40年ぶりリメイクとなった『ムテキング』 プロデューサー明かす令和に蘇らせた狙いとは
近年、古き良き名作をアニメや漫画としてリメイクしたり、その続編を出したりする動きが盛んになっています。例えば1989年から96年にかけて週刊少年ジャンプで連載され、91年から92年にテレビアニメも放送されていた人気作品『ダイの大冒険』のアニメが2020年10月から約20年ぶりに放送されているほか、1990年代に大ヒットしたアニメ『美少女戦士セーラームーン』も21年1月に劇場版が公開されました。リメイクされる作品の幅も、小学生向けから中高生向けまで幅広いものとなっています。
10月放送されているアニメ、『MUTEKING THE Dancing HERO』もその一つです。この作品は1980年から81年にかけて放送されたアニメ『とんでも戦士ムテキング』(『ムテキング』)を“リブート”したものとしており、音楽を前面に打ち出した演出が中心となっています。
毎話のように登場する新曲 音楽で戦闘
原作となる『ムテキング』は、1980年代当時のサンフランシスコをモデルにした街を舞台に、小学生の主人公がムテキングというヒーローに変身して地球征服にやって来た宇宙人たちと戦う物語です。変身時に主人公が主題歌を歌って踊るシーンが話題を集めました。
『MUTEKING』は、変身後に主題歌を1曲歌い上げるコンセプトを活かし、主人公の変身時だけでなく戦闘シーンを丸ごと歌とダンスで描く演出になっています。『MUTEKING』を企画した、タツノコプロの松永まり恵プロデューサーは、誕生のきっかけをこう語ります。
「変身時に一曲歌い上げる『とんでもヒーロー』を現代に蘇らせるなら、『そのまま歌って踊ることがバトルにならないかな?』と考えていました。元々、80年代の文化にも興味があり世間の需要も高まる気配があったので、カセットテープやラジカセ、ローラースケートなどの象徴的なアイテムもそのまま作品に生かす形で『MUTEKING』の企画が生まれました。2016年末のことです」
作品全体に80年代を意識したレトロポップな雰囲気にこだわっているのも特徴です。ORANGE RANGEが楽曲を担当したオープニング曲は、80年代感のあるスローテンポなダンスミュージックに仕上がっているほか、キャラクター原案には、レトロな色彩で世界中でファンを集めるポップアーティスト・Utomaru(THINKR)さんを起用し、ビジュアルの面でもこだわりを見せています。
ダンスシーンは3DCG技術を用いて制作されており、『歌って踊るヒーロー』を表現しています。毎話のように登場する作中挿入歌にも力を入れており、例えば山下達郎の代表曲「LOVE SPACE」をアレンジした楽曲や、和田アキ子のデビュー曲「星空の孤独」の英語版、矢野顕子が作詞作曲をした新曲などが登場します。主人公役にも、一般公開オーディションで選ばれた新人声優・真白健太朗を起用しています。
幅広いアーティストを起用した狙いについて、松永プロデューサーはこう語ります。
「世界中で80年代のシティポップが再評価される流れがあり、『本当に素敵なものは時代を超える力を持っている』ことを描きたいという思いで、ダメ元でお願いしました。本当に有難いことに、さまざまな世代、ジャンルのアーティストの方々に参加いただくことができました」
多様性をテーマにサンフランシスコの街並みを描く
音楽やダンスシーンだけでなく、作品の中身についても大きく“リブート”されている『MUTEKING』。『ムテキング』の舞台はサンフランシスコならぬ「ヨンフランシスコ」でしたが、『MUTEKING』では「ネオ・サンフランシスコ」となっており、街並みはサンフランシスコさながらの光景が描かれています。松永プロデューサーはこう振り返ります。
「舞台のモデルであるサンフランシスコは、街自体に魅力があり時代性も感じていたので、リブート作の舞台はリアルなサンフランシスコにしたいと企画段階から決めていました。当時はコロナ禍の影もなく、実際に監督達とロケハンができたことは幸せでした。その時の資料をもとにサンフランシスコを象徴するスポットの数々を舞台として描いています」
80年の『ムテキング』では、そこまで写実的にサンフランシスコの街並みは描かれていませんでしたが、『MUTEKING』では舞台探訪も楽しめるような作品に仕上がっています。さらに、舞台だけでなく街の人々も作品に活かされていると松永プロデューサーは明かします。
「サンフランシスコは、これまでの歴史からもわかるように多様性の濃度が高い街です。『MUTEKING』でも様々な文化や価値観を持った人々をリスペクトしたいという気持ちがあり、それは作品にも反映されていると思います。個性豊かなキャラクターが多いのは、ある種の暗喩や誇張表現もありますが、そういった背景があるからです。どんなキャラクターも、そんな生き方も、多様性の中のひとつとして描くことが『MUTEKING』の裏テーマでもありました」
巨大IT企業との闘いを描く意欲作
また、敵の組織も宇宙人の一味「クロダコブラザーズ」から、ネオ・サンフランシスコにある巨大IT企業「オクティンク」に変わっています。オクティンクは世界の公共インフラから街の飲食店までカバーしている企業で、あらゆるサービスを通じていつの間にか人々を支配しようとするシーンが描かれます。
これが80年代や90年代の作品であれば、ディストピア世界を描いた近未来SFと面白く観られるのかもしれませんが、令和の時代を生きる我々からすると、とても他人事ではないように映ります。まして、現実のサンフランシスコはシリコンバレーにほど近く、そこに本社を置く巨大IT企業は我々の生活に欠かせない、インフラとも言えるサービスを現実に提供しています。ここが、令和版『MUTEKING』の奥深さとも言えます。
しかし、松永プロデューサーはこう説明します。
「誤解されるのですが、実在する企業を批判する意図はなく、オクティンクは『人間を虜にする魅力的なもの』を知っていて利用しているにすぎません。既に物語の中では明かされていますが、ある目的のために人間が必要であり、人間を惹きつけ誘導する手段として新しいガジェットや魅力的なサービスを選んだということです」
今を生きる人に刺さる作品にしたい
『MUTEKING』の目標について、松永プロデューサーはこう明かします。
「『ムテキング』が80年代だからこそ深く刺さったアニメになったように、『MUTEKING』も令和という今の時代を生きる人たちに届く作品になればと思っています。このアニメを見て、作品のコンセプトにもなっている『お前は敵か? じゃあ踊ろう!』というノリをシェアできる人が少しでも増えたら、世界はちょっとだけ、よりハッピーになるのではないかと夢見ています」
物語はクライマックスに差し掛かっていますが、斜め上の新展開で先が読めない作りになっているのも作品の魅力です。『ムテキング』を観て育った人はもちろん、知らない人が観ても、80年代と令和を対比させて、今という時代を考えさせられる作品だと思います。
(C)タツノコプロ・MUTEKING製作委員会