とると痛い、とらないと広がるかも、、「みずいぼ」の処置の正解はどっち?
夏は「みずいぼ」が流行する季節です。
「みずいぼ」は正式には伝染性軟属腫といい、小児によくみられるウイルスによる感染症で皮膚に「水っぽい”いぼ”」ができる病気です(※1)。
(※1)Schaffer JV, Berger EM. JAMA Dermatol 2016; 152:1072.
0~16歳の子どもにおいて、ある時点でのみずいぼを持っているお子さんは5.1%~11.5%だったと報告されています(※2)。
(※2)Olsen JR, et al. Family practice 2013; 31:130-6.
とても多い病気ですね。
そしてみずいぼに関しては、一般的に「とる」治療が行われています。
しかし、「とる」治療は痛みを伴いますし、みずいぼは自然に良くなってくることもわかっています。
ですので、「自然に良くなるのを待ちましょう」という指示も少なからずありますし、間違っているわけではありません。しかし、「とらない」治療を選択したあと、大きく広がってしまい悩んでいるご家族もいらっしゃいます。
すなわち、みずいぼの治療として、「とる」にしても「とらない」にしても、メリットとデメリットがあるといえます。
どちらの治療にするか選択をしなければならないわけですね。
多くのみずいぼに関する記事には具体的な数字は示されていないことが多く、治療の選択にちょっと困ってしまうかもしれません。
ですので、今回は、みずいぼに関する研究結果に関し、数字を上げながらお話しいたします。
その「みずいぼ」、いつごろ改善する?
かかってしまったみずいぼが自然に治るとして、その時期はいつごろでしょうか?
2週間後でしょうか?
それとも1か月後でしょうか?
夏のプールに間に合うのでしょうか?
4~15歳の小児306人のみずいぼが、いつごろ軽快したかを評価した最近の報告では、改善するまでの期間は平均13.3か月だったとされています。
そして269人中80人(30%)が18か月以内に軽快せず、36例(13%)は24か月経過しても軽快しなかったという結果でした(※3)。
(※3)Olsen JR, et al. Lancet Infect Dis 2015; 15:190-5.
ざっくりまとめると、1年で半数、2年で9割が改善するということですね。
さらに具体的にまとめるなら、初夏にみずいぼにかかったらその夏のシーズンはみずいぼと付き合っていく必要性が高く、次のシーズンもみずいぼは半数の確率で残っているかもしれないということです。
みずいぼは、子どもの生活の質を下げる。
小児の様々な皮膚疾患の中でも、みずいぼは脱毛症と同じくらい生活の質に影響し、みずいぼのある子どもの10%の生活の質を大きく下げることがわかっています(※4)。
(※4)Olsen JR, et al. Br J Dermatol 2016; 174:853-61.
みずいぼのウイルスは皮膚の奥にまで到達するようなウイルスではなく自然に良くなってくる可能性が高いとはいえ、生活の質には少なからず影響するということですね。
みずいぼとプールや入浴
みずいぼウイルスは、水を介しては感染しないとされているため、本来プールは入って良いとされています(※5)。
(※5)日本小児皮膚科学会ホームページ
しかし、園や学校によっては、みずいぼがあると「受診してとってもらってください」といわれて受診されるかたも少なからずいらっしゃいます。
もちろんこれは、問題のある指導方法です。
ただ、水を介しては移らないですが、一緒に入浴するきょうだいへの感染リスクは少なからずあります。
たとえば、みずいぼのお子さん250例中102例(41%)が、家庭内の他の子どもへ伝染したことが報告されています(※3)。
家族のように濃厚に接触する可能性が高く共用のタオルなどがある場合、4割は伝染してくると予想されますので注意をしておく必要があるでしょう。
「とる」治療に関しての情報は?
小児のみずいぼ2,022例を調査した、みずいぼを「とる」治療をした結果に関する報告があります。
50~60%は2〜5歳で、みずいぼにかかっている期間は51%が1〜2年、32%が1年未満、17%が2年以上でした(結構長いですが、最初にあげた研究結果と似ています)。
なお、86%は以前に医療機関に受診したことがあり、76%はみずいぼを治療しないよう忠告されていたそうです。
そのうち、1,879例が「とる」治療を受け、70%が1回の治療で治癒し、26%が2回の治療で治癒したそうです(※6)。
(※6)Harel A, et al. Pediatr Dermatol 2016; 33:640-5.
なお、みずいぼの数が多いと「とる」治療が失敗しやすくなったという報告もあります(※7)。
(※7)Simonart T, De Maertelaer V. British journal of dermatology 2008; 159:1144-7.
数が多くなってくると手がつけられなくなっていることが想像できます。
「とる」治療を選択するならば数が多くなる前がよさそうですね。
「とらない」治療に関する情報は?
よく「みずいぼに対して”ハトムギ茶”」をという民間療法がありますが、ヨクイニンはそのハトムギの成分でできています。
ヨクイニンはイボによく使用されている割には、みずいぼに対する効果に関してはあまりきちんとした研究は少ないです。
日本からのやや古い報告では、2歳以上15歳以下のみずいぼに対してヨクイニンを使用すると、4週間後の改善率が良かったという結果がありますが、8週後以降は改善に差がなくなっていました(※8)。
(※8)ヨクイニンエキス散研究班. 皮膚 1987; 29:762-73.
なおヨクイニンは漢方薬の1種であり「尋常性疣贅(いわゆる”イボ”)」に対しては保険適応があるものの、みずいぼそのものには保険適応はありません。
その他、サリチル酸(角質を除去する”いぼ”で使われる薬)やイミキモド(腫瘍に使われる薬)も一部試みられているようですが、データは少なく、サリチル酸は子どもには刺激が強すぎるのではないかという意見もあります(※9)。
(※9)Hanna D, et al. Pediatr Dermatol 2006; 23:574-9.
痛い治療は保護者さんと同様、医師も避けたいところです。
ですので、「とらない」治療に関し様々試みられているのですが、なかなか「これ」という治療はないのが現状と言えそうです。
アトピー性皮膚炎があると、みずいぼを発症しやすく治療を失敗させやすい。
アトピー性皮膚炎の既往があるとみずいぼは発症しやすくなることが報告されています(※10)。
(※10)Olsen JR, et al. Br J Gen Pract 2016; 66:e53-e8.
また、アトピー性皮膚炎があると、せっかく頑張って「とる」治療をしても失敗しやすかったという報告もあります(※7)。
みずいぼに対して皮膚のケアは大事と考えられます。
「とる」にせよ、「とらない」にせよ、情報を持ち選択していくのが良いと考えられる。
さて、ここまで読まれてきてどのように感じられたでしょうか。
みずいぼに関しては、自然に改善する時期の見通しを医師と共有しながら、「とる」も、「とらない」を選択する必要性があるということですね。
「とる」治療は痛みがありますし、たくさんに広がってしまうと「とる」ことは難しいでしょう。
一方で、「とらない」治療を選択する場合は、1年で半数、2年で9割改善という「時間」を受け入れる必要があります。
どちらも間違いとはいえないですし、正解ということです。
ただ、多忙な外来ではどうしても説明が不十分になることもありますので、具体的な情報をご紹介しました。
ただし、どちらの選択肢を選んでも、スキンケアは丁寧に続けておくことをおすすめいたします。