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9月1日 登校を迷っている君と保護者へ「まずは心を休ませて」~元教員の視点

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

登校だけが勇気ではありません

明日の学校再開に向けて、悩んでいる子どもが日本中にたくさんいます。

「登校したい」

「いいスタートを切りたい」

とても素敵な決意です。ぜひ応援したいです。

しかし、登校がすべてではありません。

9月1日は自殺が一番多い日

9月1日は、18歳以下の自殺が一年で一番多い日です。悲しい日です。

私は20年間、中学校教員(途中小学校も兼務)として子ども達と関わってきました。主に生徒指導主事として、悩んでいる子どもに数多く接してきましたが、今も多くの子ども達の相談に乗っています。

不登校の子が登校を再開する場面に立ち会ったことも何度もあります。人間ですから、心がしんどくなること、元気がでないこともあります。もし、今、心がしんどいのでしたら、今だけがすべてではありません。

私が接することができるのは、日本中で悲しい思いをしている人のほんの一握りなので、悲しい日の直前に、私なりに精一杯の思いを込めました。読んでみてください。

いろんなサインがあります

悩んでいると自分でも気づかないで、いろいろなことが起きます。

・体調が悪い

・なかなか起きることができない

こういうのはわかりやすい例ですが、

・ずっとイライラしている

・スマホばかり見る

・スマホを見なくなった

・外出しなくなった

などの例もあります。実は、自分でもわからないで、心の深いところで心が悲鳴をあげていることもあります。

8月31日

再開直前の今、しんどい思いの子は日本中にたくさんいます。

「天国から地獄。また始まる…」

「いじめで、学校が怖い…」

「友達に気を遣ってしんどい…」

「受験勉強はかどらなかった…」

しかし、彼らの多くは、なかなか口にできません。

「親が悲しむし…」

「2学期からと親に約束…」

「受験もあるし行かないと…」

多くの保護者も必死です。子どもにタイミングを逃してほしくないからです。

「とにかく学校行ってみて」

「担任の先生に頼んだから」

「休み明けテストもあるし」

子どももそういう事情はよくわかっていて、だからこそしんどいのです。一番わかっていて、一番学校に行かなければいけないと思っているのは実は子ども自身です。だからしんどいのです。

迷っている君へ

登校をしよういう君の気持ちは素敵です。保護者、担任等、みんなその気持ちを精一杯後押ししたいです。大人が手助けできることがあれば、遠慮せずに言ってください。

私は中学校教員として、学校に登校しにくい子に頼まれていろいろなことをしました。

一緒に登校する。

友達を誘って登校する。

時間を少しずらしと登校する。

学校に誰にも会わない場所を用意する。

話しやすい先生に待っていてもらう。

前日に登校の練習をする。

簡単ではないこともありますが、みなさんのために大人はできるだけのことをしようと思っています。できることがあれば相談してください。

ただ、「どうしても登校できない」「今は、からだが動かない」等、いろいろな状況があります。そういうときは無理せずに自分の心を休ませてあげてください。

明日行けなくても、心が元気になったときに考えればよいのです。そのときに、大人にも相談してください。大人も実は君のために一生懸命になりたいのですが、どうしたらよいか、よくわかっていません。

どうしても、しんどい気持ちがなくならなかったら、早めに「明日は無理そう」と伝えましょう。心が軽くなります。

また、元気になってから、これからのことは考えればよいのです。

困っている保護者へ

保護者の皆さんのお気持ちもたいへんだと思います。

「明日行かなかったらもうダメ…」

「ズルズルと長引きそう…」

「明日、きっかけをつかんで…」

保護者として当然の思いです。

しかし、子どもの心は、うまくはいきません。実は、子ども自身が明日の重要性を一番よくわかっています。

始業式に教室にいる方がこれからにとって良いことは重々わかっています。でも、だからこそ、身体が動かないこともあります。そういうときは、無理させないことです。

私はこれまで多くの不登校生と接してきましたが、どの子も実は学校に行きたい気持ちを強く持っています。彼らにとって登校できない理由があります。大人の私たちにとっては些細なことでも、彼らにとっては一大事、ということもあります。そういう些細なことを一緒に悩んでくれる人が側にいてくれて、一緒に考えてくれる時間も必要です。

明日、うまくいって登校できる子もいれば、もう少し時間が必要な子もいます。どちらにしても、そういう気持ちを共有できることが必要です。

「悩みがあったら話して」と言ってもなかなか話せません。

子ども自身、何が悩みなのか、どう表現したらよいかわからないからです。

相談室等でのA子(中2)とのやり取りを紹介しましょう。

「先生、相談があるの」と言われたので、相談室を用意しました。

「何があったか話してみて」と問いかけましたが、

「ちょっと待ってね」と言ったきり、A子はずっと沈黙していました。

10分くらいたって、A子は堰を切ったように話し出しました。

後で聞くと、この黙っている10分間、必死でどう言おうか考えていたそうです。

「こんなこと言ったら、誤解されるかな?」「この先生、こう言ったら、あの子を呼び出さないかな?」

頭を高速回転させていたそうです。

ぜひ、じっくり待って、じっくり時間をかけて寄り添ってあげてください。

そして、まず彼らの言葉を聞いてあげてください。

社会経験豊富な大人として、いろいろな思いや意見、アドバイスもしたいと思いますが、そういうことは彼らが思いを全部だしてからにしてあげたてください。

こういう節目の日、子ども達もいろいろと感じ、考えています。彼らに思いを吐き出させてあげてください。思いや意見、アドバイスは、彼らが自分の思いを吐き出してからにしてあげると良いです。

「ありがとう。あなたの気持ちはよくわかった」

「もう少し、言いたいことないかな?」

「あなたの気持ち、ちゃんと知っておきたい」

そのうえで、

「あなたの気持ちはよくわかった」

「お母さんの気持ちを言っていいかな?」

いろんな大人がいます

実は、日本中には、いろいろな相談機関もあります。

悩んでいる子ども、保護者の力になりたいのです。

そういうところを利用してみると少し心が晴れるかもしれません。

24時間子供SOSダイヤル

0120-078-310 文部科学省

子どもの人権110番

0120-007-110 法務省

いのちの電話

0570-783-556

チャイルドライン

0120-99-7777

兵庫県立大学環境人間学部教授

生徒指導提要(改訂版)執筆。教育学博士。公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より大学教員。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。

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