自衛隊の邦人退避計画で注目されるジブチ 大国の基地を抱える避難民の中継地 日本のNGOが現場に入った
アフリカ北東部・スーダンで続く軍事衝突を受け、今、「ジブチ共和国」への注目が集まっている。ここには2011年7月以来、PKO以外の自衛隊唯一の海外拠点があるからだ。
スーダンの在留邦人の国外退避に向け、浜田防衛大臣は、21日午後にも愛知県の小牧基地からジブチに向け航空自衛隊の輸送機1機が出発することを明らかにした。
政府によると現地の在留邦人は19日の時点でおよそ60名。滑走路上での戦闘で旅客機が炎上するなど、首都ハルツームの国際空港の状況は今も安定しておらず、それぞれの居住地から空港までの退避ルートも確保できていない。
TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG NEW GLOBAL」で現地の声を伝えた。
◆ジブチの自衛隊拠点はの役割は「国家防衛戦略」により変化
20日、現地関係者に聞くと「在スーダン大使館から在留邦人への連絡でも自衛隊機派遣の可能性に言及はあったものの具体的な案内は何もなかった」と明らかにした。現地で活動するNGOなどでは、これまでの内戦下でも国連機関などを通じた情報収集や退避ルートの確保の経験があり職員の安全管理のため今も独自の対応を続けている。
自衛隊による邦人退避の計画は、政治的にも失敗ができないという性質もある。
昨年末に岸田政権によって閣議決定された「安保3文書」。そのうちの一つ、防衛力のあり方を定めた「国家防衛戦略」にはジブチの拠点を「在外邦人などの保護・輸送」に活用することが、新たに明記されたことをみなさんはご存知だっただろうか。
ジブチに自衛隊の拠点が設置された理由は、ソマリア沖のアデン湾での海賊・海上武装強盗対策だった。しかし、昨年6月に公表された外務省の資料によると2022年(第1四半期)のソマリア沖・アデン湾の海賊等事案発生件数は0件。2011年の237件をピークにその後は激減。2015年以降、発生件数は0か一桁台が続いているが、拠点としての機能は維持されてきた。
そうした中、新たな「国家防衛戦略」では「アフリカ諸国等との間でも、グローバルな課題に対応するという観点から、防衛協力を強化する。特に、海賊対処、在外邦人等の保護・輸送等、この地域における運用基盤の強化等のため、ジブチとの連携を強化し、同国において運営している自衛隊の活動拠点を長期的・安定的に活用する」という一文が加えられた。
ジブチにおける自衛隊拠点の役割は「変化」した。
実はジブチには、日本の自衛隊以外にも、アメリカ、フランス、イタリア、そして中国の軍事基地がある。フランスはかつてジブチを植民地にしていた背景で基地を擁しているが、アメリカやイタリアは2001年9月の「同時多発テロ」以降に。中国は2017年から海外唯一の軍事基地を設けている。アジアから中東、アフリカまで、インド洋に展開する戦略的重要な地理に位置する。安全保障上の緊張を生み出す場所でもあり、連携を模索できる飛地のような場所でもある。
一方で、ジブチは人道支援にとって重要な中継地点でもあるということをぜひ伝えたい。陸続きのソマリア、エチオピア、エリトリア、さらにバーブルマンダブ海峡を隔てたイエメンといった紛争影響下の国々に囲まれ、難民の人々を受け入れるホスト・コミュニティの役を担っている。
◆「世界最大の人道危機」その手当てを行うジブチ
イエメンでは首都サナアを含め北部を制圧しイランが支援するアンサールッラー(フーシー)派と南東部を治めサウジアラビアを中心とする連合軍が支援する暫定政府との内戦が2015年から継続している。
「世界最大の人道危機」と呼ばれ、戦闘によって多くの市民が食糧危機による飢餓に喘ぎ、命を落としてきた。国民の3分の2以上の2,160万人が支援を必要としている。
しかし、これだけの危機にも関わらず、ウクライナをはじめ世界各地の問題に関心が集まり、イエメン内戦は「忘れられた紛争」と呼ばれ国際的に孤立してきた。
子どもたちを取り巻く環境も深刻で、イエメンには270万人もの不就学児がいるといわれている。大人は農地や職を失い、子どもは学校への登録もままならない。日々の食事の確保が精一杯で、医療費、教育費も支払えず、多くが不就学、学校に行けないのだ。
こうした中、今月に入り、ようやく停戦の兆しがあり、先日、捕虜交換が行われた。一時期より状況が安定してきたイエメンでようやく、日本のNGOの支援が始まろうとしている。
JVC・日本国際ボランティアセンターが昨年から現地調査に入り、子供たちの教育支援をスタートさせる準備に入った。ジブチ、イエメンを訪問した事務局長の伊藤解子さん、スーダン事務所の今中航さんに話を聞いた。
◆ジブチ難民キャンプの実態と「都市難民」の存在
ジブチには3つの難民キャンプがあります。一番この北の方に見えるのがオボックっていうところでここにイエメン人の人がいる難民キャンプがあって、南の方にエチオピア人とソマリア人がいる「ホルホルキャンプ」というのがあって、その下、南の方にこれも同じくエチオピアとかソマリアの方が多い「アリサベキャンプ」というものがあります。
この3つ難民キャンプの他にジブチ市内にも「都市難民」が7000人以上います。「都市難民」になると食料な支援物資などはもらえなかったりするんですが、難民キャンプが位置している場所が中心から外れた位置ということもあり、自分で働きながら生活して普通の民家だったり、アパートを借りながら生活しているという人も結構な割合でいます 今回は3つのキャンプを回っていろいろな状況を見てきました。
そのうちの一つが「マルカジキャンプ」という北部のキャンプです。周りに何もないと言いますか、砂漠の事態に建てられたキャンプです。
ジブチシティでも十分熱いんですけどその中でも最も熱い地域で、周りに小さな漁港しかなく、なかなか仕事をして自分で生計を立てていくことがすごく難しい地域です。でここに写っているキャンプと言いますか、テントがあるんですけども暑すぎるのでサウジアラビアがクーラー付きのテントを避難者の世帯分用意したというそういうキャンプです。
こういった大変な状況だということもあり、難民キャンプではなく、都市に出て来て働き続けている方たちも多いので、そうした方にインタビューをしました。
この方はイエメンのタイズ出身で元々サウジアラビアで出稼ぎをしてらっしゃったそうです。そこでお金を貯めて、その後地元に戻って結婚して自分の家を建て生活をしていたんですけど、紛争が始まって家が空爆で破壊されてしまったんですね。
農業をして生活をしていたんですけども、水を汲み上げるためのポンプも破壊され、燃料もなかなか手に入らなくなって立ち行かなくなりました。生活のために単身で船に乗ってジブチにわたり、3年後に家族を呼び寄せて先程紹介した砂漠にある難民キャンプで1ヶ月程生活していたそうです。
しかし暑すぎることもあり、喘息など病気を抱えた4人のお子さんいらっしゃるんですけども 病気や喘息がある子がいたりして、この環境では悪化してしまうということもあ離、キャンプを出て、自分でアパートを借りて働きながら生活をされていらっしゃいます。
家賃も物価も高く、水も水道水から出てくるものは海水の味がするので、買わないといけない。電気に関しても、ジブチはエチオピアから電力を輸入しているといこともあり電気代がすごい高いですよね。今、この男性は日雇いで運搬の仕事をされてるんですけども、やはり出費の方が多く生活が苦しいと心境を吐露されていました。
「自分が望むことは戦争が終わって故郷に帰って安全に暮らしたいそれだけ」ですと話されていました。
◆「戦争なんてしたくない」徴兵を拒み難民となった若者たち
次は別のキャンプで出会ったエチオピアから来た若者たちの話です。「ホロホロキャンプ」という場所です。私たちを見るなり30人〜40人ぐらいの若者が集まってきました。1人だけ英語ができる人がいて、私たちに「どうにかしてくれ」と、状況の大変さを必死に伝えていました。
何があったのかを聞くと、彼らはエチオピアの出身で内戦に直面していました。彼らは政府側の軍隊に徴兵されることになったものの「戦いたくない」と思い「逃げるしかなかったんだ」と話していました。
「徴兵を逃れた人は刑務所に入れられる可能性がある。だから怖くて逃げてきたんだ」と語り、エチオピアからジブチ国境まで5日間歩いたそうです。そして、さらにその国境からキャンプまで4日間歩き続けようやく難民キャンプに辿り着いたものの、すぐに保護されるというわけではなかったと言います。難民としての登録が済まないと物資ももらえない。住居も得たいがそれも進まないので、今は何ももらえないまま寝るところない状態でずっと待っているんだと言っていました。
今は周辺の村などを回って物乞いをしながら食べ物を恵んでもらっている、そんな状態だと言います。「どうにかこの現場を世界に伝えてほしい」と、熱心に伝えてきてくれました。本来なら様々な可能性を持って世界で活躍するそういう年代でもありますよね。顔を見てもわかる通り皆さん本当に若いんです。
◆多くの避難者のためイエメンを拠点にした支援を準備
JVCの伊藤さん、今中さんは去年から今年にかけ、ジブチやイエメン国内の難民キャンプなどを訪ね調査を行なってきた。アフリカ各地からの避難者はジブチからイエメンにわたり、次の避難地を目指す。一方、イエメンからの避難者は命懸けで小船に乗ってジブチを目指し暮らしの立て直しをはかる。
今回、自衛隊によるスーダンからの邦人退避の報道で注目を集めるジブチだが、この現場はまさに世界の紛争による人道支援の中継地。混乱と分断を手当するための鍵を握る地域だ。
こうした現場で活動する人道支援団体の活動にも目を向けていただきたい。私たちの国がこれまで積み重ねてきた「平和国家・人道国家」としての実績と経験が生きる地域だ。今中さんや伊藤さんのように、コツコツとその道を歩く人たちがいる。
インタビューの最後に今中さんは「イエメンだけじゃなくてエチオピアやソマリアなど各国が抱える問題はとても根深く名深く一国、一国だけを見ていても解決できたいのが現状です。そうした国々からここジブチ、そしてイエメンに避難してきた方々のお話を聞くと、自分の力だけでは生活していく術がない、今のままでは家族を支えていくのが難しい、だから外国に行かざるを得ないという切実な訴えを耳にします。なんとかできることを考え、実行していきたいと思っています」と語っていた。
そして、事務局長の伊藤さんは「日本の自衛隊がいるということで、現地の方々と日本との繋がりを感じました。様々な声をかけてもらう中で『全てのキャンプを支援を始めるならばしてほしい』という強い期待の声を現地の関係者の方々から聞くことも少なくありませんでした。まずは多くの方々にきょうお話しした、こうした現状を知ってもらう、そうしたところから始めていきたいと思っています」
JVC・日本国際ボランティアセンターでは、現在もジブチからイエメンでの調査などを続け、まず紛争下にあるイエメンの子どもたちの生活環境と教育環境の改善を支援するために、パートナーである現地NGOのNahda Makers Organization(NMO)とともに活動をスタートさせる計画で、現在、クラウドファンディングなどを通じて活動資金を集めている。