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折も折「本命」?鳥インフル相次ぎ確認の嫌な予感

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
すでに世界各国で確認されている(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス禍の渦中、何とも不気味なニュースが相次いでいます。高病原性鳥インフルエンザが11月以降、日本各地で確認され既に6件に及んでいるのです。

殺処分は過去最多

 殺処分となったニワトリなどは過去最多を更新。政府は封じ込めにやっきとなっています。

 これまでもっとも多かったのは宮崎県を中心に確認された2010年~11年。しばらくなりを潜めていたのが香川県を皮切りに福岡県、兵庫県、宮崎県、奈良県、広島県と広がりをみせています。

 細菌やウイルスによる伝染病が人類の脅威となるとの認識は以前より高い。ただ新型コロナウイルスは「伏兵」でした。かねてより警戒されヒトへの感染が常態化すれば最大5億人が犠牲になるとも推測されている「本命」こそ鳥インフルエンザが変異した新型なのです。改めてその怖さや現状わかっている範囲をたどってみます。

ヒトには感染しないはずが

 鳥インフルエンザは名の通り「鳥のインフルエンザ」でやすやすとヒトには感染しません。ただ後述するようにヒト感染が相当数みられた時期もあって監視されているのです。

 高病原性と不安視される型はウイルスがまとっている2種類のたんぱく質で区別されます。うち1つが「ヘマグルチニン」(H)で「1型」「2型」と区分され、注意を要するのが5型(H5)と7型(H7)で、とともに生命に重大な危険を与える「高病原性」です。

 もう1つのたんぱく質が「ノイラミニダーゼ」(N)で同じく番号で呼び、組み合わせて表示します。H5型のうちH5N1型がN2型と比べてもとくに毒性が強いとされ最も警戒されています。ただNは1から11までの亜型があるわかっていて日本ではN型にかかわらずH5またはH7とわかった時点で「高病原性」と扱うのです。なお毎年発生する季節性は主にH1N1かH3N2。

 動物の細胞は細胞膜に覆われていて、その表面にホルモンなどの受け渡しをする受容体があります。ウイルスのたんぱく質は宿主の受容体に合わせて突起を形成しており、それで結合し寄生に成功するのです。ちょうどゲームのテトリスやジグソーパズルのピースのように。人と鳥は受容体が大きく違っているので、パズルのピースがはまらないように、鳥インフルエンザはヒトには原則として感染しない……はずでした。

高い致死率に震え上がった過去の記録

 ところが1997年に香港でニワトリに感染したH5N1型ウイルスが人へも18人に感染し、6人が死ぬというショッキングな出来事が起きたのです。鳥しか感染しないと考えられていたウイルスで発病した衝撃は大きかったのと同時に致死率の高さに世界中の医療・保健関係者が震え上がります。

 2003年末にはベトナムで、やはりニワトリから人に感染した。同年から翌年にかけての感染者は32人で死者は22人。06年のH5N1型での死者数は過去最悪の80人を数えます。理由は鳥へのかなり濃厚な接触があって起こるとみなされていて殺処分と消毒に加えて家禽へすり寄ったり抱き上げるといったレベルでなければストレートに感染するわけではないようです。

 ただ油断はできません。家禽の密集飼育は世界中にみられるし、ウイルスが存在し続ける過程でヒトの受容体にも適合できるようHまたはNのたんぱくを組成するアミノ酸が変異を起こして感染しやすい「進化」を遂げないとは誰もいえないから。さらに「進化」すればまだ報告されていないヒトからヒトへの感染が可能になったら大変だとの恐怖に至ります。

季節性インフルも当初の宿主は鳥だったとも

 すでに当たり前のように毎年猛威を振るう季節性インフルエンザは空気感染します。そのウイルスも元々は鳥を宿主にしていたのでは……との有力な説さえあるため「H5型だけは例外」とする根拠は非常に乏しいのです。約100年前にパンデミックを起こした「スペイン風邪」も鳥インフル由来とされています。

 季節性でさえ幼児や高齢者を中心に日本だけで数千人から万単位の死者が出ていると推察される恐るべき伝染病。H5亜型がヒトに感染する新型に変異を遂げたら香港やベトナムで起きた致死率5~8割より大きく下がる半面で5~15%にはなるのではとの世銀の想定も。ちなみに季節性の致死率は0.1%未満。

 ちなみに農水省によると今年、日本で確認されているのはH5N8型です。

もし新型が流行したら

 もし新型(H5亜型)が流行する兆しをみせたらどうなるでしょうか。政府は鳥インフルエンザウイルスそのものから製造した「プレパンデミックワクチン」を備蓄するも、それが新型に効くかはわかりません。現状ではワクチンはないのです。

 抗インフル薬として有望なのが季節性の発症初期段階に発した高熱などで及ぶ生命に危険を回避する特効薬であるタミフル。しかし不安も。そもそもタミフルが新型に効くというのは予測に過ぎない上に備蓄していたとしても足りなくなる危険性が潜みます。例えば、02年末から日本で季節性が猛威をふるった際にタミフルおよびリレンザが不足するという事態に陥りました。薬がありながら処方できない人が多数出たのです。

 理由は国立感染症研究所の予測に基づいて製品を製造する製薬会社が、その予測よりもインフルエンザの広がりが早かったため間に合わなかったから。品質保持期限などもあるため、大量の薬を生産し、それを廃棄することは企業としてもできないため、不測の事態に欠品が起こったとされます。

 要するにすでにノウハウがあるはずの季節性でさえ「予想以上」となると対応できないとの事実が露呈したのです。

 「中国で謎の肺炎」の一報が小さく伝えられたのがちょうど約1年前。今日の惨状を誰が予測し得たでしょうか。鳥インフル由来の新型への警戒もしてし過ぎることはありません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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