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ウーバーやホテルを使った「コロナ下の避難方法」とは フロリダ

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
フロリダ州に接近する2019年ハリケーン・ドリアンの衛星画像(提供:STAR GOES-East/NESDIS/NOAA/ロイター/アフロ)

突然ですが、問題です。

避難所の中で人と人との社会的距離を2メートル取る場合、各人は最低どのくらいの面積を確保しなくてはならないでしょう。

学生時代を思い出して考えてみた問題です。答えは、直径2メートルの円の面積なので、1×1×円周率=3.14平方メートルとなるかと思います。

日本の避難所事情

一方で内閣府防災担当がまとめた「避難者に係る対策の参考資料」を見てみると、関東地方の「避難所における1人あたりの収容面積は、1.57~2.93 平方メートル/人である」と書かれてあります。

3.14平方メートルに達していません。

家族が多い避難所であれば少しはよさそうですが、やはり避難所で「3密」を避けることは難しそうです。

これから台風や梅雨といった出水期に入る中で、避難に関する課題は益々大きくなっていくでしょう。

「家にいたら災害に巻き込まれる心配がある、でも避難所に行ったら感染のおそれがある」といった大変な二者択一に追い込まれることになります。

それは外国でも同様です。そんな中で、新しいアイディアでその課題に取り組もうとしているところもあります。アメリカ・フロリダ州では、こんな興味深い取り組みが計画されているようです。

フロリダ州のハリケーン・避難所事情

全米でもっともハリケーンの直撃確率が高いのがフロリダ州です。フロリダ州が面するのは大西洋とメキシコ湾ですが、これらのハリケーンシーズンは6月1日から始まります。

避難所となるのは、主に学校です。調べてみると、フロリダ州の避難所の一人当たりの平均収容面積は1.8平方メートルのようです。日本とほぼ変わりませんね。社会的距離を確保することは難しそうです。

フロリダ州の避難方法計画

そこでフロリダ州全体の危機管理を行うFlorida Division of Emergency Managementのジャレッド・モスコウィッツ氏は、下記のような方法を検討中であると話しています。

【ステイホームの避難】

カテゴリー2以下の比較的弱いハリケーンの接近が予想される場合で、もし自宅が頑丈な建物であれば、避難命令ではなく、ステイホーム命令に切り替える。つまり、家にとどまるよう指示をする。

【ホテルの利用】

避難所で社会的距離を保つことが困難な場合、代わりにホテルに避難してもらう。コロナの影響で空き部屋が多いので、ホテルも積極的である。

【ボランティア】

他州から応援に来るボランティアの不足が予想されることから、失職中のフロリダ州民に有償で働いてもらう。

【移動の手段】

経済的に困窮し、ガソリン代が払えないという人々に、ガソリンカードを支給して避難してもらう。また自家用車がない人の場合は、バスなど多くの人を一度に乗せる方法ではなく、ウーバーやリフトなどといった配送サービスの会社を雇って、少人数で移動させる。

(※実際、2019年にフロリダ州をハリケーン・ドリアンが襲った際にも、片道最大20ドル等といった料金制限付きではあるが、同社による無料送迎サービスが住民に提供された)

このように、フロリダ州で検討されている避難の方法は、安全を確保しながら、困窮している人や業種に雇用の機会を提供している点で、よく工夫されていると思いました。わが国でも十分見習えることがあるように思います。

≪参考文献≫

*"Coronavirus could change Florida's hurricane planning: Hotels, Lyft, Uber all in play" (USA Todayの記事)

*「避難者に係る対策の参考資料」(内閣府防災担当)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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