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東日本大震災:震度5強続く余震と記念日反応と心の癒し#これから私は

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
岩手県 野田村 大津波記念碑(写真:アフロ)

■東日本大震災から10年めの年に続く余震

また、東北で震度5強の大きな地震がありました(3月20日)。津波注意報も出ました。10年前を思い出した人も多いでしょう。

東日本大震災から10年めの今年、東北で大きな地震が続いています。先月2月13日の夜には、震度6強の大きな余震もありました。揺れの大きさ自体は10年前より今回の方が大きいと言う人もいたほどです。

大地震の後の余震は、建物に被害を与えるだけでなく、私たちの心に悪影響を与えます。

■大災害が私たちに与える影響

大災害は、私たちから全てを奪います。家族や友人、愛する人の命。自宅。仕事。思い出。故郷。悲しいこと辛いことが次々と起き、悲しい別れも、体験します。

大災害は、人々から「神」を奪うと語る災害心理学者もいます。神とは、ここでは特定の信仰のことではなく、善人は報われるとか、希望はあるといった前向きで明るい信念のことです。

被害を受けた人々は、その絶望の中から、街を復興させ、自分の人生を立て直し、心を癒していきます。けれどもその道は、長く険しいものでしょう。

■PTSD:心的外傷後ストレス障害

ショッキングなことが起きた後で、心が不安定になることはよくあることです。急性ストレス障害(ASD)と言われます。

この心のダメージが短期間で終わらず長く続くと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれることもあります。

PTSDの予防、治療のためには、ゆっくり休んだり、話を聞いて共感してもらったり、薬を飲むこともあります。認知行動療法やカウンセリングが有効なこともあります。また、自然治癒もしていきます。

ただ、心への影響が目立たない形で続くこともあります。普通に生活しているつもりなのに、以前に比べて決断力が落ちたり、集中力が続かなかったり、勇気が湧かないようなこともあります。そのために人間関係に問題が起きることもあります。でも、どうぞ自分や相手を責めないでください。それもまた、大災害の長く続く影響かもしれないからです。

これだけの大地震、大災害だったのですから、10年たっても大地が震え余震が続くように、10年たっても心に影響が残っていても、無理はないことです。あなたが弱いからではありません。それでももちろん、心はゆっくりと癒されていきます。

■心の癒しを妨げる余震

心が癒されるためには、安心安全が必要です。ところが、余震は安心安全を妨げます。ただでさえ過敏になっている中で、余震は恐怖と不安を引き越します。あの時の、悲劇的な記憶が蘇ります。

心が癒されるためには、安全な場所で、安心して悲しむことも必要です。みんなで一緒に泣くことも必要です。

ところが、余震が続くとか、裁判が続くといったことがあると、心が癒される余裕を失うこともあります。

特に子供の場合は、時間や地理の感覚が大人とはずれることがり、過去の映像とか遠くの出来事を身近に感じすぎることがあります。そのような時は、きちんと説明し抱きしめ、落ち着かせましょう。

■記念日反応

記念日反応とは、死別の悲しみの癒し(グリーフワーク)の中で、故人の命日などに心が不安定になる現象です。さらに死別を経験していない人でも、大切なものを失った人々の中には、同様のことが起きることもあります。

またあの季節が巡ってきたわけです。あの時を思い出すことがたくさん起きます。

大災害なら、大きな報道もあります。報道を見ているだけで、心が苦しくなることもあるでしょう。記念日反応は誰にでも起こる、当然のことです。

特に今年は東日本大震災から節目の10年め。膨大な報道がなされました。とても優れたドラマやドキュメンタリー、報道もありましたが、現地の人にとってはうるさいだけのマスコミもいたかもしれません。

報道を見ているだけで苦しくなる「共感疲労」を経験した人もいるでしょう。

「共感疲労」コロナ報道を見て苦しんでいるあなたへ:テレビを消してラジオをつけよう

嵐のような10年めの3.11が過ぎていきました。

写真:アフロ

■#これから私は #これから私たちは

余震を止めることはできません。けれども、私たちは成長し、津波対策も進んでいます。一人ひとりの避難行動も迅速です。自然の力は巨大で、正面対決はできませんけれども、私たちは波間に揺れる一枚の葉っぱではありません。

小さいけれど、オールもカジもあるボートです。私たちは、力強く進んでいます。

大災害からの復興と癒しは、「神」を取り戻す作業と言えるかもしれません。恐ろしい大災害だったけれども、私たちは自然を愛し、故郷を愛し、未来を信じ、希望を持って前進していこうという気持ちを取り戻す作業です。

ただし、そのスピードには、地域差もあり個人差もあります。まだまだ積極的になれない人もいるし、悩んでいる人もいることでしょう。周囲の復興が、その人にはストレスになることもあります(復興ストレス)。復興とともに傷ついている人のことも、忘れたくありません。

「神」を取り戻すとは、ただの信念だけでもなく、神任せでもなく、優しさと意欲を持って、行動を起こしていくことです。自分は今そういうふうに生きているとイメージし、意識することです。

記念日は必要です。どんな大きな出来事も風化していきますが、それでも東日本大震災が忘れられては困るからです。

記念日や記念碑、震災遺構、様々なイベントなどを通して、個々人の記憶を社会全体の「社会的記憶」にしていくことで、風化を防いでいきましょう。

記念日に悲しむことも必要です。でも、ただ苦しくなるだけの記念日なら意味はありません。記念日とは、心に橋をかける作業です。10年たち、日常生活を取り戻したけれど、この日は心の「橋」を渡って、あの日のことを思い出します。

ただ、当時とは違い、ゆっくりと安心して悲しみましょう。そして記念日が終われば、また橋を渡って、こちら側の日常の生活に戻ってきましょう。

3.11は、単に悲しみと自粛の日ではありません。その日のたびに、私たちは悲しみの涙を流しつつ癒され、PTG(心的外傷後成長)さえ経験していきます。社会全体も、防災文化が作られていきます。これからの私たちは、このように毎年の3.11を過ごしていきたいと思うのです。

世界はそれでも安心できる場所で、新しい希望があふれています。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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