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新たなスタートを切ったなでしこジャパン。フィジカルを高めるための、新たな取り組みとは?(2)

松原渓スポーツジャーナリスト
(左から)川村、國澤、上尾野辺、中島、長谷川

なでしこジャパンの国内合宿が1月20日、東京都内の味の素フィールド西が丘サッカー場で始まった。

今回選ばれた候補は28人。昨年5月に新生なでしこジャパンが発足してから、最多となった。

高倉麻子監督は、今回の合宿を「フィジカル(を高める)キャンプ」と位置付ける。

対外試合を組まず、パワーやスピードなどのフィジカル面を高めるため、走り方や爆発的なパワーの出し方などのフィジカルトレーニングに重点が置かれている。

また、88年ソウル五輪シンクロナイズドスイミングの銅メダリストで、現在はメンタルトレーナーとして活躍する田中ウルヴェ京(みやこ)氏と、08年北京五輪陸上男子400メートルリレーで銅メダルを獲得した朝原宣治氏を講師として招き、メンタルとフィジカルの両面から新たなアプローチを図る。

新たなスタートを切ったなでしこジャパン。フィジカルを高めるための、新たな取り組みとは?(1)

【監督・選手コメント】

高倉監督
高倉監督

高倉麻子監督(20日練習後)

ーー今回の合宿のテーマについて教えていただけますか?

今回は、フィジカル(を高める)キャンプです。日本のフィジカル的なマイナス要素に関して、ただ走るのではなく、体の使い方とか走り方にも取り組みたいと思っています。新たなスタートにもなるので、いい競争をして、いいチーム作りをしていこうと(選手に)話しました。

ーー朝原宣治氏をゲストとして招かれた意図についてはいかがですか?

サッカーの予測の部分でのスピードも上げなければならないのですが、シンプルなスピードというところで、走り方も含めて、そういうことを教わる中で効果的な面を探りたいと考えています。

ーーメンタルトレーナーの田中ウルヴェ京(みやこ)氏についてはいかがですか?

これからいろんなプレッシャーもかかってくると思いますし、持っているのに力が発揮できないとか、逆に変な過信で伸びない場合もあるので、外からなでしこを見てもらって、新しい力をどんどん入れていこうと考えています。

ーー今年1年間の目標として、チーム作りのベースはどのようなところに重点を置かれますか?

新しい戦力の発掘はすごく大事だと思いますし、ベテランの域に入ってくる選手たちに関しても、まだ伸びる要素が十分にあると思います。誰がチームにフィットしてくるかということに加えて、新しい力の発掘と、今までいた選手たちのプレーの幅を広げたいと考えています。

ーー2020年に向けて骨格となるチームは今年中には作ろうと考えていらっしゃいますか?

そうですね。2019年にワールドカップがありますし、そこにまず出場するために、骨格を作っていかなければいけないと思っています。

ーー下の年代を招集できたことについて、どのようなことを期待しますか?

それぞれに良さがありますし、フレッシュですし、テクニック的にも楽しみです。私自身がやろうとしていることは(U-20から指導していることもあり)理解していると思うので。上の選手たちとは経験が違って、まだ経験が足りない部分もありますけれど、元気に新しい力を吹き込んでくれればいいですね。

有吉佐織
有吉佐織

DF 有吉佐織(20日練習後)

ーー高倉監督の、フィジカルを高めようという取り組みについてはどのように感じていらっしゃいますか?

シーズンの中で1年間、続けていかないと意味がないですけれど、この時期にそういうことに対する理解を深めて、チームに戻って継続していく中で成果が出て行くと思います。チームだと、フィジカルトレーニングは選手それぞれで行っているので、こういう機会に集中して取り組んでくださるのはありがたいです。自分の中では、今シーズンは上半身をもっとパワーアップしたいと思っていました。今回、広瀬さん(フィジカルコーチ)を中心にいろんなメニューに取り組んでいるので、今後チームでも継続したいです。

ーーメンタルトレーナーの田中さんが参加していますが、どのようなことが印象に残りましたか?

基本的なこと、まずメンタルとは何かということから始まって、人それぞれ考え方が違って感情も違うということや、自分の感情をしっかり受け入れた上で、どのような対策を取るかというお話でした。すごく納得できて、そういう考え方はいいな、と感じました。たとえば、これまで緊張していても緊張していないふりをしていたけど、まずは緊張している自分を受け入れて、自分に嘘をつかず、どう対応するかを考える。それは、これから意識していきたいと思います。

猶本光
猶本光

MF 猶本光(20日練習後)

ーー今シーズンの個人的な目標を教えていただけますか?

まずはチームでケガなく、シーズンを通してしっかり戦える様にすることです。去年はそれができなかったので、今年はしっかり取り組んでいきたいです。私は後ろで散らしているプレーが多いので、そこから積極的に前に上がっていったり、得点を自分で決め切れるような選手になりたいですね。

ーー監督が強調しているフィジカル面については、やはり日本人にとって大切だと感じますか?

それは間違いないですね。ヨーロッパの選手は速いですし、パワーもありますけれど、話を聞いていると、チームでもそういうトレーニングをしっかりしていますし、それはなでしこリーグのチームではほとんど行われていないので。日本人が劣っているというより、日本人がやっていない、ということだと思います。

ーーメンタルトレーナーの田中さんや、走りを教えてくれる朝原さんが来てくれることについてはいかがですか?

いろんな分野のアプローチがあると思うので、短い合宿ですけれど、しっかり参考にして吸収したいです。

籾木結花
籾木結花

FW 籾木結花(20日練習後)

ーー初めてのなでしこジャパンの合宿ですが、初日を終えて、いかがですか?

スタート地点に立った、という印象です。ここから上に行くためには、次に残らなければ意味がないので。ここでホッとしていたり、嬉しいと思って浮かれていると、一瞬で自分のこれからがなくなってしまうと思うので、自分に厳しくいきたいと思います。U-20で戦った仲間もいますし、知っている選手が多いので、特に緊張することもなく、普通に過ごせています。みなさん、すごく優しくて話しやすい先輩ばかりで、楽しいです。

ーーフィジカル面を高めるという新しい取り組みについてはいかがですか?

フィジカルのことについて、活きた知識を学べています。世界で戦っていくためには、この身長(151cm)なので、フィジカルを高めることは絶対に必要ですし、全部を吸収して、自分に活かせるように取り組んでいきたいです。

ーー高倉監督のサッカーは年代別で長く取り組んできましたが、言葉にするとどういうことが大事ですか?

常に考えながらプレーをするということが、高倉監督が大事にしているサッカーかな、と思うので、練習から常にいろんなプレーの選択肢を考えたり、先を予測するようにしています。

池田咲紀子
池田咲紀子

GK 池田咲紀子(21日練習後)

ーーフィジカル的なところを強調したキャンプになっていますが、キーパー練習でもフィジカル面を高める取り組みをしていますか?

そうですね、ステップとか、低い姿勢で移動したりというところでは、これまでの練習よりもフィジカルに力が入っているのではないかと思います。

ーーGKコーチに大橋昭好コーチの就任が発表されましたが、指導を受けてみて、いかがですか?

大橋さんは元々ユースの世代の子供とかを見ている方なので、基本的な部分から大切にして声をかけてくださります。私も普段から基礎を意識するタイプなので、すごくやりやすいです。

ーー今回はGKが4人選ばれていますが、今年はどんなことを目標にしていますか?

今は山根選手と山下選手の2人が多く呼ばれていて、3枠目というところでポジション争いをしていると思うのですが、自分の強さを活かせれば勝負できると思っているので、代表に定着することはもちろんですし、その中で自分が試合に出るというところまで持っていきたいです。

ーーご自身の力をなでしこジャパンの中でどう活かしていくかという、具体的なイメージはありますか?

キーパーなので、まずはゴールを守る部分だと思いますが、高倉監督は攻撃的なサッカーをされますし、後ろからの動かし方や、直接ゴールにつながるプレーなど、シンプルなところも求められていると感じます。そこはフィールドプレーヤーだけでなく、キーパーとしても理解しておかなければいけないところですし、私が強みとしているところなので、活かしていきたいですね。

千葉園子
千葉園子

DF 千葉園子(21日練習後)

ーーフィジカルを高めることに重点を置いたキャンプですが、どのような刺激を受けていますか?

膝が内に入るのか外に出るのか、といったことや、体のバランスなど、そういうことを一つ一つ意識して取り組んでいます。チームでやるトレーニングよりさらに専門的で、(練習直後にもかかわらず)もう筋肉痛がかなりきています。自分のチームでも、原始的な筋トレをやるのですが(笑)やるかやらないかは、自分の意識で変わると思うので、しっかり意識して100パーセントでやるようにしています。

ーーあえてフィジカル面を鍛えて、個を伸ばしていく、ということについてはどう捉えていますか?

去年はアメリカとかスウェーデンなど(と親善試合で対戦した際に)、最後の一歩でシュッと相手が入ってくることが多くて、それで失点してしまったことが多かったです。その最後のところを粘り強く体を当てていけるように、しっかり底上げして行かなければいけないと思います。

ーー今回メンタルトレーニングもありましたが、緊張や不安など、自分の感情は受け入れるタイプですか?

はい、受け入れていますね。毎試合、リーグ戦でも緊張しますし、みんなからも、「それはいつものことやろ?だから、いつも通りやで」と言われて、最近は、「いつも通りだからいつもと一緒のことをしたらええんや」と思うようにしています。

ーーこの合宿でどのようなことを持ち帰りたいですか?

自分のチームに帰ったらこういうレベルではないので、帰っても意識高くできるように、「質」にこだわって、継続してやりたいと思います。筋トレも意識で(効果が)変わってくるので、そこは大事にしています。

1988年にソウル五輪で銅メダルに輝いた田中ウルヴェ京氏(写真:山田真市/アフロ)
1988年にソウル五輪で銅メダルに輝いた田中ウルヴェ京氏(写真:山田真市/アフロ)

田中ウルヴェ京(みやこ)さん(メンタルトレーナー/21日練習後)

ーー2日間、なでしこジャパンの練習をご覧になって、いかがでしたか?

高倉監督ともお話しましたし、選手とは、1対1で話す時間はなかったのですが、いろいろとお話を聞かせていただきました。

ーー「感情を受け入れる」という考え方を講習でお話されたそうですが、具体的にお話を聞かせていただけますか?

どの競技でも、世界を目指すトップ選手の皆さんから聞かれることは、3つの事が多いです。1つは「自信って、そもそも何ですか?鍛えられるものですか?」ということ。2つ目が、「動じない、というのはどういうことですか?」と。3つ目は、「やり抜く力、諦めない力」について。「それはメンタルトレーニングで鍛えられるものなのですか?」ということです。

今日はその3つを丁寧に話したというよりは、そもそもメンタルとは何か?というお話をさせていただきました。まさに、導入の部分ですね。

ーーサッカーに関係なく、すべての競技に言えることですか?

そうです。どの競技団体にも、どの人に話すにも最初に話すことを、教科書通りだと、現場の選手たちは聞きたくないと思うので、コーチや選手にどのような言葉が響くのかは、すごく考えました。お相撲さんに言う時と、サッカー選手に言う時では、同じ内容でも出力方法を変えなければいけません。

ーーメンタルは何歳からでも変えられるのですか?

はい、80歳からだろうと90歳からだろうと変えられます。でも、変えたい人でないと変えられないです。変えるのは自分自身なので、「いつ変わるんですか?」と言われたら、「永遠に変わらないですよ」と答えますね(笑)。

ーー今回、なでしこの選手に話してみて、反応は他のアスリートに比べてどうでしたか?

トップ選手は、どんな競技の人も、こちらが何を言ってもプラスにしようとする方たちです。こちらがどれだけつまらない話をしても、タメにするのがトップ選手です。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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