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「地元にスケートパークを」 熊本のスケーターらがスケートボード普及をめざす団体設立

田中森士ライター・元新聞記者
署名活動の発起人で「熊本県スケートボード協会」理事の奥脇さん(筆者撮影)

「地元にスケートパークを」ー。熊本のスケートボード愛好者(スケーター)らが今年5月、スケボーの普及を目指す一般社団法人「熊本県スケートボード協会」を立ち上げた。同協会によると、熊本市内にスケボーを楽しめる施設はないといい、今後、公営のスケートボード場(スケートパーク)の設置を、市側に求めていく。協会設立前に集めた署名は約7000人分。協会理事で署名活動の発起人、奥脇賢二さん(40)は、「最近熊本の街に元気がない。地元を盛り上げるためにも全力で取り組みたい」と話している。

集まった7000人分の署名

「このデッキ(スケボーの板)どうすか?」。「サイズも体に合ってるし、いいと思うよ」。ある平日の昼下がり。熊本市中央区のスケボーショップで、奥脇さんは次々と訪れるスケーターらの接客にあたっていた。

スケーターにデッキの説明をする奥脇さん(右、筆者撮影)
スケーターにデッキの説明をする奥脇さん(右、筆者撮影)

このショップのオーナーでもある奥脇さんは、スケボー歴28年。地元スケーターらからは「ジュリーさん」と慕われており、熊本スケボー界の中心人物だ。

奥脇さんのもとには、数年ほど前から「子供がスケボーを始めたい言っているが、どこで習えばよいのか」との相談が寄せられるようになった。しかしながら、市内にはスケートパークもスクールも存在しない。そこで、奥脇さんは2015年、市にスケートパーク設置を求める署名を、スケーター仲間らと集め始めた。署名活動は2016年2月まで続けられ、約7000人分が集まった。

市や市議会への請願準備を進めようとしていたところ、熊本地震が発生。「皆スケボーどころではなくなった」(奥脇さん)といい、まずは生活の立て直しにあたった。そんな中、昨年8月、スケボーが東京五輪の正式種目に選ばれたとのニュースが飛び込んできた。「スケボーの認知度が上がる」と喜んだ。しかし、被災地の多くの家屋は、屋根にブルーシートがかかっている状態だった。スケボーを楽しむ雰囲気ではなかった。

復興が進んだ影響か、今年に入ったあたりから、再び「スケボーを始めたい」との相談が増えてきた。奥脇さんにも2歳の息子がいる。親の気持ちは痛いほど分かる。「子供も大人も安心して滑ることのできる場所が必要だ」。設置に向けた活動を再開した。

スケボー仲間と談笑する奥脇さん(右から2人目、筆者撮影)
スケボー仲間と談笑する奥脇さん(右から2人目、筆者撮影)

「需要あるのに滑る場所なく悔しい」

日本ローラースポーツ連盟(東京都豊島区)によると、スケボーの競技人口(愛好者含む)は世界に約5千万人。国内でも盛り上がりを見せており、昨年、国内で開かれた大会の参加者数は、延べ約3000人に達した。「五輪の影響で10代を中心に競技人口が急増している」(同連盟)という。

しかしながら、「熊本市内の環境はあまりよいとはいえない」(奥脇さん)。市スポーツ振興課によると、同課が所管するスポーツ施設内でのスケボーの利用は、現時点で認められていない。こうした事情から、大人は車で市外の施設へ行くが、子供だけはなかなか難しい。親に運転してもらうにしても、頻繁に練習することは困難だ。奥脇さんによると、結果、スケボーを諦めてしまうケースもあるという。

技の練習をする奥脇さん(本人提供)
技の練習をする奥脇さん(本人提供)

スケートパークの存在しない熊本市内で、街中で滑る「ストリート」が出身のスケーターらが足繁く通うのが、繁華街に近い、熊本市中央区のある公園だ。スケーターらからは「聖地」と呼ばれる場所だが、以前から一般利用者らからは「スケボーが危なくて公園に入りにくい」「音がうるさい」などの苦情が出ていた。

公園を所管する市西部土木センターによると、市の公園条例ではスケボー自体は禁止していない。しかしながら、「利用者の迷惑となる行為」「危険な行為」を禁じており、「苦情が出ていることから極力滑らないよう指導している」という。

奥脇さんは、スケートパーク設置が、これらの問題を解決するだけでなく、熊本を盛り上げる起爆剤になると考えている。奥脇さんは長年、熊本の街を見続けてきた。かつては勢いがあった熊本の街。しかしながら近年、「元気のいいやつら」(奥脇さん)が福岡や東京へ転出するようになった。「なんだか最近街がさみしいような気がする。ストリートカルチャーが盛り上がらないと、このまま街が衰退してしまう」と、奥脇さんは危機感を募らせている。

「安心して滑れる場所が必要」と語る奥脇さん(筆者撮影)
「安心して滑れる場所が必要」と語る奥脇さん(筆者撮影)

「これだけ需要がある中で、滑る場所がないのは悔しい。子供も大人も安心して滑れる場所が必要。熊本を盛り上げるためにも全力で取り組む」。市側に働きかけるため、奥脇さんは今年5月、仲間らと協会を設立。理事に就任した。今後、市側に署名とともに請願書を提出する予定だ。

スケーターやスケートパーク設置に関する研究実績があり、「都市に刻む軌跡:スケートボーダーのエスノグラフィー」の著書がある、法政大キャリアデザイン学部の田中研之輔准教授(社会学)の話

スケートパーク設置を求める署名活動は、2000年ごろに全国各地で見られた。東京五輪の影響もあり、ここ最近、再びこうした動きが出てきている。スケボーが社会的にある程度認められていることを示しており、前回の動きとは異なる文脈だ。スケートパーク設置により、スケーターは思い切りスケボーに打ち込むことができるため、技の習熟度が上がり、競技志向が高まる。また、地域にとっても、街中の設備破損や騒音問題が解消されるメリットがある。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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