「世界水の日」皇太子殿下の講演録で世界と日本の水問題を学ぶ
2030年に世界人口の47%が水不足になる
今日、3月22日は「世界水の日」。1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットのアジェンダ21で提案された記念日である。
世界では40億人もの人々が水不足に苦しむ地域に住んでいる。さらに70億を突破した世界人口は、2050年には90億に達するとみられ、ユネスコ(国連教育科学文化機関)は「2030年に世界人口の47%が水不足になる」との懸念を表明している。
そうしたことをふまえ、「世界水の日」には水の大切さ、安全な水を使えることの重要性について、世界中で考えていこうというわけだ。
ところで皇太子殿下のライフワークが「水」であることをご存知だろうか。
皇太子殿下のご講演は宮内庁のWebサイトにまとめらており、読めば世界の水問題を身近に感じることができる。講演録は近々書籍として発売されるとのことだ。
殿下の講演を初めて聞いたのは、2003年に京都・大阪・滋賀で開催された「第3回世界水フォーラム」でのこと。このとき殿下はフォーラムの名誉総裁を務め、琵琶湖・淀川、英国テムズ川の水運について話された。ちなみに、殿下は、学習院大学で「中世の水運」(卒論は「中世瀬戸内海水運の一考察」)について学ばれ、英国留学中は18世紀のテムズ川の水運について研究されていた。
「第4回世界水フォーラム」(2006年/メキシコ)では都市の発展と水の関係について。江戸・東京の発展が先人たちの治水、利水の努力の上に成り立っていること、また、ロンドンが産業革命時に発展する際、テムズ川の水運がいかに貢献したかを話された。
内容に変化があったのは、「第1回アジア・太平洋水サミット」(2008年/別府)でのこと。このときネパールで水くみをする女性や子どもたちとの出会いを語られたことがあった。
ご自身がネパールのポカラで撮影された写真を示され、
「水を求めて甕を手に、女性や子どもが集っています。水は細々としか流れ出ていません。水くみをするのにいったいどのくらいの時間が掛かるのだろうか。女性や子どもが多いな。本当に大変だなと、素朴な感想を抱いたことを記憶しています」
開発途上国で女性が水を得るための家事労働から解放されずに地位向上を阻まれ、子どもが水くみに時間を取られて学校へ行けないという現実がある。水は社会の血液と言われるように、水問題はほかの問題に影響をおよぼす。貧困、食料、衛生、環境、教育、ジェンダー平等など様々な問題と関係していることを示された。
殿下は、日本と世界各地の事例を比較されたり、歴史をひもときながら都市の発展に言及されたり、科学的な見地からの水災害対策のお話もあれば、和歌を示しながら水と人との関係を解説されることもある。
水についての学問分野は多岐にわたり、それぞれに専門家がいるが、殿下の水の話は幅広い教養と知見に基づき、一般の人でも水問題を自分ごととして捉えることができる。
水問題はグローバルな問題ではあるが、解決するとなるとローカルな視点が重要である。その点殿下は「水問題の解決策は、その地方、その河川流域ごとに異なる」、「地域の歴史の流れと伝統が尊重されなければ、本当に地域に役立つものとはならない」と繰り返し語られ、水問題解決の大きな指針を示されている。
水が少なすぎる国、水が多すぎる国
世界人口が増えると同時に、使用する水の量も増え、汚染も進み、私たちが使用できる水の量は減り続けている。人類が無我夢中で発展を遂げてきた20世紀が、石炭や石油を利用した科学文明の世紀「火の世紀」であるのに対し、21世紀は水と共生し、その資源を持続させることを目指す「水の世紀」であるといわれている。
実際、世界の水は偏在しており、地球温暖化などによる気温上昇はそれを加速する。
少なすぎる水、多すぎる水に苦しむ国や地域が増えるが日本は後者だ。
2019年版「グローバルリスク報告書」(世界経済フォーラム)は今後発生する可能性が高いリスクのトップ3に「異常気象」「気候変動の緩和と適応への失敗」「自然災害」を上げている。
2018年に世界で発生した自然災害による経済損失は2250億ドル(約25兆円)だった(米保険仲介大手エーオン)。台風や大雨などの気象災害が約96%(2150億ドル/23兆6500億円)を占めるが、個別災害で日本の台風21号の損失額は第4位(130億ドル/1兆4300億円)、西日本豪雨が第5位(100億ドル/1兆1000億円)に入っている。
こうした災害の世紀を私たちはしなやかに生き抜いていかねばならず、そのためには水リテラシーが必要だ。
殿下は水災害被災地にも足を運ばれ、被災した人たちを励まし、また国際会議で世界各国の援助に謝意を示されながら、自然災害に備えた社会づくりをしようというメッセージを送っている。
「第6回世界水フォーラム」(2012年/マルセイユ)では、東日本大震災の実情の紹介、歴史的な文献に見られる地震・津波災害の教訓分析をふまえ、「水と災害は今や、世界の持続可能な発展のため国際社会が正面から議論すべき主要課題の1つです。皆さんと共に、私も災害の経験と教訓が世界に共有され、活用されるよう努力を続けていきたい」とのビデオメッセージが発信された。
もう1つ私たちが忘れてはならないのは、生産に使う水の多くを他国に依存しているということだ。
顕著なのが食べものを作るときに使われる水だ。穀物や野菜を育てるには水が必要だ。食肉をつくるにはさらにたくさんの水が必要だ。鶏、豚、牛などの家畜を育てるには、飲用水のほかに、飼料となる穀物など必要。そして穀物を育てるには水が必要。
家畜が育つまでに使った水をすべて計算すると、鶏肉1キロには4500リットル、豚肉1キロには5900リットル、牛肉1キロでは20600リットルの水が必要とされる。国産の肉であっても飼料はほとんど輸入されている。
私たちは1日に3リットルを飲み、300リットルを生活用水として使うが、食べる水は(その日のメニューによっても異なるが)大雑把に言って3000リットルを超えるだろう。
食料生産には大量の水を使うが、食料自給率の低いわが国は、諸外国の水に頼っており、諸外国の水の状況に思いを馳せ、水問題に苦しむ人に手を差し伸べる必要がある。
水は基本的人権であり、水の奪い合いから紛争に発展するケースもある。
即位された後も「水の日」「世界水の日」「川の日」「海の日」など水に関する記念日にメッセージを発信されることで、日本人の水問題への意識が高まり、水と共生する社会ができることを願いたい。