるだけ多くの人の生き方・働き方の選択肢を増やしたいとか、自分の好きな故郷に「ただいま」「おかえり」という感じでやって来る人を増やしたいとか、人それぞれではありますが。
回りを見渡すと、ちょうど石破内閣になって「地方創生2.0」の中で、「二地域居住」が一気に注目を集めるようになりました。2024年の通常国会で「二地域居住促進法(広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律)」が成立、同年11月に施行され、政府も取り組みに本腰を入れています。全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームという国・地方、官民も入った推進体制も出来ています。政策の定番メニューとしてはほとんど出尽くしているように見えます。
ただ、なんかしっくり来ないしどうもまだ国民的な議論になっていないのはなぜだろう?と悩んでいたのです。そんなときに、しばらく考えてハタと思い当たったのは「あれ、いま二地域居住をしている当事者や二地域居住をしたいと思っている人の生の声はどうなのかな?」ということでした。
アンケート調査について
S:どのようなアンケート調査をされたのですか?
三ツ石さん:はい。2024年12月15日(日)から22日(日)までインターネット上で実施し、161名の方にご回答頂きました。
アンケートでは、回答した皆様の現在の住民票がある住所地と年齢(年代)を伺った上で、二地域居住の経験があるか、経験はないけど関心はあるのか、それとも関心がないのかを伺いました。
その上で、経験がある方には、他にどこを拠点としていたか、二地域居住で実感したメリット・課題、課題はどうやって解決したかを伺いました。関心がある方には二地域居住に感じる魅力・不安について経験者と同じ選択肢で伺いました。
さらに、二地域居住を推進するために国や地方にはどのような取り組みをしてもらいたいか、ビジネスパートナーはどんな取り組みをしてもらいたいかについても伺っています。
アンケート調査の成果は?
S:同調査の結果とそのポイントは何ですか?
三ツ石さん:回答者のうち、二地域居住の経験者は34%、関心はあるが未経験は61%、「関心がない」が5%で、二地域居住の経験者や関心がある方々が多く回答してくださいました。
この調査のポイントは、実際の二地域居住には都市から地方への一方的な流れではなく、地方-都市、都市-都市、地方-地方など様々なパターンがあったことです。宮城と東京もあれば、東京と大阪も、宮城と青森、秋田と海外と言うパターンもありました。
また、都市生活と田舎暮らしの豊かな二重生活という昔ながらのイメージの二地域居住だけではなく、ICTの進展に伴って場所に縛られずに仕事をしながら長期滞在で地域の魅力を深掘りするデジタルノマド的な人もいれば(注2)、行く先々でビジネスを立上げる人もいらっしゃる。団塊の世代が後期高齢者になり医療介護が大変になる「2025年問題」(注3)というのがありますが、親の介護関係での必要に迫られて二地域居住という方も複数いらっしゃいました。
また、経験者が実感したメリットとしては「新しい人々との出会いが増える」が一番多かった(72%)のに対し、未経験者が感じる魅力が「土地と地方の良いところを両方享受できる」が一番多かった(67%)です。二地域居住未経験者が都市生活と田舎暮らしの豊かな二重生活という昔ながらの二地域居住を多くイメージされているのだろうなと。経験者は新しい人との出会いを求める積極的な人が多いのかもしれないし、様々な経験を通じて印象に残るのは人との出会いのありがたさかもしれないなと思いました。
二地域居住の問題としては経験者・未経験者ともに「地域間を移動するのにお金や時間・体力がかかる」の回答が一番多かったです(経験者83%、未経験者77%)。
二地域居住の促進にあたり国に期待する支援は「地域間における移動のコストの補助」(57%)、地方政府に期待する支援として「住居のコストの補助」(53%)が多かった。一方で、自由回答では、「行政がすべきは補助ではない」という意見もありました。
また、国・地方の政府双方に対して、「住民票がない地域でも保育や教育などの住民サービスを受けられるようにする」を期待するという回答が多かったです(国53%、地方55%)。
その他自由回答では、二地域居住は画一的にやるのではなく、やりたい人・やりたい地域がやれる選択肢の拡大として進めるべきといった意見がありました。
当事者には個別の事情があるなかで地域が取り組むべきこととしては、プロモーションや補助金よりも、外部から人を呼び込み関係性を作っていこうという地域側の意識や意欲の変革であること、また地域に興味を持ってくれた人を地域の関係人口にまでしていく取り組みの鍵となるのは、人と人を結びつけるコミュニティマネージャー(注4)や地域に根ざした自営業者等による関係性の構築である、といった意見もありました。
国に求めることとしては、先行事例の創出、住民票・納税制度の見直し、教育制度その他の制度改革を求める回答がありました。
貴研究所の今後の活動は?
S:貴研究所は、その調査の結果を踏まえて、今後どのような活動などをされる予定ですか?その成果をどのような場や対象に提案したり、訴えていくのですか?
三ツ石さん:私たち次世代政策デザイン研究所が大事にしたいのは、政策の対象や担い手となる当事者の視点です。そして私たちの想像力の及ぶ範囲にはなりますが、「フューチャー・デザイン」(注5)的に未来の当事者の視点も取り入れていきたいと思っています。
そのために、二地域居住の推進体制として全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームにも参画し、これからの二地域居住の推進策に、当事者の視点に基づいた私たちの意見を反映させていきたいと思います。
また、私たち自身も、当事者の視点を活かしながら、意欲的な地域の人々と結びついて、人とつながりながら新たな生活を切り拓こうとする人々が地元の人たちと持続可能な地域社会を共創していく、そんな先進的な事例のお手伝いを行うことが出来ればと思っています。
日本社会へのメッセージ
S:三ツ石さんの読者や日本社会へのメッセージをいただければと思います。
三ツ石さん:今回の意識調査の内情を少し暴露しますと、今回のアンケートはどうしても皆さんが年末年始のお休みに入るまでに調査を終えたかったこともあり、設問と選択肢はほとんど生成AIに作ってもらったものです。なので、アンケートに答えた人からも指摘があったのですが、文章表現が良く言えば最大公約数的、悪く言えば曖昧なものに感じられるところもありました。そして、回答が集まり始めるなかで気づいたのですが、選択肢はおそらく生成AIが回答が多いと思う順番で作成しており、上から並べられているんですね。
ただ、それは生成AIの事前学習の結果の範囲であって、実際にアンケートの集計結果を見てみると(報告書本体はリンク先のページからダウンロード出来ます)、上から回答が多い順にきれいに並んでいるところもあれば、そうでないところもある。そして、そうでない「外れ」が多かったのは、「新しい人との出会いが増える」という人と人との関係性とその喜び、そして、「地域間を移動する際にお金や時間・体力がかかる」という人の痛みではないかと思ったときに、私はとても胸が熱くなりました。
私たち次世代政策デザイン研究所は、政策はお上任せという状態や環境から脱却し、現場感覚、当事者意識をもつ民間人が自律的に政策形成に関わる場を作り、イノベーションと政策人材の育成を加速させたいと考えています。そして現在、私たち以外にも様々な方法・分野で、民間主導で政策形成を進めようという動きも出ています。
この記事の読者の皆さんには、こうした機会を捉え、私たちの研究所の活動に関わることも含めて、自分に合った方法で民間主導のルールメイキングにご参画いただければ幸いです。お上任せにしていたら「官主導」がいつの間にか「AI主導」に置き換わってしまう前に、皆様とともに「分断」と「失われた30年」を乗り越え、民主導の自律的な経済社会を実現したいと思います。
S:本日は、ありがとうございました。三ツ石さんや次世代政策デザイン研究所の活動やその成果に期待しています。
(1) DIYについては、次の記事等参照のこと。
・「DIYの意味とは何?今更聞けない本当に意味を解説!日曜大工とは違う?」(Kurashi-no、2021年2月3日)
(注2)デジタルノマドについては、次の記事を参照のこと。
・「ホームデジタルノマドノマドとは? ノマドの意味とノマド生活の実態」(ザ:デジタルノマド・ジャパン、2024年12月23日)
(注3)医療介護における2025年問題とは、「団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護などの社会保障費の増大が懸念される問題」とのことです。詳しくは、「2025年問題とは何か?図解でわかりやすく解説します」(出典:いちばんやさしい終活ガイド、2020/05/12)等参照のこと。
(注4)「コミュニティマネージャー」については、次の記事等を参照のこと。
・「コミュニティマネージャーとは?役割や仕事内容、必要なスキルを紹介」(SHE shares、2023年11月29日)
・「新たなる「コミュニティ」:社会や働き方が大きく変わるなか、新しい可能性を生み、重要性を高めている」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2024年5月18日)
(注5)フューチャー・デザインについては、次の記事等を参照のこと。
・「フューチャー・デザインとは? 未来の自分になりきって「今やるべきこと」を導き出す」(shiruto、2024年11月14日)
インタビュー対象者紹介
三ツ石將嗣さん 次世代政策デザイン研究所代表理事
1974年鹿児島県生まれ。1999年に東京大学法学卒業後、経団連事務局入局。
経団連では、消費者法や会社法制等の経済法制、企業倫理・CSR(企業の社会的責任)、EPA(包括経済連携協定)、政党の政策評価、防災、農政、地方創生、規制改革、被災地支援、観光立国、コンテンツ産業、国家ブランド戦略等を担当。2016年に経団連事務局を退職後、(株)温泉道場、(一社)埼玉県物産観光協会等を経て現職。2007年に「若手・中堅による政策勉強会」を立上げ、2024年12月までに計162回の勉強会等を企画開催。2024年7月、(一社)次世代政策デザイン研究所を設立、代表理事に就任。(一社)観光立国プラットフォーム理事就任。著書(共著)に『会社運営の主体で読む改正商法ハンドブック』(清文社、2002)