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単独トップの高安を御嶽海・若隆景・琴ノ若が追う ”荒れる春場所”主役になるのは誰だ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

中日を終えた大相撲春場所。横綱・照ノ富士の休場は、非常に寂しく残念ではあるが、多くの力士にチャンスがあるともいえる。

高安が単独で中日勝ち越し

唯一中日で勝ち越しを決めたのは、大関経験者の高安だ。この日の相手は、今場所特に連日いい相撲を見せている若元春。新関脇・若隆景の兄であり、兄弟で連日土俵を沸かせている。両者頭で当たって四つになるが、高安は若元春にまわしを許さない。左の下手を取られても、高い技術で何度もその下手を切る高安。最後は一枚まわしの右上手で豪快に相手を投げ倒した。

これで、単独トップを守ったまま勝ち越しを決めた高安。このまま星を伸ばしていけば、念願の初優勝も夢ではない。さらには、平幕ながら土俵を盛り上げたこと、まわしを切る高い技術などが評価され、三賞の受賞も考えられる。気が早いのは重々承知の上だが、個人的にも同学年力士の一人として応援している。近い将来、もう一度大関としての高安の姿を見たい。

若手の台頭 琴ノ若の強さが光る

1敗で高安を追いかけるのは、新大関・御嶽海、新関脇・若隆景、琴ノ若の3人。本稿では特に琴ノ若に注目したい。筆者は、場所前に二度も彼に電話で取材をした。初めて話をさせていただいたが、24歳という若さで、達観した価値観を持ち、自らいろいろなことを考えて相撲に取り組んでいることがわかり、非常に感銘を受けた。

例えば、いつも淡々と落ち着いて取れている理由を聞いたとき、緊張すること自体は悪いことではないとした上で、このように教えてくれた。

「日々勝たないといけないなかで、相手ではなく、自分との戦いだと考えること。この場で変な緊張をしているくらいだったらまだまだだ、気持ちで負けていたら話にならない、と思っています。つまり、相手ではなく対自分。自分に負けたら相手にも勝てません。その勝負どころを間違えなければいいのかなと思います」

メンタル面に関しては、大谷翔平選手をはじめ、他競技の選手の考え方も勉強しているそう。ただ、「こういう考え方もあるんだなと、間接的な部分で勉強にはなりますが、真似事でよくなるわけではないので、人の真似をするのではなく、あくまで自分がこうあるべきと思うところに重点を置き、自分のペースを貫くことが大切だと思っています」と、淡々と語る。

この日も、ベテランで相撲巧者の遠藤を相手に、一気の攻めで押し出し。豊昇龍らに加え、非常に楽しみな若手が育ってきている。近い将来の角界も、きっと私たちを楽しませてくれることだろう。

いよいよ今日から後半戦。“荒れる春場所”はどうなるのか。結末はまだまだわからない。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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