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生成AI導入の最前線:日本企業動向と業界別傾向の概観

土橋克寿クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト
(写真:イメージマート)

生成AIが世界的に注目され始めてから、多くの企業がその利活用や導入を進めています。しかし、実際にはどの程度の導入が進んでいるのでしょうか?また、特にどの業界で活用が進んでいるのかについても気になるところです。このような疑問に答えるべく、大手コンサルティング会社が公開しているレポートを基に、生成AIの導入状況や業界別の活用動向を探っていきます。

生成AI戦略:企業が直面する挑戦と将来のビジョン

ボストンコンサルティンググループが2024年1月に公開したレポート「BCG AI Radar: From Potential to Profit with GenAI」が示す調査結果は、日本を含む世界50市場14業界の経営層1406人を対象にAIおよび生成AIに関する現状と課題を明らかにしました。この調査では、66%の経営層が自社のAI・生成AIの取り組みに対して「満足していない」または「不満を持っている」と回答しており、特に「人材とスキルの不足」(62%)、AIの活用戦略における「ロードマップや投資優先順位の不明瞭さ」(47%)、そして「責任あるAI・生成AIの戦略欠如」(42%)が主な理由として挙げられています。

投資意欲自体は引き続き高く、85%が2024年にAI・生成AIへの支出を増やす予定であるとしています。しかし、実際にはAIの実用化や業務改革に至る動きは鈍く、多くの企業が「AIが実用段階に至るまでには2年はかかる」と見積もっています(65%)。また、限定的な実験やパイロットプログラムの実施に留まっていると答えた企業が71%に上り、実質的な進展には至っていないことが窺えます。実際、ほとんどの企業が様子見の姿勢を取っており、生成AIのトレーニングを従業員の4分の1以上に受けさせている企業はわずか6%に過ぎません。

にもかかわらず、AI・生成AIを積極的に活用している企業は、成長率において顕著な差を示しています。2024年にAI・生成AIへ5000万ドル以上の投資を計画している企業は、コスト削減の見込みが他社と比べて1.3倍、10%以上のコスト削減を見込む割合は1.5倍となっています。このような企業は、コスト削減を通じて得た資金を再投資し、新たな収益源を開拓してさらなる成長を目指しています。

日本企業の生成AI活用動向:課題と機会

PwCコンサルティングが実施した「生成AIに関する実態調査2023 秋」は、日本国内で売上高500億円以上の企業の従業員(AI導入に何らかの関与を持つ課長職以上)を対象に行われ、日本企業の生成AIに対する認知度や導入状況を明らかにしています。この調査からは、生成AIへの関心と導入の動向について興味深い結果が得られました。

日本国内では、生成AIに対する認知度が大幅に上昇しており、73%の回答者が「生成AIを利用した経験がある」と答えています。これは、2023年春の調査時点での10%からの顕著な増加です。本格導入のタイミングについては、43%が2024年3月までに、15%が2024年3月から9月までに本格導入を検討していると回答し、多くの企業が近い将来に向けて生成AIの活用を進めていることがわかります。

しかし、生成AIの活用には課題も存在します。過半数の回答者が「必要なスキルを持つ人材の不足」や「ノウハウがなく進め方が分からない」といった問題に直面していると答えており、これらは「自社だけでは解決が難しい」とも指摘されています。これにより、社内でのリスキリングや外部人材の活用がこれまで以上に重要になっていると言えます。特に、「AI技術全般に関する理解」を最も重要なスキルとして47%の回答者が挙げており、コミュニケーションスキルやユースケース企画スキルの重要性は相対的に低いとされています。

業界別に見ると、生成AIの推進度には大きな差があります。テクノロジー・通信・ヘルスケア・自動車業界などを含むAグループが最も積極的に生成AIを推進しており、サービス・公益事業・金融・重工業・家電を含むBグループ、物流・建設・不動産を含むCグループ、化学・消費財・食品・小売・商社を含むDグループと続きます。上位グループではテキスト生成、プログラム生成、画像生成、音声生成など多岐にわたるユースケースが検討されている一方で、下位グループではテキスト関連の活用から始めている企業が多いようです。

生成AIの経済への影響:マッキンゼーが見る未来

生成AIの経済的潜在力に関するマッキンゼーの報告書「The economic potential of generative AI: The next productivity frontier」は、この技術が産業界全体に及ぼす影響の深さを示しています。この報告書は2023年6月に公開され、生成AIが特に高賃金業務に大きな影響を与える可能性があることを指摘しています。これまでの自動化技術が主に低中所得層の仕事に影響を与えてきたのに対し、生成AIはコラボレーションや専門知識の応用といった、自動化が難しいとされていた分野に革命をもたらす可能性があります。

この進展は、企業や業界にとって新たな生産性のフロンティアを開くと同時に、高度なスキルを持つ職種においても変化を促すことになるでしょう。生成AIの経済的影響は広範に及び、業界ごとにその影響の大きさや到来する変化の速度に差があるかもしれませんが、全体としてはこの技術がビジネスプロセス、仕事の内容、職場のコラボレーション方法に大きな変革をもたらすことが予想されます。

クロフィー代表取締役、テックジャーナリスト

1986年東京都生まれ。大手証券会社、ビジネス誌副編集長を経て、2013年に独立。欧米中印のスタートアップを中心に取材し、各国の政府首脳、巨大テック企業、ユニコーン創業者、世界的な投資家らへのインタビューを経験。2015年、エストニア政府による20代向けジャーナリストプログラム(25カ国25名で構成)に日本人枠から選出。その後、フィンランド政府やフランス政府による国際プレスツアーへ参加、インドで開催された地球環境問題を議題に掲げたサミットで登壇。Forbes JAPAN、HuffPost Japan、海外の英字新聞でも執筆中。現在、株式会社クロフィー代表取締役。

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