おいしいモノ好きに届けたい! 「辻静雄食文化賞」って知ってる?
今年(2023年)5月、第14回辻静雄食文化賞が発表され、先日その贈賞式が行われました。専門技術者賞を受賞したのは、ガストロノミーファンなら知らない人はいないあのスターシェフ、Cuisine régionale L’évo オーナーシェフの谷口英司さんです。
谷口さんは今年、“レストラン界のアカデミー賞”と称される世界的なレストランランキング アジアのベストレストラン50 の2023年版で60位に初登場。ゴ・エ・ミヨ 2022 では今年のシェフ賞、ミシュランガイド北陸2021特別版 では二つ星と大活躍。現在のアジアのフードシーンにおいて欠かせない存在です。
食を通じて新しい世界をつくる「辻静雄食文化賞」とは?
そんな谷口さんが受賞した 辻静雄食文化賞 とは、どんな賞なのでしょうか。
この賞は辻調(辻調理師専門学校)グループの創設者である故・辻静雄さんの志を受け継ぎ、公益財団法人辻静雄食文化財団により2010年に創設されました。
主旨について、公益財団法人辻静雄食文化財団の公式サイトにはこのように書かれています。
つまり私なりに解釈すると、食べ歩きのガイドとなるようなおいしいお店を審査したり、ランキングしたりするおなじみのアワードとは評価の視座が異なり、食を文化の観点から大局的にとらえて、食の世界にイノベーションを起こした人や作品が選ばれるというわけで
谷口さんに賞が贈られた理由はこちら。
野生と洗練をあわせ持つ美しく気品あるガストロノミー
「この賞は谷口さんにふさわしい」と言うのは、日本のガストロノミーツーリズムを谷口さんとともに牽引するデスティネーションレストランの先駆者 villa aida オーナーシェフ小林寛司さん(2020年に第11回専門技術者賞を受賞)。「自然から食材を得て、それをそのまま出すのでも作り込みすぎるのでもなく、野生を生かしながら洗練されたガストロノミーへと昇華させている。これは思い描いた料理をお皿の上に落とし込める高い技術があるからこそできることです」
山や川から”食べられるもの”をとってくる縄文時代系(狩猟採集型)の谷口さんと、日々変化する畑とキッチンが一体化している弥生時代系(栽培型)の小林さんは、私から見ると好対照をなす日本のローカルガストロノミーのツートップ。
歴代の受賞者には、小林さんの他にも、たとえば第12回は茶禅華の川田智也さん、第13回はRestaurant ESqUISSEのLionel Beccatさんなど、独自の哲学と世界観を持つ料理人さんがラインナップされています。
辻静雄食文化賞 本賞は『古くて新しい 日本の伝統食品』
同時に発表された本賞は、『古くて新しい 日本の伝統食品』(柴田書店)の著者である陸田幸枝さんと写真を担当した大橋弘さんが受賞しました。日本の伝統食品を訪ねて全国各地を旅し、101種類もの伝統食品のつくり手と会い、現場を見て話を聞くという途方もなく膨大な取材活動の集大成。まさにライフワーク。どれだけの年月を捧げたのでしょう。
ちゃきちゃきして朗らかな陸田さんはとっても素敵でエレガントな女性。「昔ながらの製法を頑なに守る”頑固で偏屈”(笑)な人がいて、さらにその真価を理解する人がいてこそ、先人の偉大な贈り物を未来へ託すことができる。その大きな役割をこれからの料理人が担ってくれると思います。100年後くらいに、この本見つけてパパッと埃を払って読んでみた未来の人が、「昔の日本人ってすごいじゃん」と思ってくれたら、著者としてこんなに嬉しいことはありません」と笑いました。
ニューオープンや話題のレストランの食べ歩きも楽しいけれど、食の世界をもっと深く知ってみたい。食文化の沼にはまりたい。そんな人は最初のきっかけとして 辻静雄食文化賞 を贈られた作品を読んだり、料理人さんの料理を食べてみてはいかがでしょうか。
過去の受賞者・受賞作品はすべて公式サイトで見ることができます。