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「ごちそうさん」の時代と、木造校舎

田中淳夫森林ジャーナリスト
木造校舎は、たしかに郷愁を感じるが……。(写真は閉校した学校の再利用)

NHKの朝ドラ「ごちそうさん」。

大ブームを引き起こした「あまちゃん」後の放送だったが、なかなか視聴率もよいそうだ。だが、私にはまったく面白くない。朝ドラを見るために朝早く起きる気分にならず、起床時間もずるずると遅くなる始末……。

まあ、それでも時折、昼などにテレビをつけると目にすることはある。

ストーリーはともかく、大正から昭和にかけての時代を描き、主人公は意地汚い、もとい食いしん坊の妻で、夫は大阪市の建設局に勤めているという設定。そこで気がついたことがあった。

一つは、大正時代の大阪は、まだおくどさん、つまりかまどで、薪を燃やして炊事をしていたこと。そこに東京から嫁いだ主人公は、実家が洋食屋だったこともあってガスコンロを使っていた。そのため、「ガスコンロに換えて喜ぶ」というエピソードがあった。薪よりガスは便利で火力の調整もできて素晴らしい! と番組では暗に伝えていた。

そして夫は、母を火災で亡くしたため、燃えない安全な建築物をつくることにこだわり、木造よりコンクリート!なのである。だから学校も木造より鉄筋コンクリートに建てようとする。それは関東大震災後のエピソートでも触れられる。

現在、薪ストーブとか薪で炊いたご飯は美味しいと盛んに宣伝され、コンクリートより木造だと「木づかい運動」が進んでいることを思うと皮肉な話だ。NHKがわざとこんな設定にしたのではないだろうが、ガスコンロやコンクリートに憧れる気持ちが強かった時代のことを感じるのである。

ところで、関西圏のニュースで木造校舎の学校の話題が立て続けにあった。

一つは、和歌山県の橋本市立高野口小学校の校舎。昭和12年に建てられた校舎の中で現役のまま国の重要文化財の指定を受けたというものだ。関東大震災の教訓として、非常に太いヒノキの材を使って建ててあるそうだ。これは木の国・林業県としての意地もあったのではないか、と想像する。

一方、兵庫県の西脇市立西脇小学校も、同じ昭和12年建設の2階建て3棟の木造校舎があり、兵庫県の景観形成重要建造物にも指定されている。ところが、こちらは耐震性への不安や老朽などを理由に、取り壊してコンクリート校舎に建て替える計画が進んでいるというニュースだった。

地元で反対運動が起きて、専門家の調査の結果、補修で対応できるし、その方が安上がりという指摘を受け、計画は見直されることになりそうと解説していたが、やはり一般人には木造よりコンクリートという声が根強いのだと感じた。

おりしも木造校舎の学校では、生徒がインフルエンザになりにくいとか、転んで怪我をしにくいなどの研究結果が発表されている。木造なら結露せず湿気が程度に維持できることや、床などの軟らかさが影響しているのではないか、というのだが、これも「木づかいの時代」ならではだろうか。

しかし大正時代ならば、もしかしたら、木造よりコンクリートの校舎の方が安全で、硬い床を歩くことで体力がつくとか、寒さ暑さをしのげて勉強しやすい……という研究結果が出されたかもしれない。

ちなみに私は、小学校2年生までが木造校舎で、その後は鉄筋コンクリートの校舎で学んだ。当時の印象としては、コンクリートの方がオシャレだったが、今郷愁を持って思い出すのは木造校舎である。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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