NYも真似!オスロ発・世界初の気候予算案に、やる気スイッチ効果?新発想がうまれる理由
時に絶望や個人の限界を感じやすい気候変動対策。
市民や企業をわくわくさせ、新しい発想を生み出したくなるような装置は、あったほうがいい。装置を作るのは、政治家の仕事。
北欧ノルウェーの場合、そのひとつが「気候予算案」だ。
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中道左派と「緑の環境党」の4党が連立して率いる首都オスロ。
2016年に、世界初となる気候予算案を発表した。お金を数値化するこれまでの予算案の中で、二酸化炭素の排出量までも数値化した。
世界初ということで、馴染みのない提案は驚きをもって現地で報道された。時間が経つにつれて、ほかの国でも報じられるように。
国連が選出する「欧州 緑の首都2019」にオスロが選ばれた理由のひとつも、この気候予算案とされている。
現在では、アメリカのニューヨーク市や他国の都市も、気候予算案を真似しようと検討している。
内容
- 各事業で毎年削減したい排出量と、どの事業でどの部署が「責任者か」を明確にする
- 毎年その結果が報告され、削減のためにより努力が必要なところには、市が助成金を出すなどをしてサポート
- 気候予算案があることで、公共機関だけではなく、民間企業にもやる気とインスピレーションを与える役割を果たしている
排出量ゼロを目指すための、政界や企業間の会議「ゼロ・カンファレンス」では、オスロ、トロンハイム、ハーマルの3都市が集まり、よりよい予算案を作るための話し合いがされた。
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私は気候予算案のことは以前から取材しているが、話を聞く時は、たいていはオスロの政治家からだ。
企業やほかの都市が、結果、どのような行動を起こしているかはあまり分からず、現地でも目立つニュースとはなっていなかった。
そのため、以前は民間企業の意見を聞けた時は参考になったし、今回は他都市の話を聞けることに、わくわくしていた。
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オスロの気候予算
オスロでは、2020年分が4回目の気候予算案となる。
オスロ気候局のガルバルグ氏は、「2030年までにゼロエミッション都市となるためには、気候予算案を含め、様々な対策が必要」と話す。
「気候予算案がある結果、全事業で『気候』という言葉が無視できない存在となりました」。
オスロでは年に3度にわたり経過が報告され、頻繁に評価・改善がされている。予算案の中にあるのは、削減したい数値だけではない。
「駐車場の使用料金が無料対象者への情報伝達、EVの充電設備、道路課金制度、自転車道の整備、排出量ゼロの建設機械や運搬車などへの補助金、市議会で専用の気候情報HPの製作」などの対策も記されている。
「野望がある目標達成のために、私たちは今、どの地点にいるのか」が把握しやすいようになっている。
「各自の責任を明確」にすることは、気候対策では重要だ。理想の言葉ばかりで、ぼやっとしがちな気候対策から、逃げられないような空気を作っている。
トロンハイムの気候予算
ノルウェーで第三の規模の都市となるトロンハイムでは、1991年比で、2030年には排出量を80%減らしたいという目標がある。2020年には10%減らすことが目標。
市の気候顧問であるローヴェランド氏は、「野望的な目標だからこそ、効果的な道筋が必要」と話す。気候予算がある結果、様々な行動がしやすくなっているようだ。
対策案として、重量物運搬車のための気候ニュートラルな駐車場の設置などがある。
電気自動車EVの普及については、「以前は国内でリードしていたが、それは昔の話で、今は新車販売数が伸びていない。今後は排ガスを出す車種に対する規制を厳しくして、EVを魅力的にする必要性がある」などの課題もしっかりと記載している。
予算案の一部がスライドで表示されていたが、難しい用語を使用しておらず、とても分かりやすい表現でまとめられているのが印象的だった。
ノルウェーでは、政府資料などを難しい言葉にせず、誰もが読みやすい文章が、「民主的」だとする考え方がある。
ハーマルの気候予算
オスロやトロンハイムと相違点が多いとされるのがこの都市の気候予算。2020年分が3度目の気候予算案となる。
2030年までに排出量を40%減らすことが目標。「市民」にフォーカスが当てられており、予算内容も「わかりやすい」ことにこだわっている。
「私たちのどのような生活行動が、排出量を出しているのか?」。自分たちの生活からでる排出量を、まずは市民が自分たちで把握しやすいようにしている。
飲食行動から16%、衣料品から3%、交通から33%など、市民行動から出る排出量も数値化。
「市民の消費行動の習慣を、問い直すキャンペーン」などの対策をしている。
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会場には、気候予算案にわくわくし、自分のアイデアを形にできないものか、どうすれば排出量を減らせるかと、考えている人が大勢いた。
これまで存在していなかった気候予算案という考え方は、聞いただけでは最初はピンとこないかもしれない。「人々のやる気と考える力に新たな火をつけ、新しい企業対策や政策を生む装置になっているのかもしれない」と私は感じている。
Photo&Text: Asaki Abumi