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リビアに壊滅的な洪水をもたらした「メディケーン・ダニエル」の正体

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
9日のメディケーン・ダニエルの衛星画像 (NASA出典の写真に筆者加筆)

国土の9割を砂漠が占めるアフリカのリビアで、数千人の死者が出る壊滅的な洪水が起きてしまいました。

現在のところ死者数は2,000人と伝えられていますが、6,000人近くが行方不明ともいわれています。当局は「前例のない洪水だ」と、その被害の規模を語っています。

特に被害が大きかったのは、リビア北東部の沿岸都市デルナです。記録的な大雨の影響で2つのダムが決壊し、流れてきた大量の水によって町全体が押し流されました。

デルナは、以前イスラム過激派によって支配されていた場所でもあり、その結果衰退してインフラが不十分だとAP通信は伝えています。

異常な大雨

どれほどの雨が降ったのでしょうか。

10日(日)にかけての24時間でリビア北部に降った雨量は414ミリに達していました。9月の月間降水量は5ミリ以下ですし、年間降水量も200ミリ程度ですから、いつもとはスケールの違う凄まじい雨だったことがわかります。

地中海の"ハリケーン"

では大雨を降らせた原因は何だったのでしょうか。

それは「メディケーン」と呼ばれる地中海の低気圧です。メディケーンとは、地中海を意味するメディテレーニアンと、ハリケーンを組み合わせた造語です。今回の嵐は「ダニエル」と名付けられています。

そもそも地中海は高緯度にあるので、熱帯の空気からなるハリケーンや台風のような熱帯低気圧は発生しません。その代わりに熱帯低気圧と温帯低気圧の特徴を併せ持ったハイブリッド的な強い嵐が発生することがあります。

メディケーンは、雨の少ない地中海沿岸に大雨や大風をもたらすので、過去に何度も甚大な災害を引き起こしてきました。1969年には、ギリシャ船籍の大型タンカーが座礁して、真っ二つに折れたこともあります。

今夏は地中海の海水温が記録的に高いこともあって、余計に雨が多かったと考えられます。

多発する災害

ダニエルはメディケーンになる前の先週、地中海対岸でも大雨を引き起こし、ギリシャ、トルコ、ブルガリアで27名の犠牲者を出しています。

同じく地中海に面するモロッコでは、8日(金)に起きた大地震により、2,800人以上の尊い命が失われました。このところ地中海沿岸で、大自然の脅威を目の当たりにする大災害が頻繁に起きています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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