「ノルウェー版のグレタ」と呼ばれるペネロペ(18)は何者か?
今や有名な環境活動家となったグレタ・トゥーンベリさんはスウェーデン出身だ。北欧諸国では、「他の国にもグレタさんのような若者はいるのか」と注目が集まることがある。
スウェーデンの隣国ノルウェーでは、「グレタに対するノルウェーの答え」と現地メディアがよく紹介するのが「ペネロペ」という少女だ。
そこで今回は彼女にインタビューをして、グレタさんとの違いや活動内容、彼女の環境活動家としての思いを聞いた。
18歳の高校生のペネロペ・レアさん(Penelope Lea)は気候危機を気にかけ、自分の世代の声が政治に反映されていないと感じていた。「社会に貢献したい」と若い時から活動を始める。
グレタさんとは違い、個人として活動するよりも、環境団体などに所属して活動をすることが両者の違いであり、青年団体や環境団大という「団体」の力が強いことがまさにノルウェー社会とスウェーデン社会の違いだとも話した。
11歳の頃から現地の環境団体で活動し、2018年には最年少の若さでボランティア賞を受賞。2019年からユニセフ・ノルウェーで初の環境活動家としてユニセフ大使となった。現在ではユニセフの顔となり、環境危機や環境問題は「子どもの問題」「子どもの権利問題」でもあるとして声をあげている。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP) の会議にも何度も参加し、決定のプロセスに少しでも影響を与えようと奮闘中だ。
高校の最終学年、勉強との両立は?
高校の勉強の傍ら、週に何時間、ボランティアとして気候活動をしているのかは数字にはしにくい。「毎日、放課後に活動をしている」と話す彼女の表情は笑顔とエネルギーで満ち溢れていた。
試験など学業に集中する時もある。だから私たちのインタビューも、彼女の課題提出が終わるまで3週間ほど待って行われたものだった。
ボランティア活動なので、活動は全て無償だ。モチベーションがないと続けることは難しいだろう。勉強との両立が正直難しいこと、体調を崩さないためにも、1年延長して高校に通っている。
ノルウェーには大学受験がなく、高校の成績の平均で大学の入学先が決まる。ペネロペさんの高校は時に提出しなければいけない課題はあるが、宿題が毎日あるわけではないことも、日本とは違う。
「勉強が好き」と彼女は話した。
グレタさんと比べられることを、どう思っているか
「グレタさんが世界的に有名になる前から、私はもう気候活動をしていました。グレタさんの何が特別かというと、多くの若者がどのように自分たちの声を使うことができるかという型をつくりだしたことです。素晴らしいと思います」
「私にとってもグレタさんは大きなインスピレーションです」
グレタさんとの違いは
「ノルウェーにはすでに若者のための環境団体がいくつも存在しています。世界各地ではグレタさん発祥の『フライデーズ・フォー・フューチャー』団体が生まれましたが、ノルウェーにはもう類似する活動団体があったので、その流れは起きませんでした」
筆者「グレタさんと比較されることをどう思いますか?」
「嬉しくは思いますが、環境活動家はひとりひとり違う人です。環境活動にもいろいろな方法があり、私もグレタさんとはまた違う存在です」
気候は他の問題とも深いつながりがある
ユニセフ大使として今彼女が意識するのは、気候と他の問題の根強いつながりだ。気候、自然、人権、子どもの権利、経済、平等、心と身体の健康、平和、紛争、防衛、移民。これらのつながりをしっかりと意識することで、最も公平な解決策を見出せると今強く感じているそうだ。
若者が環境会議に参加することに意味はあるのか
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にはすでに4回も足を運んでいるペネロペさん。初めて参加した時は13歳だったそうだ。
規模の大きな環境会議に若者が足を運ぶことにも「意味はある」とペネロペさんは言う。
「若い人がCOPで入場を認められたり、交渉の会議室に入ることは確かに難しいです。それでも最新のCOPでは実は若い人に以前よりも出席権が与えられたし、交渉の空間に少しでも影響を与えようと多くの人がデモで声をあげました」
ノルウェーでは国会前で市民が抗議活動をするのが普通だが、日本はより難しい。それでも国会前の抗議活動には変化を起こす力はあるのだろうか?
意味はあると、ペネロペさんは答えた。
「私は小さい規模から大きい規模のものまで、数多くの抗議活動に参加してきました。友人と数人だけで行った抗議活動もありました。この課題を気にかけている人がいるのだということそ少しでも可視化することができるので、抗議活動には意味はあると私は思っています。ほんの少しかもしれませんが、政治家だってその声を耳にすることもありますし」
相手が抑圧しようとしていることに、まずは気が付いて
ノルウェーには、支配する側による「5つの抑圧テクニック」(De fem hersketeknikker)という「他人を抑圧する技」が市民の間で常識として浸透している。
ペネロペさんも若い活動家として抑圧テクニックをしかけてくる大人に出会うことがあるという。
「最初の頃は、自分に起こっていることが何か理解できませんでした。隠れた権力体験だからです」
「ある日、政治家と話した後の違和感について母と話していたら、抑圧テクニックにあっていたのだと自覚したんです。その後は、抑圧テクニックとは何かを学び、気づけるようにしました。気が付けるようになったら、そういう時はどのように対処するといいのか、対策を立てることができます」
「気候危機の話をする時は、特に政治家が抑圧テクニックを仕掛けてきます。若い人にまだこの話はできないのだと思い知らせようとしたり、他の話題にすり替えようとしたり。自分を大事にするためにも、自分を守るためにも抑圧テクニック対策は重要です」
筆者「もし政治家が、『君はまだまだ若い。まずは学校で勉強しなさい』と言ってきたら、どう答えていますか?」
「私は確かに若いけれど、このテーマに関して大事な意見を持っています。それに私は市民のひとりです。政治家は市民の声を代表する存在でしょう?それなら私の声も聞いてください」
これからは気候訴訟が当たり前の時代になる
彼女の将来の夢は人権や環境問題専門の弁護士になることだ。「これからは世界各国で気候訴訟がどんどん増えると思います」とも話す。
自分の活動に意味はあるのかと、疑問に思い始めたらどうする?
「気候活動をすることに意味はあるのか」と疑問を持ち始めて、気分が乗らない時にはどうしているのだろうか。
ペネロペさんは自分専用のメモ帳があり、そこに尊敬する偉人たちの言葉を書き留め、読み返すことで気力や希望を維持するそうだ。
またノルウェー国内や世界各地で活動する同世代の活動家たちと交流すること、高校で友達と過ごす時間が彼女を元気の源になっている。
「ノルウェーでも私の高校は特殊で、クラブ活動が多いことで知られているんです。私と友人たちが所属する政治ランチのクラブでは、昼休みに政治家を招待してランチすることもあります。私の高校は政治家の卒業生が多いから、招待すると来てくれる人が多いんです」
彼女にとって気候活動は生存手段でもあるという。ストレスや圧力を感じる時こそ、活動することで「私にとって大事なことは何か」思い出すことができるとも語る。
石油を掘る国ノルウェーに生まれたことを、どう思っているか
北欧諸国でもノルウェーは石油を発掘している国として異様な存在だ。気候問題の解決を唱えながら、石油を掘り続ける二重のモラルは市民のマインドセットにも大きな影響を与えている。
「石油はノルウェーの政治家にとって『部屋にいる大きな象』です(その空間に大きな象がいるという、明らかにおかしい現象が起きているのに、誰もが見えないふりをしていること)。みんながノルウェーが持つ危険な側面を意識はしているけれど、多くの人が結局受け入れることで妥協しています」
「石油の話は難しい。でも、私たちには選択肢はありません。だからこそノルウェーの若い活動家たちは石油・ガス生産を止めるべきだと声を上げ続けるんです。石油がノルウェーで最も難しいテーマだとしても、若い活動家は政治家に圧力をかけることは止めることはしないでしょう」
初めての投票に今からワクワク、投票日はお祝いだ
18歳の彼女はこれまで投票する権利がまだなかった。今年9月に開催されるノルウェーでの統一地方選挙が初投票となり、今からワクワクしているという。
「若すぎるという理由で投票できないのは、奇妙でしかありませんでした。それでも、社会が良い方向に動くように、影響力を発揮する方法は投票以外にもあります」
「4年に1度の投票でしか影響力を使えないなんて、むしろ少なすぎる。私たちはもっと影響力を使わないと!政治活動、文化事業、SNSと自分の声を発する方法は他にもいくらでもあります」
「それでも今年やっと投票できることは、本当に嬉しい!投票日は友達とお祝いします!」
日本の同世代の仲間にエール「自分のことも大切にして」
最後に、日本で同じように活動する同世代に向けてメッセージをもらった。
「ひとりで活動するのではなく、他の人と一緒に行動を起こしてみて。学校のクラブ活動でも、友達とのグループでも、国際的な機関に所属するのでもいい。仲間と一緒に踏ん張り続ける持続力が鍵です」
「『サステナブルな政治』のことを話すのも大事だけれど、自分のことも大事にする、『サステナブルな自分の扱い方』もぜひ意識してください。だって、これからな阿木間、若い活動家たちが必要とされてくるから、皆さんは自分にも大切に接してください」
「そうすれば、私たちは一緒に大きなことを成し遂げることができます」
【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】