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アップル、HPから譲渡された特許権でパテントトロールに訴えられる

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

PatentlyAppleの”Apple has been sued for Patent Infringement regarding their 'Secure Enclave'”という記事を読みました。アイルランドのLionra TechnologiesがアップルのApple Payをサポートするデバイス(要するに、iPhone6以降のiPhone、iPad、Mac、Apple Watch等)に関して、米国で特許権侵害訴訟を提起したという話です。

Lionra Technologiesは、NPE(実業を行わず特許権行使を専業とする企業)であり、Atlantic IPというやはりアイルランドのNPEの傘下企業です。Apple以外にもCisco、Palo Alto Network、HP等に特許権侵害訴訟をしかけています。パテント・トロール、すなわち、悪性度の高いNPEと呼んでしまってよいのではないかと思います。

訴訟で使用された特許番号は、7,779,267です。発明の名称は、”Method and apparatus for using a secret in a distributed computing system”、出願日は2001年9月4日、登録日は2010年8月17日、権利は2028年6月6日まで存続します。おそらく米国内のみでの成立です。セキュリティ・ハードウェアに関する特許であり、出願日が2000年頃の特許によくあるパターンですが、現在の目で見るとかなり範囲が広く、トロールが好みそうな特許です(具体的な権利範囲については、有料パートで解説します)。

アップルがパテントトロールに訴えられるのは珍しい話ではないですが、このケースで興味深いのは、この特許は元々米HPが出願し、権利化したものであるという点です。2023年3月31日にHPからLionra Technologiesに譲渡されています。なぜ、HPは譲渡したのでしょうか?不要特許を処分したかったのだとしたら、RPXなどの防衛的特許アグリゲーション(権利は行使しない誓約の下に特許を買い取るだけでことで特許がトロールの手に渡るのを防止する仕組み)を行う企業に売却することもできました。わざわざ悪質性の高いLionra社に売る必要があったのでしょうか?

ここから先は想像になってしまいますが、実は、Lionra社は、2022年8月19日にHPを特許権侵害訴訟で訴えていました(その時使用された特許は7,916,6307,921,323です、これらについては別記事で解説しようと思います)。そして、その訴訟は2023年3月29日に和解で終結しています。和解は裁判外で行われているので当事者以外には詳細は不明ですが、タイミング的に、HPが和解の条件として、7,779,267特許をLionra社に譲渡したと考えてもおかしくないでしょう。Lionra社は特許権侵害訴訟の結果得られた別の特許を使ってさっそく2カ月後にアップルを訴えたわけです。「悪のわらしべ長者」とでも呼びたくなってしまいます。

では、この7,779,267特許の具体的特許内容を見ていくことにしましょう。訴訟で使用されたクレーム40の内容は以下のとおりです。

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弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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