【体操世界選手権】宮田笙子が仲間の言葉に救われた夜「一人で背負わないで」 #体操競技
ベルギー・アントワープで開催中の体操世界選手権。種目別決勝前半が行われた10月7日、会場のスポーツパレスには笑顔で演技を終えた宮田笙子(順大)がいた。
昨年に続いて出場した跳馬の種目別決勝。1本目、2本目とも着地をしっかり止めて2本の合計スコア13.899点とし、6位入賞。
「2本とも余裕を持った着地ができていい演技だったと思います」と胸を張った。
今大会は、4年ぶりに世界選手権に復帰した女王シモーン・バイルズ(米国)を筆頭に、決勝進出9人中5人がオリンピックのメダリストというハイレベルな争い。その中で堂々の6位となったことは、5位だった昨年と比べても充実感があったようだ。
「今回はバイルズ選手や(昨年は予選落ちだった)アンドラーデ選手(ブラジル)もいて、メンバーの層の厚さを感じていた。去年いなかったすごい選手が横にいるだけで幸せというか、ここで戦わせてもらっていることに感謝したいと思いった」
宮田は笑顔でそう言った。
■パリ五輪の団体出場権獲得という重圧に苦しんだ大会序盤
普段とは違う高揚感を抱えながらも、着地まできっちり止めにいって高得点を出せた背景には、「仲間」の存在があった。
自身にとって2度目だった今回の世界選手権は、国内選考会のNHK杯で連覇を飾り、エースの座を固めての出場。大会の序盤は重圧に苦しみ、パリ五輪団体出場権の懸かった団体総合予選では昨年の世界選手権で種目別銅メダルに輝いた平均台で落下したほか、ゆかでもまさかのミスが出た。
予選8位でどうにかパリ五輪団体出場権を手にすることはできたが、2日後の団体決勝でも再びゆかでミス。本来の実力からはほど遠い出来だった。
■「失敗から立て直すことは見せられた」
けれども団体決勝から中2日で迎えた種目別決勝の跳馬では崩れていた部分をきっちり修正し、6位と気を吐いた。
大会の収穫を聞かれると、「失敗から立て直すことは見せられたと思う」
立て直せた理由については、「仲間がいてくれたことはすごい大きいです」と言い、さらにこう続けた。
「団体は凄く圧がかかっているように思えるけど、でも実際は団体をやる前は気持ちが軽い。みんなのための方が頑張ろうと思えるし、今回のようにミスをしてしまったときも、周りが上げてくれる。みんなのために0・1を大切にしたいという思いがあったので、きょうも最後まで着地を止めにいけたのかなと思います」
■「背負わなくていいからね」仲間の言葉に救われた
大会中、宮田の心にエネルギーが注がれるターニングポイントとなった出来事がある。
10月4日にあった団体決勝。宮田は1種目目のゆかの演技前、チームメートから「1人で背負わないで」という声を掛けられ、勇気が出たという。
大会前から肩や足首に痛みが出ていたため、ゆかではH難度の「チュソビチナ」を回避したものの転倒するミスが出たが、それでも気持ちを奮い立たせることができたのは、仲間の存在があったからだった。
「周りのみんなが、今まで言われていた『エース』という言葉に対して『1人で背負わないで』『背負わなくていいからね』と言ってくれた。そこから気持ちを上げることができて、思い切ってできた。本当に、仲間の存在が大事だなと思いました」
■パリ五輪へ向け「どの種目もDスコアを上げていきたい」
バイルズが復帰するなど、今回の世界選手権は、来年のパリ五輪へ向けて世界中が一段階ギアを上げてきた大会となっている。
その中で宮田はこのように考えている。
「技の難度もまだまだ上位の国、選手にはかなっていない。どの種目もDスコアを上げていきたい。今年はケガもあってチャレンジできなかったことも多いので、ここからかなと思う。冬場の練習も怠らずに春にいい状態で合わせられたらいいなと思う」
パリ五輪での最大の目標は団体でのメダル獲得だ。そしてもちろん、個人総合や種目別でも狙っていく。
そのために「まずはDスコアに挑戦していくこと。使えないとしてもぎりぎりまで技に挑戦していくことが大事だと思うので、けがをしないようにしながら、その上でいろんな技に挑戦していけたらいい」と意気込む。
パリ五輪の代表選考会は来年4月の全日本個人総合選手権と5月のNHK杯。
「日本ではトップの成績で代表に入りたい。そこでしっかりエースとしてみんなを引っ張っていける強さを見せていきたい」
見えているのは、重圧を一人で背負い込まず、仲間と支え合いながら仲間を引っ張るエース像。その先に目標の実現がある。