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IBF王者プラント、最強カネロとの対戦に前進 スーパーミドル級統一路線のシナリオ

杉浦大介スポーツライター
Photo By Sean Michael Ham/TGB Promotions

1月30日 ロサンジェルス

シュライン・オーデトリアム・エキスポ・ホール

IBF世界スーパーミドル級タイトル戦

ケイレブ・プラント(アメリカ/28歳/21戦全勝(12KO))

12回判定(120-108x3)

ケイレブ・トルアックス(アメリカ/37歳/31勝(19KO)5敗2分)

 ジャッジは3者ともにフルマーク

 サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)との統一戦が視界に入ったIBF世界スーパーミドル級王者の予想通りの完勝だった。

 もともと定評あるスピード、スキル、リングIQを生かし、プラントは序盤からトルアックスを寄せ付けずにあっさりと主導権を掌握。様々なパンチをバランスを崩さずに打てる上手さは出色で、37歳の挑戦者に付け入る隙は与えなかった。エキサイティングではなくとも、3度目の防衛戦は玄人好みのパフォーマンスではあったのだろう。

 もっとも、不満があるとすれば中盤以降にフィニッシュまで持ち込めなかったこと。プラント本人によると、4、5ラウンドに左拳を痛めたのだという。その影響もあって、ピークを過ぎたチャレンジャーを相手に終盤ラウンドに山場を作るには至らなかった。

 「序盤に拳を痛め、少し躊躇ってしまったところがあった。ただ、ほとんど被弾はなかったし、良いパフォーマンスができたと思う。ハッピーだよ」

 試合後、プラントはそう述べていたが、同じように感じたファンはどれだけいたか。

白人王者は商品価値が高く、プラントには大ブレイクの素養はある。 Sean Michael Ham/TGB Promotions
白人王者は商品価値が高く、プラントには大ブレイクの素養はある。 Sean Michael Ham/TGB Promotions

 トルアックス戦は地上波FOXでゴールデンタイムに全米生中継という大舞台であり、いわばショウケースの場だった。“スイートハンド”という耳障りの良いニックネームを持つプラントは、スター性のあるホワイト(白人)ホープだけに、アル・ヘイモンの期待が大きいことも伝わってくる。

 しかし、この日の試合に関して言えば、通称“ビッグFOX”の巨大プラットフォームを最大限を利用できたとは言えまい。

 「カネロに勝ったフロイド・メイウェザー(アメリカ)はフットワークとディフェンスが良く、距離を支配するのが上手な選手だった。次にそれをやり遂げるのは、同じように空間制圧能力があり、テンポを掴むのが得意で、フットワークとディフェンスに秀でたプラントではないか」

 プラント対トルアックス戦の前、FOXでこの試合の解説を務めた元世界ウェルター級王者ショーン・ポーターはそんな分析を展開していた。

 業界内にはスーパーミドル級王者の中ではプラントこそがスタイル的にカネロにとって最も面倒な相手だという見方が少なくなく、筆者も同意見ではある。ただ、トルアックス戦でのプラントの出来は、先月のカラム・スミス(イギリス)戦でキャリア最高とも思える強さをみせたカネロに脅威を感じさせるものとは思えなかったのも事実だった。

Photo By Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo By Sean Michael Ham/TGB Promotions

 Sミドル級統一戦線の見通し

 最新試合でのアピールはもう1つだったとしても、プラントとWBA、WBC同級王者であるカネロとの統一戦は遠からずうちに実現する可能性が高い。ミドル、スーパーミドル級は大金を稼げるカネロの“争奪戦”の様相を呈しているが、何より、カネロ本人が統一戦路線を熱望しているのがプラントにとっても大きい。

 今後のプランは以下の通り。カネロは2月27日にアブニ・イルディリム(トルコ)とのWBC指名戦が決まり、その後の5月上旬にWBO王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)と3冠戦をこなすところまでが内定。想定通りにカネロがその2戦を勝ち抜けば、プラントとの激突が見えてくる。

 4冠戦は早ければ今年9月に挙行か。カネロが宿敵ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)との決着戦を挟むことを選んだ場合には先送りになるが、遅くとも2022年春ごろまでにはスーパーミドル級に4団体統一王者が生まれる見通しだ。マッチメイクが難解になりがちなこの業界としては、実に明快なプランだと言って良い。

 ゴールデンボーイ・プロモーションズと袂を分かったカネロは現在はFAであり、2、5月の試合はマッチルームボクシングの主催興行でDAZNが生配信する。その後、プラントとの統一戦が決まれば、ヘイモン率いるPBCの本拠地となっているFOXがPPV中継という流れになるのだろう。

 こうして記すとシンプルに聞こえるが、通常であれば、この中継局選定が最も複雑で話がこじれかねない。

 FOXはメキシコのスーパースター対白人王者という最も美味しいコンテンツを長時間かけて準備できる。一方、DAZNはその前により規模の小さい2試合を配信してつゆ払いを果たし、間接的にFOXのビッグプランをアシストすることになってしまう。

 本来、テレビ局が嫌うのは、このように他局の“プロモーション役”にされてしまうこと。それゆえに、中〜長期契約していない選手への本格的な投資には尻込みするもので、ボクサーのFAでの活動の難しさもここに存在する。

中量級ではカネロ争奪戦が続いているが、カネロの方もIBFタイトルを持つプラントとの試合を熱望している。
中量級ではカネロ争奪戦が続いているが、カネロの方もIBFタイトルを持つプラントとの試合を熱望している。提供:Ed Mulholland/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「Undisputed(満場一致)」の王者誕生に向けて

 しかし、今回に関しては、この部分はカネロのスーパーミドル級統一路線の障害にはならなそうだ。

 パンデミック中に加入者を大きく減らしたDAZNには、ここでも選り好みしている余裕はない。試合ごとに加入者が大きく増えるのはカネロ戦だけという情報もある。将来的に他局を助けることになっても、DAZNは現役最高の興行力を誇る人気王者の2試合を配信できることには大きな旨味があると考えているようだ。

 今のDAZNは世界戦略を敷いているだけに、5月のシンコデマヨに国際色豊かな興行が打てることはプラスと捉えているのだろう(サンダースは英国でも人気選手といえないのはマイナスではあるが)。また、ここでカネロと良い関係を築いておけば、待望のカネロ対ゴロフキン第3戦をいずれ主催できるかもしれない。それらの要素から、中継局の問題で話が難しくなることはなさそうな気配だ。

 だとすれば、スーパーミドル級戦線はシナリオ通りに進む可能性が高い。怖いのはメインキャストの取りこぼし、故障といった不確定要素くらいか。それらが避けられれば、今から1年後には、「Undisputed(満場一致)」のスーパーミドル級王者が誕生しているか、あるいは最終決戦が視界に入っていることだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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