『耳心地いい-1グランプリ』優勝・ゆんぼだんぷって何者? 「音芸職人」が報われた瞬間
日本でいちばん明るいお笑い賞レース『耳心地いい-1グランプリ』(TBS系)が8月23日におこなわれ、優勝を飾ったコンビ、ゆんぼだんぷに335(みみご)万円が贈られた。
朝のバラエティ番組『ラヴィット』(TBS系)から派生した同大会は、そのタイトル通り「聞き心地が良くておもしろいもの」に特化した内容。『キングオブコント』ファイナリストの実績を持つラブレターズやザ・マミィら実力派も顔を揃え、音にこだわった幅広い芸が披露された。SNSでも「こんなに平和な賞レースはない」「幸せな番組」という声があふれるなど、ほかのお笑いの賞レースとはまったく違う和やかムードで番組は進行。大好評で幕を閉じた。
ゆんぼだんぷ、たぷたぷした体で奏でる癒しの音で優勝
優勝したゆんぼだんぷは、メンバーのカシューナッツ、藤原大輔が上半身裸になり、たぷたぷとした体を使って音を出す「癒しの音色」のネタを披露した。
「清少納言の奥ゆかしい接吻の音」では、お互いが腹部にローションを塗って腹をくっ付け合い、離した瞬間になる音でその題材を表現。「1947年にアメリカの上空に突如飛来したUFOが飛行する音」では、カシューナッツが下敷きのようなアイテムを腹にはさみこみ、藤原がバックハグの形でカシューナッツの腹をつかみ、揺らしたときに鳴る“下敷き”の音でそれをあらわしてみせた。
決してほかの組のように派手なネタではなかった。ただ、機材などでは決して真似ができない身体独特の一音、一音はまさに耳心地が抜群。大会趣旨にぴったりハマっていた。また、そのゆったりとした体型も相まって、観る者に至福の癒しを与えてくれた。
ボッタクリ被害に遭ってコンビ結成、2020年に松竹芸能退社
ゆんぼだんぷのカシューナッツ、藤原大輔が出会ったのは2005年、大阪の松竹芸能の養成所だった。当時、カシューナッツはピン芸人、藤原大輔は別でコンビ活動をしていた。
しかし2007年、藤原大輔のコンビが解散。そしてカシューナッツ、共通の先輩と3人で飲みに行ったとき、ボッタクリに遭って、約1時間で1杯ずつしか飲んでいないにもかかわらず、5、6万円を取られてしまい、その金額を取り返すためにコンビを結成した(2016年7月10日掲載『サンケイスポーツ』より)。
2015年に東京へ拠点を移し、2020年に松竹芸能を退社。フリーとなり(タレント事務所・100companyとエージェント契約)、裸の音芸を提げて日本だけではなく海外での本格的活動も視野に。松竹芸能退社時、コンビのブログでも「日本国内はもちろん、海外へ向けても更に色んな仕事が出来たらと思います。文字通り裸一貫でやっていきますのでよろしくお願いします」と報告していた。
ゆんぼだんぷの裸芸はなぜ下品ではないのか
そんなふたりが全国的に脚光を浴びたのは、2015年放送『第21回 博士と助手〜細かすぎて伝わらないモノマネ選手権〜』(フジテレビ系)だろう。「まるで鏡のような水面に雨の滴が一滴 落ちる音」のネタでは、お互いの腹に霧吹きで水を吹きかけ、少し間をとったあと、絶妙な加減で腹を引っ付け合って「その音」を出し、とんねるずらを爆笑させた。そして見事にチャンピオンに輝いた。
以降、『耳心地いい-1グランプリ』でも紹介されていたように、『アジアズ・ゴット・タレント』準決勝進出、『アメリカズ・ゴット・タレント』準々決勝進出、『フランス版ゴット・タレント』準決勝進出、『ドイツ版ゴット・タレント』決勝進出など海外で活躍。2018年『アメリカズ・ゴット・タレント』でも「水滴」などのパフォーマンスで審査員や観客を魅了し、その動画は大きな話題となった。
ゆんぼだんぷの素晴らしさは、裸芸ではあるが下品さがないところだ。神秘的な出来事や風情ある物事を題材したネタが多いところが、下品に映らない理由ではないか。しかもちゃんとそういう風に聞こえるので、余計に好感が持てる。ふたりが仲良さそうに、やわらかな体をくっ付け合うところも観ていて微笑ましい。小さい子どもから大人まで幅広い年齢層に受け入れられそうなコンビである。
「音芸職人」の意地、優勝決定の瞬間は涙ぐんでいたようにも
たぷたぷ体型の癒し系芸人なゆんぼだんぷだが、「音芸」への情熱は人一倍。WEBメディアのインタビューでも、海外を渡り歩いた経験からこのように語っている。
さまざまな国の文化を理解した上で、自分たちが立つステージに合わせた「音芸」を披露し、そのための下調べも欠かさない。そういったことの積み重ねが今回の戴冠につながったと言える。
『耳心地いい-1グランプリ』の紹介VTRでもカシューナッツは「コンビ結成15年、この日のためにやってきました」、藤原大輔も「これ獲れなかったら痩せてこのネタをしないかもしれない、本当に懸けています」と意気込んでいた。優勝が決まったときも、涙ぐむような表情を見せていた。良い意味でゆるい同大会にはちょっぴり似合わない感動的な場面だったが、「音」にこだわり続けて国内外を転戦してきた「音芸職人」だけに、コンビとしてもどこかに意地があったはず。彼らのこれまでの活動が報われたように見えた。
現在、お笑いシーンはさまざまな規模の賞、大会であふれている。「さすがに多すぎるのではないか」と考えてしまうこともある。それでもやはり、賞や大会がきっかけとなりいろんなネタを持つ芸人がより広く知られるようになるのは良いことである。
なによりこの大会自体「耳心地の良さ」というテーマがはっきりしていたため、シンプルに楽しめた人が多かったのではないか。来年以降も夏の風物詩としてお笑いファンを笑わせてほしい。