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急性アルコール中毒に御用心!アルコール分解を促進する治療はありません!!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
飲み会シーズン到来!感染予防と飲み過ぎに配慮した飲み会が望まれます(写真:アフロ)

12月に入り、ますます寒さは厳しさを増しています。忘年会時期ではありますが、感染症との兼ね合いから自粛しているところも多いかもしれません。例年ですと、この時期になると急性アルコール中毒で搬送される患者さんが増えます。東京消防庁調べでは、令和元年には東京消防庁管内だけで18,212人が救急搬送されており、突出して12月が多いことがわかっています。飲み会シーズンということなのでしょうか。例年よりも自粛ムードの最中ではありますが、小グループの飲み会や、自宅での飲酒の機会はあると思いますし、ストレスもかなり溜まっている中、飲酒量が増えるのではないかということを懸念しております。今回は、急性アルコール中毒について述べてみたいと思います。

急性アルコール中毒とは

急性アルコール中毒は、主に飲酒が原因のエタノール中毒です。エタノールの薬理反応により、様々な精神的な変化や、肉体的な変化を起こします(下図参照)。

血中アルコール濃度と症状:著者作成
血中アルコール濃度と症状:著者作成

人によってアルコールの分解能力に差はありますが、一般的には大体ビール大瓶1本やワイン半分ほどでほろ酔いになります。ビール中ジョッキ4杯ならアルコールとして80g摂取。人間の体には5-6Lの血液が流れておりますので、単純計算で150mg/dL程度の血中アルコール濃度となり、ふらつきを呈するようになります。

いろいろな飲み物を飲んで、アルコール摂取量が積み重なり、ビール中ジョッキで8杯程度を超えると、意識が低下してきます。そんなに飲めないと思われるかもしれませんが、二次会・三次会と進んでいったり、一気に血中アルコール濃度が高まったりすると、意識障害を起こして救急搬送される事態に陥ってしまうのです。人によっては、もっと少ない量でそうなります。

急性アルコール中毒の治療

最初に述べておきますが、過剰摂取したアルコールをどうにかする方法はありません。ご自身の肝臓に頑張っていただくしかないのが事実で、代謝速度は1時間あたり20mg/dL程度と一定です(文献1)。一般的に薬物中毒では解毒薬や拮抗薬があれば投与しますが、そうでない場合には、呼吸が止まらないように、嘔吐して誤嚥や窒息をしないように、循環血液量が保たれるように、「見守る」ことが治療になります。

急性アルコール中毒で救急搬送される方は、多くが意識障害を伴っています。呼びかけに応じてくれるうちはまだ良いのですが、イビキをかいて刺激にまったく反応しないような状態になっていれば、気道が閉塞してしまうかもしれないので気管挿管を行い(気管にチューブをいれて空気の通り道を作る)、呼吸抑制がかかってくるようなら人工呼吸を行います。急性アルコール中毒での死亡は、多くの場合吐物をつまらせて窒息するか、中枢神経抑制から呼吸が止まることによるものですから、救急医はこれを何としても回避しようとします。

急性アルコール中毒に点滴は効くのか

点滴をするととても良くなると思われているかもしれませんが、点滴をしても良くなりません。酔っ払ってしまった人に対して「ちょっと病院に行って点滴してもらえや」みたいにおっしゃる方もいらっしゃいますが、とんでもない誤解です。脱水状態であったり、循環抑制がかかり血圧が低下していたりするような場合には、必要に応じて点滴や投薬を行いますが、点滴をしたところでアルコールが薄まるわけではありません。たくさん尿を出せばと考える方もいらっしゃいますが、尿からの排泄も多くは期待できません(尿から排泄されることはされますが、全体の数%程度ですし、何リットルもおしっこ出ないですよね…)。

急性アルコール中毒と救急外来

大々的に言うのは少し憚られる気持ちもあるのですが、急性アルコール中毒患者さんは救急外来で嫌がられる傾向にあり、搬送先も見つかりにくいです。理性的でない患者さんに暴言や暴力を振るわれたり、治療に協力が得られなかったり、そもそも治療方法がないものですから、それについて文句を言われたりするうちに、医療従事者の心は折れていきます。一方で、飲酒後の意識障害の人は、頭部外傷で頭蓋内出血を合併していたり、体幹部臓器損傷を合併していたり、来院後に呼吸状態が悪化することもよく経験します。寒い時期ですと、路上で寝てしまって低体温状態で搬送されてくる方もいらっしゃいます。診察しなければわからないこともありますが、搬送後に突然豹変される方もいらっしゃるので、いつも身の安全を確保できるように身構えています。どうにかしなくてはならないという気持ちと、どうにかトラブルなく経過しますようにという気持ちが混在しているのが実情です。みんな幸せになるためには、「急性アルコール中毒にならないようにする」しかありません。

急性アルコール中毒にならないために

そもそも飲まなければ中毒にならないのですが、それでは身も蓋もないので、上手に付き合う方法を提示します。アルコールは摂取後に消化を受けることなく吸収され、およそ20%が胃から、そして残りが小腸から吸収されます。摂取から1-2時間ですべて吸収されるとされますが、小腸にアルコールが流れると吸収効率が高まり、一気に血中アルコール濃度が上がります。これを避けるために、食事と一緒に少しずつ飲むことが推奨されています。空腹時の一気飲みは最悪ですので、やめてください。ていうか一気飲みはダメです。

また酩酊状態では、自分がふらついているのに、そのふらつきを自覚できない残念な状況になります。外傷リスクを負わないためにも、そこまでいかない工夫が大事です。ビールジョッキ4杯でふらつきを呈するということを広めていただければと思います。

楽しく健康に忘年会

こんな世の中ですが、個人的には忘年会をやったら良いと考えています。ただし、感染症や急性アルコール中毒にはしっかり配慮するべきです。お酌をして回ったり、どんどん飲むように促したりするのは、感染予防上だけでなく、中毒予防上も望ましくない行為と思います。ぜひとも何らかのルールを決めて飲んでください。例えば

・お酒は3杯まで

・手酌

・他人にお酒を勧めない

など、少し落ち着いた雰囲気が良いです。厳しい一年になりましたが、皆様どうぞご自愛ください。

参考文献・図書

1. D F Brennan, et al. Ethanol elimination rates in an ED population. Am J Emerg Med. 1995 May;13(3):276-80.

2. 薬師寺泰匡. やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療 ~だから中毒診療はおもしろいんよ~. 金芳堂 2020

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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