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吹奏楽部からレギュラーへ。ポイントを貯めて狙うは開幕スタメン

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年
マネージャーが集計した今年のポイント(筆者撮影)

 全国屈指の激戦区大阪から甲子園出場を目指す春日丘高校ではオフシーズンの練習にポイント制を取り入れている。これは選手の頑張りを数値化したもので、最終的に獲得ポイント上位9人がオフ明け最初の練習試合でスタメンに選ばれる。選手が必死にならないはずがない。ポイント獲得方法は大きく2つある。

高ポイントの絶対条件は練習を休まないこと

 1つ目は練習参加と投票によるもの。火水曜日が7時間授業のため基本的に火曜日をオフにしており、オフからオフまで1週間フルメニューをこなすと10ポイントを獲得する。オフ前日の月曜日には選手それぞれが考えるその時点でのベストナインを紙に書いて提出し、1票がそのまま1ポイントとして加算される。これはグラウンドを広く使える土日に行う紅白戦での結果だけでなく普段の練習態度も加味しての投票。この時、被選挙権があるのはフルメニューをこなした選手だけ。インフルエンザなどで練習を休んだりどこかを痛めて一部でもメニューをこなせなかった場合、10ポイントはもらえず投票もされないためライバルと大きな差がつく。選手の意識は自然と体調管理に向かうはずだ。注意点としては投票したい選手のポジションがかぶる場合、本来はセカンドの選手を打力を生かすため外野にするなどあり得るコンバートなら可能だが、左利きの選手をサードにしたり、体格のいいキャッチャーをショートにするなど現実味のないポジション変更は認められない。

アメリカンノックの様子。グラウンドは他クラブと共有であるためすぐ後ろではサッカー部が練習を行い、手前のラインは陸上部が走るトラック
アメリカンノックの様子。グラウンドは他クラブと共有であるためすぐ後ろではサッカー部が練習を行い、手前のラインは陸上部が走るトラック

 1つ目の練習参加と投票は毎週積み重なっていくものだが、2つ目の能力面は部内順位をそのままポイントに置き換えたもの。体重、打球速度、遠投、ベースランニング(2塁打)、持久走(3000メートル)を計測し1位から順に高ポイントを獲得する。今年の春日丘高校なら部員数20人だから1位は20点、2位は19点、3位は18点・・・という具合だ。ただしBMIだけは例外的に24以上の選手は全員1位扱いとなる。さらに各種目にはこの順位点とは別に基準値を3段階設定し、これを超えるとボーナス点が付与される。例えば打球速度は135km/h以上で5点、145km/h以上で10点、150km/h以上で15点。5点は試合に出る選手ならばクリアしてもらわないと困る数値、10点はチームにアドバンテージをもたらせる選手の数値、15点はどこに出しても恥ずかしくない一流プレーヤーの数値を設定している。各種目は定期的に計測するがそれはあくまでも途中経過、2月最後の練習で測った数値が実際のポイントになる。

ミーティングでボーナス点について説明する桃原監督
ミーティングでボーナス点について説明する桃原監督

 練習参加は頑丈さを、投票によるベストナインは仲間からの信頼を、各種目は選手としての能力を表したもの。キャプテンの内山貫太郎は「普通に冬練するよりもモチベーション上がるし、自分がどれだけ上がったか数値化されるのはとても良い制度だと思いました。休んだらポイント下がるので体調管理しっかりしようと選手同士で言い合ってましたし、1ポイントにこだわることが競争につながりました」と話す。このポイント制によって抜擢され、そのままレギュラーの座をつかんだのが中学時代は吹奏楽部だったという利井信順だ。

新戦力発掘にも効果てきめん

 冬練が始まった段階では桃原俊典監督の頭の中で夏の戦力として計算している選手ではなかった。それでも利井は「(部長の)有川先生から『冬泣いたやつが夏笑う』と言われてそれをイメージして頑張ってました。ポイント制は周りとの差を数字で見られるのと投票は試合に出てほしいという思いなので、練習に向き合う気持ちも高まると思います」と真面目に取り組んだ結果、打球速度は20km/h近く速くなり、ベースランニングは4位で持久走は3位。総合成績で8位にランクインし見事スタメンの座を勝ち取った。

ポイント制からレギュラーとなった利井。勝負強い打撃が持ち味で出塁率と盗塁成功率も高い
ポイント制からレギュラーとなった利井。勝負強い打撃が持ち味で出塁率と盗塁成功率も高い

ただし1つ問題が。当時はサードを守っていたが同じポジションには獲得ポイント上位で4番を打ち、試合終盤にはマウンドにも上がる中心選手がいた。1試合目の外野で出るか2試合目のサードで出るか、判断を委ねられた利井は「秋もベンチには入ってたんですけど試合に出る経験がなかったので1試合目を経験したかった」と外野を選択。少年野球でほんの少しやっただけというポジションに挑戦した。慣れないポジションゆえエラーもするが追い方は悪くないし足もある。何より思い切りが良くミスを怖がらない。結局、この試合をきっかけにレギュラーの座をつかむと、夏は背番号7をつけ2試合連続で適時打を放つ活躍を見せた。

投票結果や測定値は途中経過が毎週グラウンドに張り出される
投票結果や測定値は途中経過が毎週グラウンドに張り出される

 春日丘高校は2年前に夏の大阪ベスト8入りを果たしている。この時も構想外だった選手がポイント制からチャンスをつかみチームに貢献した。ポイント制の発案者である桃原監督は「思い切ったことが出来ますね。利井の外野なんて思いつきもしない。この冬も期待を裏切ってほしいですね。秋の大会が終わってからの練習試合は春、夏をにらみながらやってますのである程度、こういうメンバーでやっていくんだろうなというのはあるんですけど、それをぜひ覆してもらいたい。それが楽しみでもありますよね」

 「体調管理しっかりしろよ」「冬の間、頑張ったやつを使う」おそらく日本の至るところで言われているであろう言葉だが、ミーティングで何度そう話すよりもポイント制を導入した方が遥かに効果が高い。項目や基準値を変えればいくらでもアレンジが可能。モチベーションアップと新戦力発掘にかなりオススメの制度だ。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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