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命がけの帰国!サタンがとり憑いている!信仰2世の壮絶脱会体験からみえる、山上容疑者の犯行動機と心の闇

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:Fujifotos/アフロ)

「あなたにサタンがとり憑いているからよ!」

こんな言葉を親から言われた、旧統一教会の2世信者たちの苦悩はどれほど深いでしょうか。

安倍元首相を銃撃したとされる山上容疑者も10代の頃、母親に連れられて教会にいき、教義を学んでいたとの報道も伝えられています。

家族を教団に奪われた恨み。それにより旧統一教会に対して、暴力など過激な行動に出てしまう懸念は、元信者としての目からみて充分に考えられることでした。しかし、まさか殺人行為にまで及ぶとは思っておらず、私は大変なショックを受けました。しかも容疑者が信仰2世として教義を学んでいた可能性もあり、二重の驚きでした。もしこれらが事実であるとするならば、一つの埋まらないピースを感じていました。

それは、恨みを募らせて殺害の凶行にまで考えが至るものだろうかという思いです。そこには何かもう一つの要素があるのではないか。

未成年期に学んだ教義から抜け出すのが難しい現実

彼と同じように、90年代に母親から教団に連れられて、教義を学び入信した女性(冠木さん)に脱会までの経緯を伺いました。みえてくるのは、未成年期に学んだことが成年になってからも強い影響力を持ち続け、そこから抜け出すのが難しいという現実です。

冠木さんは、信仰2世として2度の合同結婚式(祝福)に参加しました。いずれの結婚の相手も韓国人でした。

一人目の韓国人男性からは、暴力を振るわれるなどして離婚。次に紹介された二人目の男性からは多額の借金を背負わされて、子供らを連れて命からがら日本に逃げて帰ってくるという大変な目に遭っています。2012年に文鮮明教祖の死の報を受けてマインドコントロールされている自分に気づき、翌年に韓国から帰国しています。

入信のきっかけは、高校時代

冠木さんの母親は天地正教という、旧統一教会の別組織から誘われて入信しました。そのうちに、高校生だった彼女も熱心に通う母親に連れられて天地正教を訪れています。

「そこは弥勒菩薩を本尊として祀っている小さな道場でした。キリスト教では再臨主(メシヤ)ですが、天地正教ではそれが弥勒仏になっています。そして罪を持って生まれた堕落人間は、弥勒仏を信じることで救われるという教えです」

私のような青年はキリスト教の教えを使って誘い入れられますが、彼女の母親のような主婦など、齢の高い方には、仏教を通じて誘い入れるようになっています。

母親からのしつこい勧めもあって、1992年の高校生の頃、ビデオセンターで統一原理を学び始めます。

高校卒業後、彼女は会社勤めをします。

「家から会社に通い、日曜日などに教会に通いました」

しかし家では常に信者として母親からの厳しい信仰指導、監視があったと話します。

「忘年会が終わり帰宅すると、夜中の零時を回っていました。私はお酒を飲むことはありませんでしたが、遅くなったからと男性上司が自宅まで送って下さったのです。すると、仁王立ちで母が待ち構えていて、叱責されました」

教団の教えでは、アダムとエバが神様の赦しも得ないままに、勝手に性的関係を結んでしまい堕落して、罪を犯したと説きます。それゆえに、神様の許さない恋愛行動は禁止です。それにつながるような行為を、信仰2世の親は徹底的に排除してきます。

「会社の後輩から告白されたこともあります。しかし、その男性からの電話は私に繋がれることはありませんでした。『二度とかけて来るな!』と言って切っていたようです」

母親は、彼女の行動を徹底的に規制していきます。教団の教えを信じて反発することなく、親に従おうとする優しい子供こそ、心に大きな傷を残していくことになります。

最初の合同結婚式は36万双

会社勤めから1年が過ぎた20歳の頃、母親は献身を勧めます。これは教団に身も心も捧げる出家です。そして95年に行われる予定の36万組の合同結婚式(祝福)に彼女を参加させるために、教団側は21日間の修練会に参加させます。それにより彼女は職場を退職しなければならなくなります。

「最初の祝福の相手は私より2歳下の韓国人でした。しかし信仰心はなく、統一教会に入会すると日本人と結婚できるからと、合同結婚式に参加しただけの男でした。とりあえず信じたフリをして」と彼女は話します。

98年、韓国人男性は日本にきて彼女と生活を始めます。

「本来、教団では禁止されているお酒やたばこを彼は吸っていました。ついには、気に入らないことがあると、私の頬に平手打ちをする。顔を殴る、蹴りを入れてくるなどの暴力を振るいました。自分が殺されないようにするだけで精一杯でした」

暴力に耐えられず、家を飛び出しホテルに逃げたこともあります。すると翌日、彼女は母親から呼び出されます。しかし彼女を守ることなく、母親は「あなたの信仰が足りないからだ(サタンが侵入してしまい、暴力を受ける事態になっている)」と一喝して、夫の元へ戻します。

ところがその後、母親の前で男が彼女を激しく殴り始めたことがあったそうです。さすがに、それを見た母親は重大さを受け止めて、上の立場(アベル)である教区長に相談します。

教区長は「ひどいですね。大変でしたね」と同情しながらも、その韓国人夫との面談が終わると「とてもいい青年じゃないですか。表現の仕方が不器用なだけで問題ありませんよ」と言うのです。誰も彼女を守る人はいませんでした。その後も暴力は収まらず、離婚をすることになります。

2世の相談先は、紹介者である親、そして教団関係者のみ。それが彼女の悲劇を生んだともいえます。しかもこんなひどい目を受けても、高校生の頃から植え付けられた教団の思想は彼女の心から離れません。

2度目の合同結婚式

教団は2002年の4億双に向けて動き出していました。

冠木さんはある教区長から韓国人男性の紹介を受けて、2度目の合同結婚式を受けます。その後、渡韓して男性と一緒に暮らし始めます。しかしこの男にも信仰心はなく、多額の借金を重ねます。ついには彼女のクレジットカードを勝手に使い、彼女自身も多額の借金を背負わされます。そして、命からがら帰国し離婚をします。

ここでは安易に離婚という言葉を使いましたが、神様によって決められた相手との祝福を破棄するということは、信者にとって容易なことではありません。私も92年の合同結婚式に参加しましたが、文教祖によって決められた相手を拒否する(祝福を破棄する)ことは「サタン以下の存在になる」と教えられていたからです。よくぞ、一人そうした恐怖心を乗り越えて、離婚して脱会できたと思います。

冠木さんは大変な道のりを経て、マインドコントロールに気づき脱会をしました。

一方で同じように10代の頃、母親に連れられて教会を訪れた山上容疑者は心に若干の教義の禍根を残しながら、独自の考えに昇華させていったのではないかと考えています。

違いは、相談できる人がいたかどうか

「二人目の男が闇金融から多額のお金を借りてしまったため、その取り立てから逃れるために、ある滞在先にいました。そこで出会った韓国人のおじいさんやおばあさんに助けられ、なんとか生きてこられました。そして命からがら、男の手を逃れて韓国から帰ってくる時にも、相談にのってくれた韓国人の友人もいます」

そうした人たちの助けを借りて、冠木さんはなんとか無事に帰国できたといいます。

つまり、教団の信仰とは関係のない一般人の韓国の人たちの心の温かみに彼女が触れたことで、マインドコントロールを解き、脱会に向けての大きな一歩になったのではないかと思います。

一方で、山上容疑者は誰にも相談できずに、徐々に自分の心の殻の中に入ってしまったのではないでしょうか。その背景には、若干かもしれませんが、幼い頃に学んだ教団の思想が残っていた可能性を考えます。

というのも、カルト思想の恐ろしい点の一つに、他者の意見を排除し孤立化して、社会の常識からは逸脱した行動をしてしまうことがあるからです。

教団への恨みから殺人の考えにまで至ったピースの一つ

旧統一教会もあれだけ「霊感商法問題」が世間から指摘されたにもかかわらず、その意見を聞き入れず、排除して甚大なる消費者被害を生み出しました。

オウム事件を見てもわかります。彼らも他者の意見を排除して、自動小銃を作り、サリンをまき、自分たちの意に反するものの「命を奪う」発想をしました。

山上容疑者の安倍元首相を殺害するという絶対にしてはならない行為をみた時に、過去に学んだ思想が自らも意識しない中で残り続けて、独自のカルト的な考えにまで高めて行動してしまった結果の事件ではないだろうかと思うのです。

それこそが冒頭で話した足りないピースの一つだったのではないかと考えています。

親を信者に持つ2世の存在に目を向けてこなかった社会の責任

未成年の頃に触れた思いは心に残り続けるもの。しかも悩んだときに相談する先が母親や教団関係者といった限られた人となれば、本当の心を打ち明けられずに、殻に閉じこもり、自分自身でのみ解決するしかなくなります。

その結果、彼の心を恨みからの殺害までの思いに至らせてしまったとすれば、親を信者に持つ2世の存在に目を向けてこなかった社会の責任でもあると、自戒の念をこめて感じています。

当時は公に声すらあげることもはばかられました。こっそりとTwitterなどで書き込むしかなかった状況です。目立つ形で批判的な書き込みをすれば、教団からの組織的な攻撃を受けてしまうからです。

その点、今の元信仰2世、祝福2世の方々は、大丈夫だと考えています。なぜならSNSなどで声をあげて、教団に堂々とものを言える環境ができているからです。誰かに相談して、心を整理する場も増やそうとする社会の動きも出てきています。

もしそれを阻害するような行動があれば、私は絶対に許すことができません。

なぜ、2世の問題を深刻に考えなければならないのか。なぜ彼らに助けが必要なのかを、今一度、世の中の人たちが考える時がきています。

冠木さんは度重なる苦労から、韓国でパニック障害を起こしました。日本に帰り治療を受けようと思い、母親に連絡をすると次のように言われています。

「あなたにサタンがとり憑いているからよ!」

母親には悪気はないのかもしれません。しかしどれだけこの言葉が、2世の心に傷を与えているかわかりません。山上容疑者も母親から信仰2世として育てられてきた経緯が少しでもあるとすれば、こうした言葉も浴びせられてきたかもしれないのです。

今回、話を伺った冠木さんのように、山上容疑者も子供の頃に心に深い傷を負っていたことが考えられます。今後の裁判を通じて、彼から何が語られるのか、その言葉に注目しています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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