新たなスタートを切ったなでしこジャパン。フィジカルを高めるための、新たな取り組みとは?(1)
【新たなスタートを切ったなでしこジャパン】
なでしこジャパンの国内合宿が1月20日、東京都内の味の素フィールド西が丘サッカー場で始まった。
今回選ばれた候補は28人。昨年5月に新生なでしこジャパンが発足してから、最多となった。
昨年パプアニューギニアで行われたU-20女子ワールドカップで活躍したGK平尾知佳、DF北川ひかる(ともに浦和レッズレディース)、FW籾木結花、MF長谷川唯(ともに日テレ・ベレーザ)、DF市瀬菜々(ベガルタ仙台レディース)が初招集となった。2019年ワールドカップ予選に向け、競争が始まる。
なでしこジャパンを率いる高倉麻子監督は、今回の合宿のテーマをこのように話す。
「今回は、フィジカル(を高める)キャンプです。日本のフィジカル的なマイナス要素に関して、ただ走るのではなく、体の使い方とか走り方にも取り組みたいと考えています。」(高倉監督)
5日間の合宿の中では、対外試合などは組まれていない。
代わりに、88年ソウル五輪シンクロナイズドスイミングの銅メダリストで、現在はメンタルトレーナーとして活躍する田中ウルヴェ京(みやこ)氏と、08年北京五輪陸上男子400メートルリレーで銅メダルを獲得した朝原宣治氏を講師として招き、メンタルとフィジカルの両面から新たなアプローチを図る。
合宿地に西が丘サッカー場を選んだことについては、練習環境の良さに加え、栄養面から見直したいという意図もあるという(JISS概要)。
練習は、たっぷりと時間をかけたストレッチから始まる。2011年のなでしこジャパンのワールドカップ優勝を支えた広瀬統一フィジカルコーチの元、徐々に体の可動域を広げていくように、様々なメニューを一つ一つ時間をかけてじっくり、こなしていく。
DFの有吉佐織(日テレ・ベレーザ)は、このように話す。
「チームだと、フィジカルトレーニングは選手それぞれで行っているので、こういう機会に集中して取り組んでくださるのはありがたいです。いつもチームでやっているものとは、ちょっと違った動かし方や、足の運び方をするので、新鮮です。」(有吉)
フィジカルトレーニングでは、体のどの筋肉を使うのか、どれぐらいの負荷がかかっているのか、ということを意識しているという。FWの千葉園子(ASハリマアルビオン)も刺激を受けている。
「膝が内に入るのか外に出るのか、といったことや、体のバランスなど、そういうことを一つ一つ意識して取り組んでいます。チームでやるトレーニングよりさらに専門的で、(練習直後にもかかわらず)もう筋肉痛がかなりきています。」
フィジカルトレーニングの後には、ボールを使ったトレーニングが行われる。そこでも、技術にこだわったものというよりは、より「個」の力を高めるメニューが多く見られる。
たとえば、パス練習では、より長い距離でも正確に蹴り分けることを求められ、シュート練習は、より広いシュートレンジからゴールを決めることを求められる。
印象的だったのは、自陣から長い距離をドリブルしてトップスピードまで上げたところで、ペナルティエリアの外からミドルシュートを打つ、というメニューだ。
大部コーチから、「最低でも枠(内に飛ばせ)!」という声がピッチに響いた。
アメリカ代表やフランス代表などは、こういったシュート練習をよく行っている。
従来の日本の練習でよく見られるのは、FWの選手にくさびのパスを当てて、FWの選手が落としたボールに走り込んでシュート、という形である。そこでは連携やパスの質が問われるが、今回、高倉監督が取り入れている練習の多くは、より個人の技量が問われるものとなっている。
走り方、体の使い方など、フィジカル面だけではなく、メンタル面やサッカーの理解なども個の力であると、高倉監督は言う。
「今回(の合宿)はスピード、パワーというところにフォーカスしたメニューを組んでいます。そこの部分のマイナスをちょっとでも(減らして)ついて行って、日本が持っている技術とか組織的な強さとか、戦術的な部分での理解力の高さとかはさらに上げていく中で、もう一度、世界一を目指したいと考えています。」(高倉監督)
3月初旬に開幕するアルガルベカップが、このチームの初の公式戦となる。選手たちの継続的な取り組みが重要になる。
【「メンタル」と「走力」への新たなアプローチ】
21日の昼には、メンタルトレーナーの田中ウルヴェ京(みやこ)氏による講義が行われた。シンクロナイズドスイミングで五輪銅メダリストとなり、代表コーチも務めた経験がある。現在は日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士でもあり、様々な競技で、メンタルについて話すことが多いという。
メンタルは「心ではない」と、田中氏は言う。
「心ではなくて、頭(脳)なんです。ボールを蹴る時は脳が司って(指令を出して)蹴るし、『練習に行きたくない』とか『行きたい』ということも頭が判断するので、そのことについての話をしました。」(田中氏)
選手たちも、メンタルの捉え方や、その考え方に刺激を受けたようだ。GKの池田咲紀子は言う。
「緊張や不安などのネガティブな要素は、選手としては抑えつけたり、大丈夫だ、と言い聞かせたい部分なんですが、そこを認めて、出していく、ということを教えてもらいました。プラスの部分もマイナスの部分も、自分の感情として認めた上でコントロールするというところは、勉強になりました。」
23日には、北京五輪銅メダリストの朝原宣治氏によるスプリントトレーニングが行われる。世界と互角に戦うための「走り」の秘策が、なでしこジャパンにどのように注入されるのか、期待したい。
に続く