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「全裸監督2」のピエール瀧さん快演から考える、「失敗」した人に必要なこと

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Netflix 撮影:Mio Hirota)

「全裸監督」シーズン2の放送が6月24日からはじまり、早速様々な形で話題になっています。

日本のNetflixの人気ランキングの1位になったのはある意味当然として、Netflixの台湾、香港、タイ、シンガポール、ベトナムなどのランキングでもトップ10入りしており、アジア圏を中心に全裸監督が海外でも注目されているのが良く分かります。

ドラマがアダルトビデオ業界を舞台にしており、性的な内容を取り上げていることから、自分の目に入るところでプロモーションをして欲しくないという批判の声も見受けられますし、好き嫌いが大きく分かれるテーマであるのは間違いありません。

ただ、Netflixが日本で存在感を増す過程において、2019年8月に配信された「全裸監督」のシーズン1のインパクトが非常に大きかったのは明らかです。

特に、Netflixのような動画配信サービスが地上波のテレビ番組ではできないドラマに挑戦できることを証明する上で、重要な存在になったのは間違いないでしょう。

参考:「全裸監督2」ラストまで絶対に見逃せないワケ

今回の「全裸監督」のシーズン2では、主人公である山田孝之さん演じる村西とおるが、帝王と呼ばれた地位から地に落ちていく「失敗」の過程が中心に描かれており、またシーズン1とは違った雰囲気の作品となっています。

特に個人的に、作品からのメッセージとともに強く印象に残ったのは、麻薬取締法違反で逮捕されたことで地上波のテレビ番組からは姿を消すことになったピエール瀧さんが、久しぶりに、いぶし銀の演技を見せてくれていることでした。

一貫してピエール瀧さんを起用し続けた「全裸監督」

ピエール瀧さんは、「全裸監督」のシーズン1、シーズン2を通して、渋い存在感のあるレンタルビデオ店の店長を演じられています。

そのピエール瀧さんが麻薬取締法違反で逮捕されたのが2019年3月。

多くのドラマがピエール瀧さんの出演シーンを撮り直したり削除したりという対応をする中、Netflixは2019年8月に配信を開始した「全裸監督」シーズン1で、ピエール瀧さんの出演シーンをそのまま配信したことで注目されました。

参考:ピエール瀧が堂々登場したネット配信ドラマが早くも大反響!

その後、シーズン2での続投も早々に内定。

2020年の3月からシーズン2の撮影が開始されていたそうですが、当時は、ピエール瀧さんの逮捕後わずか1年弱での復帰に対して批判もあった時期。

参考:ピエール瀧「逮捕後わずか1年弱で復帰」の是非

スポンサーの動向や、視聴者からの批判に対して配慮が必要な地上波テレビの各局が、のきなみピエール瀧さんの起用を取りやめたことと比較すると、Netflixの一貫してピエール瀧さんを起用し続ける姿勢は、非常に対照的だったと言えるでしょう。

ドラマを通じて「失敗」した人たちに送るエール

しかも、今回の「全裸監督」シーズン2では、ドラマ全体に失敗や挫折、そしてそこからどう復活するかということが裏側のテーマとして流れており、その「失敗」をした人を助ける象徴的な存在としてもピエール瀧さんが重要な役割を果たしています。

さらに「テレビ出禁なんだろ?」や「裏に手を出さないでよ」という、それをあなたが言いますかと、聞く人によっては思わずニヤリと笑ってしまう台詞を、ピエール瀧さんが他の出演者にぶつけるという皮肉の効いた演出つきです。

もちろん、ピエール瀧さんが犯した麻薬取締法違反は、簡単に許されるべき行為ではありません。

ただ、現在の日本の芸能界において、出演者が不祥事を犯すと作品自体が配信停止になったり出演シーンが削除になったりということが普通になってしまったり、罪を償って前に進もうとしても復帰が阻まれてしまうケースがあることには、行き過ぎている面があるのではないかという議論が起きているのも事実です。

参考:電気グルーヴ作品回収への反対署名を提出 ソニー・ミュージック「たくさんの方に愛されていることを改めて認識した」

「失敗」をした人の存在を、まるで全くなかったかのように消してしまって良いのか?

「失敗」をしてしまった人にも、もう一度ちゃんとチャンスを提供し、そのチャンスを通じて復帰ができる道を作ってあげるべきではないのか?

そんなメッセージを、「全裸監督」のシリーズ全体を通して受け取ってしまうのは、私だけではないはずです。

罪を償っても許さない社会で良いのか

実は、ピエール瀧さんの復帰は、正確には「全裸監督」シーズン2より一足早く、今年4月に公開された山田孝之さんが監督を務める映画「ゾッキ」でされています。

この映画の撮影時にもピエール瀧さんの起用がマスコミに漏れて、ロケ地の蒲郡の方々もマスコミへの恐怖を感じていたという逸話がインタビュー記事に出ていますが、これに対する山田孝之さんのコメントが印象的です。

「どんな人だって罪を犯したら罰を受けて社会復帰する。罪を犯したら償うのが当たり前です。しかしそれを経てもなお許さないということが、僕には出来ない」

参考:ピエール瀧起用がマスコミに漏洩、コロナに翻弄される地方と映画界

俳優やアーティストのような影響力のある方が、罪を犯してからすぐに復帰をすると、芸能人だから特別扱いか、と感じてしまう面もあるのは事実ですが、一方で影響力がある方だからこそ、罪を犯しても心を入れ替えて復帰ができるということを証明し、多くの人に勇気を与えることができるということも言えます。

実際に、映画「アベンジャーズ」シリーズでアイアンマンを演じたロバート・ダウニー・ジュニアも昔薬物中毒だったのは有名な話です。

参考:アベンジャーズとアイアンマンの裏話から考える依存症と炎上との戦い方

ネットでつないだファンとの絆

また、ピエール瀧さんは人気テクノユニット「電気グルーヴ」のメンバーでもあります。

この電気グルーヴとしての活動は、麻薬取締法違反で逮捕された際に、所属していたソニー・ミュージックアーティスツとの契約が終了する結果になっていました。

しかし、コンビをくむ石野卓球さんもピエール瀧さんの後を追う形で、マネジメント契約を終了。

2019年11月には、新会社「macht inc.」を設立、新ファンクラブ「DENKI GROOVE CUSTOMER CLUB」を設立する形で、活動を継続されています。

参考:電気グルーヴ、新会社「macht inc.」設立 心機一転、再始動を果たす

丁度「全裸監督」シーズン2の公開にあわせるかのように、6月26日の夜には、「電気グルーヴ」の2021年初となるライブも開催され、ツイッター上でも話題になっていました。

参考:電気グルーヴ ON THE STAGE ~恐怖!!町のブタイ~

また、ピエール瀧さんは2020年4月には、自らのYouTubeチャンネルで、「YOUR RECOMMENDATIONS」という新しい旅番組も開始し、すでに6万人を超える登録者が番組を視聴しています。

いわゆるテレビ番組での俳優としての活動は激減してしまったものの、「電気グルーヴ」として、また「ピエール瀧」個人としての活動は、地道に継続され、ファンとの絆をつむいでこられていたわけです。

ピエール瀧さんには、石野卓球さんはもちろん、山田孝之さんやNetflixの関係者、そして電気グルーヴやご自身のファンなど、見捨てずに助けてくれる友人や仲間がいたからこそ、今の復帰があると言えます。

ネットにより、芸能人の不祥事や炎上騒動に対する視聴者の声が可視化され、1度大きな「失敗」をした人たちがテレビなどの大きな舞台に復帰をしにくくなっているという面があるのも事実です。

ただ一方で、ネットを通じたファンクラブやYouTubeのような活動を継続することで、テレビとは別の「芸能活動」の道がひらけているということも言えるかもしれません。

「失敗」した後に支えてくれる人の大事さ

「全裸監督」シーズン2の中で村西監督は、テレビの地上波では自らのAVが配信できないことから、衛星放送に手を出します。

実は、その衛星放送の可能性について村西監督が力説する未来の世界は、今ではインターネットが実現しており、その象徴であるNetflixがアジアに村西監督のストーリーを伝える結果になっているという、二重構造にもなっています。

ドラマの中で村西監督は、衛星チャンネルに多額の投資をしたにもかかわらず、自らの月額制のサービスを大勢の人に契約してもらうことができず、窮地に追い込まれていくことになります。

ただ、それは20年以上前の話。

現在は、テレビでは配信できないコンテンツを直接世界中の視聴者にとどけるというビジネスが、Netflixをはじめとした動画配信サービスはもちろん、ピエール瀧さんや電気グルーヴのような個人のアーティストやタレント、さらには普通の一般人でも可能になっている時代です。

「失敗」をした人たちを、私たちはどうサポートするべきか。

自分が大きな「失敗」をしたときに、どう立ち直っていけば良いのか。

本当に大事なのは、ピエール瀧さんにとっての石野卓球さんや山田孝之さんのような友人、そして変わらずファンでいてくれる人々の存在なのかもしれません。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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