「自分は世の中になじめない”異物”」と感じた時、その孤独を癒してくれるもの。『ワンダー 君は太陽』
今回は『ワンダー 君は太陽』と言う作品をご紹介します!
生まれながらの疾患で世間一般とは異なる少年が世の中に飛び出してゆく過程を、笑いと涙と家族愛、そして優しさと強さで描いためちゃめちゃ感動的な作品です。
主演は『ルーム』で注目を集めた天才子役ジェイソン・トレンブレイくんとジュリア・ロバ-ツで、原作は日本でも昨年発売されてベストセラーになった小説なのですが、映画化も是非是非見てもらいたい素晴らしい作品!見終わった後は、心の中にあったかーいものがこみ上げると思います~!
ということで、こちらをどうぞ!
まずは物語。主人公のオギーは10歳。生まれながらの遺伝子疾患で頭蓋骨に変形があり、おそらく「再生」「再建」といった名前の付くものも含めて27回もの手術を受けてきた少年です。でもそんなことはものともせず、明るく、優しく、そしてめちゃめちゃ賢く育った彼は、両親と高校生のお姉さんの愛情を一身に受ける、家族の太陽のような存在です。
でも自宅学習で同年代の友達がひとりもいない状況は、決していいとはいえません。年齢を重ねれば重ねるほど、社会に出るのは難しくなる――そう考えた両親は一大決心し、彼を学校に通わせることに。映画はそこから起こる、様々な出来事を描いてゆきます。
この映画は、人間にとって、ある意味ではすごく低レベル、にもかかわらず根源的で、それに関して語った途端に下品な人間か偽善者のどちらかになってしまうような問題を、ド直球に描いています。曰く「人間にとって見た目はどのくらい大事か?」。「見た目が9割」という言説を持ち出すまでもなく、目が見える人であれば、ビジュアルに全く影響されずに、最初からその人そのものを判断することなんてまず不可能でしょう。そういういたしかたない世の中に、特にオギーのような――まだまだ幼く、命と引き換えにそうなるしかなかった――少年が触れることの残酷を、映画の前半は描いてゆきます。
このあたりはもう切ないことの連続です。
オギーは自分の顔を隠したい時にはお気に入りの宇宙飛行士のヘルメットをかぶっていますが、学校ではそうはいきません。初登校の日、家族は学校の前まで送ってゆきますが、校門の前でヘルメットを取らなければならない。当然周囲の子どもたちからは無遠慮な視線と容赦のない言葉が浴びせられます。家族たちは「帰ろう」と言いたくなるのをぐっとこらえて、その後ろ姿を見送ります。
そして案の定の事態を経験したオギーは荒れまくるんですね。でも家族はむやみに「よしよし」したりはしない。オギーの八つ当たりをきちんと叱り、彼が家族にとってかけがえのない存在であることを何度も何度も伝えます。
救いはふたつ。ひとつは学校の先生たちの対応がほんとうにお手本のように素晴らしいこと。担任のブラウン先生は結構若いイケメン黒人なんですが、いつも生徒たちに偉人の格言――「正しいことをするか、親切なことをするか、どちらかを選ぶときには、親切を選べ」なーんて黒板に書いて、生徒たちに自分の行動を考えさせます。そして絶対に公平な校長先生、この人のおかげで胸がすく場面が何度もあります。
そしてもうひとつはオギーの豊かな想像力。辛い現実の中で「別の世界を想像できること」は「別の世界があると思えること」の証しで、それによって彼は決してギリギリまでテンパらないんですね。
そうするうちに、ひとりまたひとりと、オギーは友達を増やしてゆきます。頭がよくてユーモアたっぷり、明るく前向きで、礼儀正しいけど絶対に媚びず――このあたりは『ルーム』の天才子役ジェイソン・トレンブレイくんの独壇場。もちろんその顔は特殊メイクでずいぶん変わっているんですが、正直言うとそのことは見てるうち忘れちゃう。「見た目が9割」はそれほど長くは続かないことを、映画は観客に教えてくれます。
ですが!この映画がさらにいいのは、これを「そういう少年」の話だけに終わらせていないところ。
物語は、例えばオギーの姉「ヴィア」とか、オギーの最初の友達「ジャック」とか、ヴィアの友達の「ミランダ」とか、登場人物の名前で章立てになっていて、章ごとにその人の視点で描かれてゆきます。そして分かってくるのは、誰もがオギーとさほど変わらない寂しさ――状況を受け入れ頑張っているのに、なかなか上手くいかない自分を、世の中の「異物」のように感じていること。
そしてさらに、さらにいいのは、ある人物がそんなふうに思ってヘコんだ時に、思わぬ誰かが「大丈夫、私がいるからね」と言ってくれること。映画は人が幸せに生きていくための人間同士の関わりを描いているんです。
多くの人は寂しさのすべてを、ついついひとりの人にかぶせてしまいがちですよね。恋人なしでは生きられないとか、息子がすべてとか、親友にだけは秘密を作らないとか――でもすべての寂しさを生涯補完してくれるたった一人の人なんて絶対にいるわけないし、相手がそれを受け入れてくれなくなることもある。そうすると自分が辛くなるのは目に見えています。
この映画に出てくる人々は文字通り網目のようにつながって、誰かが誰かの寂しさを受けとめ、受け止めてもらった人が、今度は別の誰かを受け止めてあげる。両親に負けないくらい弟を愛しながら、弟しか見ていない両親に寂しさを覚えるお姉ちゃんの話とか、実はオギー自身の話より心に刺さる人が多かもしれません。優しさの連鎖でつながる人々が、それによって生かされていく。人間関係ってこういうためにあるんだなあと実感させられます。
もちろん私は意地悪なタイプですから、「ちょっと理想主義的すぎるんじゃないの~?」なーんて思わなくもありません。でもそれでも心が温まり、ウルっとこみ上げちゃったりして、こうありたい!こうでないと!と思うのだから、それなりのリアリティがある形であれば、理想を語ることは無駄じゃない。みんながそう思ってくれたら、世の中は少しは優しくなるんじゃないかな、とも思います。
お子さんを持つご両親は、ぜひぜひお子さんと一緒に。そうそう、犬好きの人もたまらないかも。そして映画ファンならば、この作品のジュリア・ロバーツを見逃すわけにはいきません。弟妹に嫉妬したことのあるお姉ちゃんお兄ちゃん、仲間外れにされた、した経験を持つ人、ご両親の離婚を経験した人――てなこといってるうちに、ああ、また日本全国民に見てほしいと思っちゃった。見てほしいんですけどね、ほんとに。
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