Yahoo!ニュース

全米各地で大量発生中!見た目がなんとも気持ち悪い害虫「シタベニハゴロモ」がワイン生産の脅威に

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
カリフォルニアワインのイメージ写真。(写真:アフロ)

(閲覧注意:この記事には虫の写真が含まれます)

ここ数年、ある害虫がアメリカ各地で大量発生し、人々を悩ませている。英語でSpotted lanternfly(スポテッド・ランタンフライ)などと呼ばれる虫で縦は3、4cmほど。黒の斑点がある羽の内側に鮮やかな赤橙の羽があるのが特徴だ。

この虫はとにかく見た目がグロテスク。大抵群れを成し、何百何千匹とうじゃうじゃ固まっている。ニューヨーク市内でもここ数年、夏場以降に屋外(外壁や歩道の隅、樹木など)にへばりついていたり道路で死んでいたりするのをよく見かけるようになった。たまにバタバタと飛んでいて歩行者とぶつかったりすることもある。ぶつかられた方はたまったものではない。

2009年以来、日本にも生息

日本ではシタベニハゴロモと呼ばれ、カメムシの一種だという。もとは中国原産で、卵塊が輸入品の荷物と共に各国に移動し、日本や韓国、アメリカでも生息するようになった。日本で初めて確認されたのは2009年に石川県。22年までに中部、近畿、中国地方に広がったという(筆者がニューヨーク市内で初めてこの虫を見たのもこの頃)。

参照:富山市科学博物館

別の資料では、アメリカでは2014年にペンシルベニア州の森林で初めて確認されたとある。それから10年間でニューヨーク、コネチカット、インディアナなど15の州で確認されている。特にニューヨーク、ニュージャージー、フィラデルフィアで大量発生しているという。

参照:コーネル大学米魚類野生生物局

閲覧注意:虫の写真が含まれます。

アメリカでは思いもよらぬところで突然見かけることがよくある。写真は昨年9月、ピッツバーグにあるメジャーリーグの会場、PNCパークで。
アメリカでは思いもよらぬところで突然見かけることがよくある。写真は昨年9月、ピッツバーグにあるメジャーリーグの会場、PNCパークで。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

筆者が初めてこの虫を見たのは2022年8月、スタテン島(マンハッタンから南方にある島)のビーチだった。持参したランチの入れ物に見たことがない奇妙な虫が5、6匹くっついているのを見つけ、私たちは必死で追い払った。それから程なくして市内のほかの区(ブルックリンやマンハッタン)でも同じ虫が大量発生しているのを地元メディアで知ることとなった。

コーネル大学ニューヨーク市の資料によると、当地で初めて確認されたのは19年で、個体群の確認は20年以降にスタテン島にて、とある。

筆者は昨年の夏の終わりにも、飲食店の外壁に大量にへばりついていたりバタバタと空中を飛んでいたりするのを何度も見かけた。そして今夏も大量に発生するだろうとメディアは警告している。

大量発生予想マップ

懸念される作物への被害

人を刺したり噛んだりすることはないし、歩くスピードも速くない。見た目が気色悪いだけならいざ知らず、この害虫が脅威とされるのはブドウなどの作物に深刻な被害をもたらす可能性があることだとコーネル大学の資料は伝える。「1本のブドウの木に最大400匹が生息すると木が弱り枯れることになる」という。

また食物の栽培業者にとっての脅威は、西へ西へと広がっている。今夏恐れられているのはカリフォルニア州のワイン生産業者だ。このスポテッド・ランタンフライはワイン業界にも大きな打撃を与えるものとして、生産者は戦々恐々としていると5日付のFOXニュースが伝えている。

記事によると、カリフォルニアブドウ栽培者協会(CAWG)は、同州内でスポテッド・ランタンフライの卵塊が見つかったとして、その土地のワイン生産業者に対し警戒を呼びかけた。卵塊は数週間以内に成虫になるものとされ、大量発生のピーク予想は夏の終わりから秋にかけてだ。

またアメリカワインの80%が生産されているカリフォルニア州は、世界でも4番目に大きなワインの産地だ。ワイン産業は同州内で年間730億ドル(約11兆7300億円)の経済効果があるドル箱である。害虫被害はたまったものではないだろう。

アメリカでは生息の歴史が浅く専門家による研究段階にあるが、ニューヨーク市環境保全局は今のところ、見つけたら駆除してと市民に呼びかけている。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事