こじ開けられなかった分厚い壁。ヤングなでしこの前に立ちはだかった「世界」とはーー(1)
「強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ」ーー。
1974年のワールドカップ西ドイツ大会で優勝したフランツ・ベッケンバウアーの言葉が脳裏をかすめる。
120分間に及んだフランスとの激闘は、その現実を突きつけられるような試合だった。
日本は延長戦の末、フランスに1−2で敗れた。
【こじ開けられなかった分厚い壁】
日本のスターティングメンバーは、GK平尾知佳、DFラインは左から北川ひかる、市瀬菜々、乗松瑠華、宮川麻都。MFは左から長谷川唯、杉田妃和、隅田凜、三浦成美。籾木結花と上野真実が2トップを組んだ。
フランスは序盤、ピッチを広く使ってパスを回しながら、日本のディフェンスラインの裏に走る狙いを見せたが、日本はコンパクトな守備でスペースを与えない。個が強いフランスに対し、課題としていた1対1の間合いも悪くなかった。相手をスピードに乗らせず、フランスのサイド攻撃の脅威を抑え込んだ。日本はフィールドの11人が一本の長い紐で繋がっているかのように、ボールを奪うとお互いの良い距離感を保ちながら攻撃へと移行し、丁寧なパスワークにリズムの変化を加えながら、徐々にフランスを押し込んでいった。
だが、リスクマネジメントという点では、フランスも相当に慎重な入りを見せていた。ドイツ戦では1対1の局地戦で競り勝っていたが、この試合ではドイツ戦で右サイドの前線に張っていたキープレーヤーのDelphine Cascarino(背番号7)を2列目に下げ、4−4−2のフォーメーションでブロックを形成。フランスは、相手によって戦い方を変えるチーム力の高さも見せた。
それでも、その堅いブロックを、日本は左サイドから何度か崩した。同サイドはフランスにとっても攻撃の起点になるが、長谷川が的確な間合いでフランスの7番のスピードを殺し、攻撃時には抜群の判断とテクニックで相手の逆を取った。また、籾木が相手陣内でくさびのパスを収めて攻撃の起点になり、中盤や左サイドバックの北川を絡めたコンビネーションで対抗した。
日本のゴールは時間の問題とも思われたが、フランスのセンターバック2人は的確なポジショニングと体の強さを兼ね備えており、最後の壁を越えられない。日本のラストパスはその長い足に度々、引っかかった。
後半に入り、フランスがさらにブロックを固めてくると、日本は攻め手を欠いた。引き気味のフランスに対して、日本は相手の懐の中に入る回数が減り、試合は膠着。結局、90分間では決着がつかず、試合は延長戦に突入した。
試合が動いたのは、延長前半9分のことだ。一瞬の隙を突かれ、日本の左サイドを突破から上げられたクロスを中央でヘディングで押し込まれ、ついに先制を許した。2分後には、前がかりになったところで今度は右サイドを突破され、ゴール前の混戦から2点目を決められ、あっという間に点差が開いた。
延長後半4分には、籾木がペナルティエリア内で倒されて得たPKで1点を返したが、追いつくことはできず。世界一への挑戦は、残念ながら叶わない夢となった。
「結果的に、クロスからの失点という形で、日本が一番ウィークとするところを突かれてしまいました。流れが悪かったのはあの一瞬の時間帯だけだったと思いますし、それまでは選手達が相手のスピードを抑えてよくやってくれたと思います。交代も含めて、勝利を日本に引き寄せられなかった力不足を強く感じています。」(高倉監督)
指揮官の表情に、悔しさがにじんだ。
に続く