フードトラベラーの美食ガイド「世界(アジア)のベスト50レストラン」スマート活用術 - 後編
前編 で読み解いてきた「The World’s 50 Best Restaurants(世界のベスト50レストラン)」とリージョナル版である「Asia’s 50 Best Restaurants(アジアのベスト50レストラン)」。ここからはさらに掘り下げてどう使いこなすかを考えてみましょう。
より深掘りしたいなら部門賞をチェック
「50ベスト」シリーズには、ランキングだけでなく10数種類の部門賞も設定されています。すべてを説明すると掲載できる規定の文字数を超えてしまうので(知りたい方は 公式サイト をどうぞ)ここでは私が個人的に旅先のレストラン選びの参考にしている部門賞を3つご紹介します。
ひとつは アイコン賞 。これはガストロノミー業界の発展のために国際的な貢献をした料理人に贈られる賞で、日本からは2019年「日本料理 龍吟」山本征治さん、2020年「菊乃井」村田吉弘さん、2023年「レフェルヴェソンス」生江史伸さんが受賞しています。歴代の「アイコン賞」受賞者6名のうち3名が日本人。過去10年アジアの中でいかに日本の存在が大きかったかを現すようだ。
2024年の受賞者は香港「The Chairman」Danny Yip(ダニー・イップ)さんで、「The Chairman」は私が世界でもっとも愛するレストランのひとつ。さらに韓国「白羊寺」尼僧チョン・クワンさん(2022年)の料理も大好きなので、これからこの賞を受賞するレストランも私の好みに合いそうです。
ふたつめは シェフズ・チョイス賞 。これはシェフの投票に基づいた賞で、同業者の目から見ても高い技術力とクリエイティビティを持つ料理人が選ばれることが通例。シェフがもっとも嬉しい賞と言われています。日本からは2018年「NARISAWA」成澤由浩さん、2019年「傳」長谷川在佑さん、2020年「La Cime」高田裕介さん、2023年「フロリレージュ」川手寛康さんが受賞しています。
2024年の受賞者は韓国「MOSU」アン・ソンジェさん。韓国からは「Mingles」カン・ミングさんも受賞(2021年)していて、つまりラ・シームにフロリ、ミングルスにモスと日韓のキレッキレのシェフが勢揃いというすばらしいラインナップ。好きな人にはハマるはずです。
3つめは アート・オブ・ホスピタリティ賞 。これは賞が設立された当時(2017年)「傳のためにつくられたアワードでは?」と噂されたほど「傳」にぴったりの賞です。シェフ個人ではなくチームの全体力が讃えられるもので、私が知る限り歴代の受賞店は、言葉ができなくても、ひとり客でも楽しませてくれる温かいチームばかり。これ海外ひとり旅ではすごく助かりますよね。
2024年に受賞したのはタイ・バンコク「Nusara」。兄弟のおもてなしはアジア中が知るところで誰もが納得する受賞でした。
また、2024年は アジアのベスト・ペイストリー・シェフ賞 に「FARO」加藤峰子さんが選ばれたことで日本中が大歓喜。世界的に移行しつつある プラント・ベース をコンセプトに、動物性の食材を使ったスイーツとまったく遜色ないどころか、他の誰にも真似できない比類なき洗練されたスイーツの世界を創造する加藤さん。世界のフードシーンの最先端を知る加藤さんは、今後アジアを超えて世界のファンをますます魅了するはずです。
日本からは2015年杉野英実さん、2017年成田一世さん、2020年「ete」庄司夏子さん(2022年「アジアの最優秀女性シェフ賞」とのダブル受賞は史上初にして現在もオンリーワン)が受賞しています。
旅する国のランキングの背景を考察してみる
先述したように「50ベスト」コンテンツディレクターのウィリアム・ドリューさんはこう言いました。2013年と2024年では、ランクインする国や地域が増えリストは大きく変わったと。2024年のリストには、8軒のニューエントリーを含めアジア圏19都市のレストラン名が並んでいます。
激動の中で2013年に8軒、2024年にトップタイの9軒がランクインした日本。どうして日本のレストランは変わらずに強いのか。「日本には素敵なレストランがたくさんあるから」と言ってしまえばそれがすべてですが、リストの周辺を眺めてみると日本勢の活躍をサポートする人々も見えてきます。
たとえば前出の日本代表・中村孝則さん。日本のレストランやシェフを少しでも多く世界に発信するために、メディアとガストロノミー業界を繋ぎ「チーム・ジャパン」として日本の存在感を高めてきました。
そして「NARISAWA」成澤由浩さん。2013年の初回に1位として登場して以来、変化するリストで常に上位にランクインし続けてきました。また、アワードにも積極的に参加して海外のシェフやファンと交流するなど、もはや日本を代表するフードアンバサダーの役割を担っています。
さらに日本で唯一公式スポンサーを務める 獺祭 の蔵元である山口・旭酒造も見逃せません。日本特有の「鏡割り」のセレモニーは回を重ねるごとに注目度を増し今やアワードの名物に。日本酒を楽しむ海外のシェフやフーディーズも増えました。
以上は日本を例にとった場合です。他の国や地域ではどんな人がどのような活躍をしているのか。オピニオンリーダーは誰なのか。そこから旅先のさまざまな景色が読み取れます。
ちなみに2024年に「アジア50ベスト」の授賞式を誘致した韓国をはじめ、ガストロノミー業界の発展を支援する国や自治体は世界的に多いのですが、日本は特に何もありません。
「50ベスト」がランキングより大切にする目的とは?
さて、ここまで「アジア50ベスト」を例に私なりの楽しみ方をお伝えしてきました。「50ベスト」シリーズ以外にも「ミシュランガイド」や「ゴ・エ・ミヨ」「食べログ」といったレストランの格付けは、関係する料理人やレストランは真剣に向き合っていますが、レストランファンにとってはエンターテインメントのひとつ。異論反論も含めて、ひとりでも多くの方が旅先で自分らしいレストランに出合うための一助になればと思います。
そのための情報はすべてオンラインで 公開 されています。それを踏まえたうえで「50ベスト」シリーズがあえてリアルなアワードを開催することで提供するふたつの付加価値について補足します。
ひとつは国境を越えた繋がりが生まれたこと。開催地ではテーマに沿って旬のシェフたちが討論する #50ベストトーク や、大御所から若手までシェフたちが集まってフリーにコミュニケーションを楽しむ シェフズ・フィースト といった公式イベントをはじめ、公式・非公式のたくさんのコラボレーションイベントなどが行われます。ランク外にも関わらず現地に飛ぶシェフもいるほど、開催地はコミュニティが生まれる大切な場となっています。メディアにとっても影響が大きく、国境を越えてメディア同士が繋がったり、メディアと他国のシェフが直接繋がったりするムーブメントも、アワード開催地から発生しました。
ふたつめは若い世代の育成です。「50ベスト」が創立された当初よりシリーズ全体の冠スポンサーとしてサポートを続けてきたのがイタリアのナチュラル・ミネラル・ウォーター・ブランド「サンペレグリノ」と「アクアパンナ」を有するサンペレグリノ社。同社は次世代を育成することでレストラン業界がサステナブルに発展することを目的とした国際料理コンクール サンペレグリノ ヤングシェフアカデミー を主催しています。
このコンクールは単に料理技術を競うためのものではなく、「メンターシェフ」と呼ばれる世界的なトップシェフから若い参加者が直接指導・育成を受けられることが特徴です。つまりこのコンクールに参加することで、若いうちからネットワークが飛躍的に広がり、活躍の場が世界へ広がり、スターダムを駆け上がるチャンスがもたらされるのです。
それでは最後に2024年の日本勢のランキングのおさらいを。
15位(アジア1位/日本最高位)はSÉZANNE(フォーシーズンズホテル丸の内 東京)
日本のお客様に愛され海外からも多くの方が食べに来てくださることに感謝しています(エグゼクティブシェフ ダニエル・カルバートさん)
21位(アジア2位)Florilege(麻布台ヒルズ)
移転して取り組んだ新しいスタイルをみんなに受け入れてもらって嬉しいです(オーナーシェフ・川手寛康さん)
32位(アジア8位)傳(東京・神宮前)
価値観を共有する世界中の友だちと再会できるのがこのアワードの楽しみです(主人・長谷川在佑さん)
続いて
56位(アジア14位)NARISAWA(東京・南青山)
66位(アジア9位)La Cime(大阪)
93位(アジア39位)茶禅華(東京・南麻布)
アジア35位 villa aida
アジア45位 Goh
アジア47位 cenci
「アジアのベスト50レストラン」のほか「南米のベスト50レストラン」「中東と北アフリカのベスト50レストラン」「世界のベスト50バー」「アジアのベスト50バー」「北米のベスト50バー」さらに「世界のベスト50ホテル」をスタートさせるなど拡大を続ける「ベスト50」シリーズ。あなたの美食旅のプランニングにぜひ活用してみてください。
*トップ画像は「FARO」加藤峰子さんの作品