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「共感疲労」コロナ報道を見て苦しんでいるあなたへ:テレビを消してラジオをつけよう

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:ラジオでもラジコ(ラジオが聞けるアプリ)でも(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■心を痛めているあなたへ:ストレス、鬱、疲れ

今、多くの人の心が痛んでいます。仕事のストレス、健康への不安。マスクも買えません。

テレビをつければ、朝から晩まで、コロナ、コロナ。新型ウイルス、パンデミック、オーバーシュート、ロックダウン。

今日は感染者が何名増えました。亡くなった方が何人出ました。そんな話題ばかりです。東京からの放送も、地元のローカルニュースも、この話題ばかりです。

スポーツニュースや芸能ニュースすら、結局コロナの話題です。

専門家が怖い話をし、コメンテーターが説法鋭く政府を批判します。まじめな報道番組も、情報ワイドショーも、暗い話題ばかりです。

世界の状況は、もっと悲惨です。病院の廊下にもあふれる患者。疲れきった医師や看護師。無造作に並べられる遺体袋。

冷凍車で運ばれ、スケートリンクに並べられ、埋葬も集団で共同墓地に。最後のお別れも、まともな葬儀もできません。

こんなテレビ番組を、私たちは毎日毎日見ています。

これでは、ストレスがたまり、疲れ果て、鬱っぽくなっても無理はありません。

■共感疲労:報道による心優しき人の心身の不調

「共感疲労」とは、苦しんでいる人を見て、自分まで苦しくなってしまうことです。悲惨で暗い報道が続くの中で、心が疲れてしまう人もいます。

これまでも、災害報道を見ていて体調を崩す人々がいました。自分が直接の被害を受けたわけではないのに、不眠、食欲不振、血圧上昇、情緒不安定になる人もいます。

地震報道が続いて、自分が揺れているような地震酔いになった人もいます。さらに小さなことにも過敏になったり、悪夢を見るようなASD(急性ストレス障害)に近い症状まで出た人もいました。

今回は、毎日毎日、死者だ病気だ肺炎だ、コロナでガラスを飲み込んだような痛みがあっただのと話を聞いていると、何だかのどが痛くなってきます。呼吸が苦しくなってくる人もいます。

でも、内科や耳鼻科に行っても、異常なし。それでも、のどの痛みがもう何週間も続いている人もいます。

テレビには、コロナのせいでお客が来なくなり、途方に暮れている人たちも登場します。せっかく毎日仕入れをしているのに、今日はお客さんが一人も来なかったと寂しそうに店主が語ります。

新型コロナウイルスは、無差別に私たちを襲います。みんなの人気者、志村けんさんもお亡くなりになりました。友人や親せきではなくても、昔から知っている芸能人の死は、大きなショックです。

有名人も、政治家も。芸能人も。体力自慢のスポーツ選手も、功績のある高齢者も、希望にあふれる子供若者も。どんなに善人にでも、どんなに気を付けていた人にも、新型コロナウイルスは容赦なく襲い掛かります。

コロナで苦しんでいる人のことを思い、涙を流し、「共感疲労」を起こしてしまう人がいます。

他者の痛み苦しみに共感するあまりに心が疲れてしまうのが、共感疲労です。

気持ちが沈んでいる人、食欲がない人。眠れない人。抑うつ状態になって体調を崩している人、楽しめない人、楽しんではだめだと感じる人。

元気になれない人。みんなと一緒に笑えない人、笑うことに罪悪感さえ感じる人もいます。

けれども、こんなことではコロナと戦えません。免疫力も下がってしまいます。

■テレビを消そう、ラジオをつけよう

テレビは、刺激的です。映像は、目に飛び込んできます。時に目に、心に、突き刺さります。

テレビは、どうしても刺激的な映像を求めてしまいます。まるで世界の終りのような、誰もいないパリやニューヨーク。泣いている人々。混乱する病院。話だけでなく、映像が必要です。

報道は大切です。暗い話題も報道しなければなりません。刺激的な映像があるからこそ、私たちに伝わるものがあります。

けれども、もしも心が苦しくなりすぎたら、テレビを消しても良いと思います。

報道をリアルタイムで見ないことが、悪いことではありません。

分かりやすいのはテレビでしょうが、落ち着いて情報を得るなら、新聞が最適です。

そして、心がリラックスしたいなら、ラジオがお勧めです。ラジオも、重要なニュースはリアルアイムで伝えます。

ラジオは、あなたの心に寄り添うメディアです。情報を突きつけるのがテレビなら、そっと心に寄り添って情報を静かに届けてくれるのが、ラジオでしょう。

お茶の間の皆さんに情報を届けるのがテレビなら、ラジオの前のあなたに届けるのが、ラジオです。

テレビでは、昼間のおどろおどろしいコロナ番組があったかと思うと、夜は陽気なバラエティーが放送されたりします。

ワイドショーも大切ですし、バラエティーは私も大好きですが、心痛めている人の中には、そのギャップが苦しい人もいます。

ラジオ局には、そんな大きなギャップは存在はしません。

ラジオ番組でも、コロナの話題はもちろん扱います。でも、どこか優しさがあります。ラジオでも、冗談を言って大爆笑する番組もあります。でも、大笑いしているラジオパーソナリティーも、本当は心を痛めていることを、リスナーは知っています。

テレビではまじめに固く放送をしなければならない時も、ラジオは微笑みを交えながら、放送することができます。リスナーからのクレームも、普通はありません。苦しみや悲しみをわかっていて、それでも笑顔で放送していることを、リスナーのみんながわかっているからです。

たとえば、東日本大震災から数年後の3月11日。テレビは、朝から追悼番組でした。でもそんなとき、新潟のBSNラジオ(TBS系列のAMラジオ)では、朝から夜まで、いろんな番組を通して、「東北の良いところ」を放送していました。

BSNラジオ

リスナーに大募集です。東北のおいしいもの、きれいな場所、楽しい思い出。リスナーから、次々と「東北の良いところ」が届けられ、出演者が笑顔で明るく紹介していきます。

この企画、テレビではできないでしょう。不謹慎だと怒られそうです。それに、こんな地味な話題で一日過ごすなんて、視聴率を考えたらとてもできません。

でも、ラジオならできました。ラジオの雰囲気とリスナーとの信頼関係の中で実行された、素晴らしい企画でした。

笑顔と明るさだけではありません。東日本大震災のあと、NHKラジオでは、被災者遺族からの手紙を読むだけの番組がありました。悲しい、寂しい、辛い。そんな手紙を、NHKのアナウンサーが静かに淡々と読むだけの番組です。

前向きな結論はありません。専門家からのアドバイスもありません。ただみんなで、悲しみと辛さを共にするだけです。これも、テレビではできない番組でしょう。

■元気を出そう

元気を出そうと言っても、カラ元気では困ります。でも、コロナと戦うためには、優しさとと強さと健康が必要です。

共感疲労と日々のストレスで落ち込んだままでは、自分も家族も仲間も守れません。ささくれだった心で互いに責め合い、疑心暗鬼に陥っては、ウイルスが来る前に私たちは敗北します。

戦いは長丁場になりそうです。いつまでも落ち込んでいてはなりません。いつまでも、マスクや消毒液を奪い合っていてはいけません。

コロナとの戦いは、責め合いではなく、頭ごなしの説教でもなく、共感です。奪い合いではなく、分け合い、支え合うことです。

私たちは、適切にマスクを使い、賢くメディアを使います。感染していない人は、心と体の健康を保って、感染している人たちのために頑張ります。

テレビにもラジオにも役割があり、私たちにもそれぞれの役割があります。医療スタッフとして、店員として、サラリーマンとして、父として母として。

これからが本格的な戦闘開始です。各自、自分の部署につき、全力を尽くしましょう。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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