酒類提供時「原則4人以内」など5つの対策遵守が条件 知事判断で休業命令可 憲法上の疑義指摘も
政府は6月17日、緊急事態宣言からまん延防止等重点措置に移行した後、一定の条件をもとに酒類提供営業を認める一方、条件を満たさない店舗に対し休業命令を出すことを認める方針を決めた。「一定の条件」の内容は「原則4人以内」など5つの対策であることが明らかとなった。全て遵守する必要があり、違反して営業している店には命令等の手続きを行うとしている。
ただ、こうした条件を遵守した場合でも、酒類提供営業は19時までという厳しい時間制限が残る。
そのため、まん延防止等重点措置のもとでも、居酒屋・バーは事実上の休業を余儀なくされる可能性があり、措置の合理性や合憲性について疑問も指摘されている。
(以下、「まん延防止等重点措置」を「防止措置」と表記する。)
「一定の条件」の内容とは
6月17日に改定された基本的対処方針では、酒類提供に関して、次のように記された。
重点措置区域である都道府県においては、法第31条の6第1項等に基づき、飲食店(宅配・テイクアウトを除く。)に対する営業時間の短縮(20時までとする。)の要請を行うこと。
また、酒類の提供は、別途通知する「一定の要件」を満たした店舗において19時まで提供できることとし、当該要件を満たさない店舗に対して、法第31条の6第1項に基づき、酒類の提供を行わないよう要請すること。
ただし、地域の感染状況等に応じ、都道府県知事の判断で、さらに制限を行うことができるものとする。
政府は、「一定の要件」について、第三者認証制度の普及を図る観点から、同制度の普及状況を踏まえて定めるものとし、都道府県は、第三者認証制度の普及と適用店舗の拡大に努めること。
(基本的対処方針p.36より。読みやすさのため改行した。太字は筆者)
基本的対処方針では「一定の要件」の具体的内容は明らかになっていなかったが、同日夜に公開された文書で5条件が提示された。
(1) アクリル板等の設置、または、座席の間隔(1m以上)の確保
(2) 手指消毒の徹底
(3) 食事中以外のマスク着用の推奨
(4) 換気の徹底
(5) 同一グループの入店は、原則4人以内とすること
これらをすべて遵守することが酒類営業再開の条件とされる。
自治体に対しては、こうした条件を遵守しているか見回りを行うとともに、「遵守が確認されるまで酒類提供の停止を要請すること」「要件を遵守していないにもかかわらず酒類が提供されている場合には、命令等の手続きを開始すること」「遵守していないにも関わらず酒類提供を行う飲食店については規模別協力金を支給しないこと」といったことが指示されている。
飲食店がこうした条件をすべて遵守した場合でも、酒類提供は19時までという制限がかかる。要請の段階では、遵守義務はないとはいえ、遵守せずに営業した場合は命令が出され、過料が科せられる可能性がある。
また、知事の判断で、5条件の遵守の有無にかかわらず、酒類提供の終日停止措置、すなわち事実上の休業要請・命令を行うことも可能とされている。
「告示改正」で導入された酒類提供停止措置
特措法上、緊急事態宣言では「施設の使用停止」(いわゆる休業)の措置が可能とされる一方、まん延防止等重点措置では「営業時間の短縮」(いわゆる時短)その他政令で定める措置ができるにとどまるとされていた。
西村康稔経済再生担当相も、2月の特措法改正審議の際、防止措置において「休業命令」まではできないと答弁していた(参考記事)。
ところが、4月23日、「酒類提供終日停止」措置を緊急事態措置、防止措置いずれでも可能とする厚労省告示改正が行われた。
これにより、緊急事態宣言解除後、つまりステージ3以下になっても、居酒屋・カラオケ店の営業停止可能になったと、筆者はいち早く警鐘を鳴らした(コメント全文は=緊急事態宣言解除後も居酒屋・カラオケ店の営業停止可能に 告示で知事の権限拡大 国会答弁と矛盾)。
実際、すでに神奈川、埼玉など少なくとも8県が、防止措置として「酒類提供終日停止」を要請。このうち埼玉県は全国で初めて「酒類提供終日停止」を含む措置命令に踏み切っている(措置命令実施状況の詳細はこちら)。
措置の違法性、違憲性の指摘も 西村大臣が国会で釈明
この告示について、曽我部真裕・京都大学教授(憲法)は「居酒屋で酒類提供禁止をするというのは、事実上は営業停止であるとも言いうるため、政令・告示で定めることのできない措置を定めている疑いがある」との見解を示している(コメント全文=重点措置での酒類提供停止は「特措法の委任の範囲を超え、違法の疑い」 京大の曽我部教授が見解)。
また、このほど筆者の取材に応じた横大道聡・慶應義塾大学教授(憲法)も、特措法では法文上、緊急事態措置とまん延防止等重点措置で実施できることが書き分けられていることを踏まえ、「両者は、感染状況・病床使用率などのステージが異なるのであり、ステージが改善された段階のまん延防止等重点措置の場合には休業の要請はできず、営業時間の変更までしか要請できないはずだ。まん延防止等重点措置として、業種によっては休業要請に等しい酒類提供停止まで要請することは、法解釈として妥当ではない」と指摘している。
この問題は、6月17日の参議院議員運営委員会でも取り上げられた。
憲法上の疑義も指摘されていることについて、西村経済再生相は「(告示で認められた「酒類提供停止」措置は)営業そのものの停止とは異なり、営業のやり方に対する規制。ランチ営業などは可能」と釈明した。
だが、もっぱら夜間の酒類提供を目的とした居酒屋やバーなどは、ランチ営業という全く別形態が可能かどうかはさておき、事業者の立場にたてば、事実上の休業に等しい措置ととらえるのが自然であろう。
措置の合理的根拠に疑問視も
さらに問題は、ここまで「酒類提供」自体を徹底的に制限することについて合理的な根拠があるのかどうかだ。
よく言われるのは、いわゆる「飲み会」などでは気持ちが高揚し、感染防止策が不十分となってリスクが高まるという指摘である。
だが、酒類提供終日停止の措置を導入する前から、「飲み会」など酒類提供の場でクラスターが特に頻発しているという報告は聞かれない。
酒類提供そのものではなく、換気や距離の確保、人数制限といった感染防止策が鍵ではないのか、ということは多くの人が感じているはずだ。
実は、新型コロナウイルス感染症分科会などの議事録や資料をみても、専門家が「酒類提供停止」を実施するよう政府に進言した形跡はない。
4月23日の告示改正で突然、この措置が導入された経緯は明らかではなく、文字通り、なし崩し的に決まったようにみえる。
この告示改正を行った田村憲久厚労相は、6月15日の記者会見で「(酒類提供の)停止をお願いすると新規感染者数が下がっていく」「酒類提供と新規感染者は非常に相関関係にあることは間違いない」とこの措置の有効性を強調している。だが、具体的な根拠は示されておらず、相関関係があるとの指摘には疑問がある(参考記事=田村厚労相発言「酒類提供と感染者数は非常に相関関係がある」は本当か 厚労省の見解は?)。
この点に関して、前出の横大道教授は「酒類提供と新規感染者数増加との因果関係が示されていない以上、酒類提供停止の要請は緊急事態措置としても合憲性が疑わしいと思われるが、同様の酒類提供停止をまん延防止等重点措置として継続することの合憲性はさらに疑わしい」と憲法上の疑義があるとの見解を示している。
また、今回の「一定の条件」による酒類提供営業を認める措置についても、「『一定の要件』を守っている場合に、なお、時間制限が必要な理由がよくわからない」と疑問視している。