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最強バルサの復活はあるか。デンベレはパリ移籍濃厚、一方で「寄生する」選手も。メッシの幻影を消すのは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

「サッカーシーズンが終わり、デスクワークの時間が始まる。ある意味、ピッチ上よりも大事。競争力を高め、タイトルを狙うには変革が必要だろう。もう一年、ノンタイトルはありえない」

 最終節のビジャレアル戦に本拠地カンプ・ノウで敗れた後、FCバルセロナを率いるシャビ・エルナンデス監督はそう語っている。

 最強バルサ復活のため、どれだけ補強できるか。

寄生する選手たち

 現状、改革はうまくいっていない。まず、クラブが熱望していたノルウェー代表アーリング・ハーランドは、マンチェスター・シティにあっさりと持っていかれた。はっきり言って、資金面で太刀打ちできなかった。

 一方、人員整理は思うように進んでいない。

 シャビはフランス代表サミュエル・ウンティティ、スペイン代表オスカル・ミンゲサ、デンマーク代表マーティン・ブライトワイト、リキ・プッチの4人に構想外を告知し、移籍を促したが、交渉は難航するだろう。

「まだ契約が2年残っている。出ていくつもりはない」

 ブライトワイトは明言し、移籍拒否の姿勢を示した。たとえ戦力外であっても、バルサの選手である名誉と可能性、他のクラブではありえない年俸がなにもしなくても受けれられるだけに出ていく理由がない。同じ理由で、ウンティティなど多くの選手がバルサに”寄生”している状況だ。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ代表ミラレム・ピャニッチもベジクタシュにレンタルで出していたが、給料の多くを肩代わりしている。寄生されたも同然。一刻も早く貰い手を見つけるべきだが、残る2年の契約を全うするつもりと言われる。

 ブラジル代表のフェリペ・コウチーニョは今年5月、ようやく「債権処理」ができた。しかし200億円以上の移籍金で獲得し、毎年20億円とも言われる年俸を支払い、ほとんど成果なし。挙句、20億円程度での売却だった。

 2000億円とも言われる借金も納得である。

 前会長サンドロ・ロッセイ、ジョゼップ・マリア・バルトメウの「負の遺産」を清算するのに、まだしばらく時間がかるだろう。

ラポルタ会長とガビに亀裂

 クラブ内は財政の行き詰まりもあって、苛立ちも見えている。

 ジョアン・ラポルタ会長は「すでに新たなオファーを出しているが、代理人から返答がない」と、ガビとの契約更新ができていないことに不満を漏らした。これにガビの代理人であるイバン・デ・ラ・ペーニャは、「ガビは一番安い給料の選手だった。他の選手に出された提示額と比較する」と反論した。不穏な空気になった。

 ガビが移籍へ動く可能性は低いが、クラブとの軋轢が深まると風向きは変わる。どこかに不信感が根付いている。イライシュ・モリバのようにチームを”出奔”に近い形で出てしまう選手が出てきかねない。

 ラ・マシアで育ってきた選手は、「大事にされているのか」を疑っているところがあるのだ。

 自身がラ・マシア出身であるシャビは少なくとも、ラ・マシアを重んじている。

 グラナダで活躍したラ・マシア育ちのアレックス・コジャードは呼び戻される予定で、左利きインサイドハーフとして貴重な戦力になるかもしれない。プレシーズンは帯同予定だ。また、GKイニャキ・ペーニャもレンタル先のガラタサライで活躍を見せ、ネトに買い手がつき次第、戻ってくることになる。ヨーロッパリーグのバルサ戦で好セーブを連発し、第2GKとしては十分だ。

 ただ、シャビはプッチ、ミンゲサを戦力外としたようにシビアなところもある。 

 例えばバルサBで19得点のFWフェラン・ジュグラは有力なバックアッパーになると思われた。タイプ的には前線をどこでもやれるFWで、フェラン・トーレスに近い。シャビにも一時は厚遇を受け、9試合出場2得点という記録を残したが、ベルギーのブルージュへの移籍が決定的だ。

「バルサが覇権を握るには、ワールドクラス獲得が欠かせない」

 それがクラブの判断と言える。

 リオネル・メッシの幻影を誰が振り払えるのか。

デンベレの残留交渉は難航

 戦力補強の前に、バルサは何人かの選手を整理している。

 まず、レンタルだったオランダ代表ルーク・デ・ヨングはセビージャに戻す。クロスをヘディングで叩き込む一発芸は見事だったが、苦肉の策だった。ロナウド・クーマン監督の匂いも残したくない。

 スペイン代表アダマ・トラオレは入団当初、買い取りオプションも検討されていた。右サイドでフィジカル面の強さを生かしつつ、相手を振り切ってあげるクロスは一つのスペクタクルだった。ラ・マシアで育っただけに、バルサの戦術理解も問題なかったと言える。ただ、クロス戦術そのものがバルサに合わず、思ったほど得点につながっていない。

「3000万ユーロの買い取り額は高すぎた」

 それが現実か。

 一方、ウスマンヌ・デンベレはトラオレと前後するように活躍を始め、なくてはならない選手と再認識された。右でも左でも抜け出られるプレーは別格だ。

「世界一の選手になれる」

 シャビの言葉はリップサービスではない。デンベレ本人も残留に気持ちが動いたようだ。

 しかし、代理人が要求するサラリーとクラブの提示額は大きな開きがあり、交渉は難航している。バルサはサラリーダウン、パリ・サンジェルマン、バイエルン・ミュンヘンなど他のクラブはサラリーアップ。見通しは暗い。

「バルサの条件を蹴って、パリ・サンジェルマン移籍が濃厚」

 その報道も出ている。

2人のワールドクラスアタッカー

 3人を失う可能性が高く、少なくとも2人以上の有力アタッカーの獲得が迫られる。クラブは、ポーランド代表ロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)、ブラジル代表ラフィーニャ(リーズ・ユナイテッド)の二人に狙いを絞ったと言われる。しかしライバルクラブも多く、最後まで分からない。

 レバンドフスキはバイエルンで長くプレーし、バルサで求められる動きにも適応できるだろう。何より、バルサが必要とする得点力をもたらせる。ライン間での動きは卓抜で、シュートを放り込む技量は世界トップだ。

 レバンドフスキ本人も、バルサでのプレーを望んでいると言われる。ただ、バイエルンは「移籍金5000万ユーロ以下には下げない」と条件を明示。バルサは4000万ユーロでの獲得を望んでいるが、その差を埋められるか。

 そしてラフィーニャはリーズでマルセロ・ビエルサ監督の薫陶を受け、逞しく成長した。まさにシャビ・バルサが求める左利きアタッカーと言える。ブラジル特有の怖いもの知らずの闊達なテクニックで、リズムも独特でスプリント力もあるドリブルを得意とし、デンベレの穴を埋められる。ゴールに対する覇気はデンベレ以上だ。

 2人は、リオネル・メッシの幻影を振り払えるか。

デ・ヨングは売却せざるを得ない

 補強には資金をねん出しなければならない。

 そこでオランダ代表フレンキー・デ・ヨング、メンフィス・デパイ、アメリカ代表セルジーニョ・デスト、フランス代表クレマン・ラングレの4人はカギになる。

 F・デ・ヨングは、復活を期す来季のバルサでも戦力になり得る。高い能力の持ち主であることは歴然なのだが、バルサにフィットしていない。そもそもMF陣はセルジ・ブスケッツ、ガビ、ニコ・ゴンサレス、セルジ・ロベルト、コジャードなどラ・マシア組で賄える。

 そしてF・デ・ヨングの移籍金7000万ユーロは大きく、ACミランからコートジボワール代表フランク・ケシエ(歴代監督も中盤に一人インテンシティを持ち味にするMFを必要とする傾向)、バレンシアからスペイン代表カルロス・ソレールと合意してもおつりがくる。レバンドフスキ獲得の資金源とも言えるだろう。

 また、デパイは能力的には高いが、バルサのスタイルとズレている。もともとフリーでの移籍で、数百万ユーロの移籍金でも、どこかに買い取ってもらうのがベター。どのみち、来年には契約が切れる。

 デストは実力不足。左右サイドバック、サイドアタッカーなど複数のポジションでもできるが、どのポジションでもバルサの水準に達していない。攻撃はタイミングがずれ、守備も非力。まだ若く、中堅クラブでは活躍できるはずで、売れるうちに売り払うべきだ。

 ラングレは左利きセンターバックとして貴重なバックアッパーだが、最強時代に戻るための選手ではない。資金繰りのために”最後の奉公”をしてもらうべきだろう。チェルシーから、デンマーク代表アンドレアス・クリステンセンも獲得濃厚。ただ、ラングレ本人がバルサに「寄生」する意志が強い。なんと、2026年6月末までの契約で…。

 シャビ監督としてはサイドバックも、スペイン代表のセサル・アスピリクエタ、マルコス・アロンソを補強したい意向を示している。ただ、サイドバックは自前にすべき。アウベス以外は、悉く獲得失敗。現状では、ベジェリンやマルク・ククレジャなどを残していればよかったわけで、セルジ・ロベルトのようにMFをサイドバックにコンバートすることで、戦術的なひずみも生まないはずだ。

 現状を直視すると、サイドバックよりも集中するべきポイントがあるだろう。

 以下が、現時点で来季のシャビ・バルサの陣容か。

       レバンドフスキ?

       (オーバメヤン)

       (F・トーレス)

アンス・ファティ       ラフィーニャ?

(F・トーレス)        (F・トーレス)

     ペドリ      ガビ

 (ケシエ?ソレール?)   (ニコ)     

    (コジャード) (セルジ・ロベルト)

        ブスケッツ

        (ニコ)

アルバ           アスピリクエタ?

(マルコス・アロンソ?)  (アウベス)

(バルデ)       (セルジ・ロベルト)

  ピケ          アラウホ

(エリク・ガルシア)  (クリステンセン?)

      テア・シュテーゲン 

       (ペーニャ)

 一つ言えるのは、戦力的には悪くはない。ペドリ、アンス・ファティ、ブスケッツの3人はそれぞれのポジションで世界トップレベル。テア・シュテーゲン、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバ、ダニエウ・アウベス、セルジ・ロベルトもベテランとして相応の価値がある。また、F・トーレス、ガビ、ロナウド・アラウホ、ニコは将来を担う若手だ。

 そしてシャビ監督は戦う道筋は見つけつつある。

 結論としては、?をつけた選手たち、とくにレバンドフスキ、ラフィーニャを獲得することができたら――。最強復活も、十分にあり得る。ただ、取捨選択は迫られることになりそうだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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