Yahoo!ニュース

【バスケW杯予選】まさに今、日本バスケ界の分岐点。9月とは違うカザフスタンとの天王山

小永吉陽子Basketball Writer
運動能力を生かして急成長中。富山出身の馬場雄大(写真/小永吉陽子)

3位浮上のチャンス。天王山となるカザフスタン戦

 1年3ヶ月をかけてホーム&アウェーで戦う男子バスケットボールのワールドカップ予選が大詰めのWindow5(5回目の会期/11月30日、12月3日)を迎えている。1次予選は4連敗からスタートした日本だが、ここに来て怒涛の5連勝。そして12月3日はホームで戦う最終戦となり、富山の地でカザフスタンを迎える。

 カザフスタンは9月のWindow4で敵地にて85-70で勝利している相手だが、侮れない。11月30日に92-88のハイスコアでフィリピンに競り勝っているからだ。ここまで日本は5勝4敗でFグループ4位。カザフスタンは4勝5敗で5位につけており、出場権獲得の可能性を残し、意気揚々と日本に乗り込んでくる。

 チケット獲得に向けてギリギリのところで渡り合っているのは日本だけではない。7月のWindow3で乱闘試合をしたことにより、主力が出場停止処分を受けているフィリピン(5勝4敗、3位)、経験豊富なベテラン選手を負傷や諸事情で招集できないイラン(6勝3敗、2位)も2次ラウンドでは苦戦をしいられている。

 12月3日、日本がカザフスタンに勝ち、フィリピンがイランに勝利した場合は日本・イラン・フィリピンが6勝4敗で並ぶことになる。そうなると日本は出場条件であるグループ3位内への浮上も見えてくる。またイランとフィリピンの勝敗に関係なく、日本が勝利した場合は最後の一枚をかけた7位争いにおいても、逆のEグループ4位(開催地である中国をのぞく)との比較(ヨルダン5勝5敗)でも優位に立つことができる。

 Window6でのイランとの直接対決が天王山になると思われたが、Fグループが混戦になったことにより、12月3日のカザフスタン戦はいわば『天王山』といえる決戦になった。長年、日本代表で主力を務める竹内譲次が「今、日本バスケットボールが(未来に向けての)分岐点に立っている」と表現するほど、この試合は重要だ。もちろんカザフスタンとて、このチャンスは逃がすまい。「カザフスタンはすべてをかけて戦いに来る。9月と同じ試合にはならないだろう」(フリオ・ラマスHC)という決意のもとで臨む。

カザフスタンの成長株で注目選手、アレキサンドル・ジグリン(写真/小永吉陽子)
カザフスタンの成長株で注目選手、アレキサンドル・ジグリン(写真/小永吉陽子)

長期に渡る予選ではチームの変貌と成長を見逃すな。カザフの要注意選手は?

 昨年から導入された新方式のワールドカップ予選は、1年3ヶ月かけて戦うこともあり、これまで一極集中型で約2週間かけたアジア予選とは、戦い方のポイントが違うことに気づく。従来はターゲットの大会に合わせてチームを仕上げて臨み、大会中は毎日違う相手と戦うための対応力と修正力が必要となり、連戦をするスタミナが問われた。

 だが、6回の会期に渡るワールドカップ予選では、1年以上かけてのチームや個々の成長が問われ、シーズン中かオフシーズンかによるコンディション作りや海外チームとの契約状況、『旬』な選手の加入によってもチーム状態が左右することがある。日本であれば、八村塁と渡邊雄太が参戦可能で、ニック・ファジーカスが帰化したオフ期間のWindow3と4がターニングポイントになり、ここからチームが上昇したのだ。彼らは勝ち切れなかった日本に自信を与えてくれた。

 11月30日に対戦したカタールにも『旬』の選手がいた。カタールは「帰化選手を含め、主力が数人来日できなかった」とヘッドコーチが嘆き、7名もの21~22歳の若手を育成するチームだったため、絶対に勝たねばならない相手だった。その中で手を焼いたのが、独特のリズムで1対1を仕掛けてくる6番ファウダ・ムスタフャ・エッサムだ。日本は初の予選参戦だった彼のことはスカウティングできていなかった。

 カザフスタンの『旬』な選手は誰か。カザフスタンといえば、リーダー格で得点源の13番ルスタム・イェルガリ(193センチ/SG/31歳)と司令塔の10番ルスタム・ムルザガリイェフ(192センチ/PG/26歳)のガードコンビが起点となるが、今もっとも警戒しなければならないのは、17番アレキサンドル・ジグリン(202センチ/C/24歳)だろう。

 彼は15歳でU19ワールドカップに出場した期待の星だったが、なかなか芽が出ずにいた。それが今夏のアジア競技大会でプレータイムを得て浮上のきっかけをつかみ、ここに来て飛躍を見せている。本来はインサイドの選手ながらプレーの幅を広げており、11月30日に勝利したフィリピン戦では3ポイントを12本中6本の高確率で決め、30得点を稼いでいる。ジグリンが所属する『BCアスタナ』(以下アスタナ)は国内リーグの強豪であり、カザフからは唯一、『VTBユナイテッドリーグ』(旧ソ連諸国14チームで争うリーグ)に参戦。11月19日のVEF riga(ラトビア)戦では、7本中5本の3ポイントを決めたことでも注目が集まっている。

12名中が8名のアスタナの選手。シーズン中の今は精度が高まっている

 カザフスタンが9月のWindow4と同じチーム状態と思ってはいけない。明らかに違うのは、シーズン中であるということだ。

 カザフスタンは12名中8名がアスタナの選手で構成されており、フィリピン戦でのスタメンは全員アスタナの選手だ。ほぼ代表チームのような構成でリーグを戦っているだけに、息が合っているというわけだ。フィリピンに勝利できたのも、フィリピンが出場停止中の主力を欠いたことだけが理由ではない。カザフスタンのチーム力がオフシーズン時より上がっているのである。従来は強いフィジカルを生かしたオフェンス・リバウンドで勝負するのが伝統だが、フィリピン戦では3ポイントが52.2%(12/23)と確率が高く、要所で走ったファーストブレイクも効いていた。

 そして、彼らを率いるリトアニア人のレナタス・クリリオノカスHCは29歳の新鋭であり、なんと、アスタナでアシスタントコーチを務めている(役職はコーチ)。アスタナではアシスタントでありながら、代表ではヘッドコーチを務めるという変わった経歴だ。その経緯を聞くと、「アスタナでのコーチは3年目。代表のヘッドコーチが予選の途中で退くことになり、急遽、僕がWindow3から就任することになった。アスタナのメンバーをよく知っていることが理由。確かに僕は若いが年齢は関係なく、情熱を持ってチームを作っている」という回答が帰ってきた。

カザフスタンの得点源でリーダー格。13番ルスタム・イェルガリ(写真/小永吉陽子)
カザフスタンの得点源でリーダー格。13番ルスタム・イェルガリ(写真/小永吉陽子)

カザフの2枚看板はもういない。新生カザフの挑戦とそれを打ち砕く日本

 もう一つ、クリリオノカスHCに確認したことがあった。カザフスタンは1次予選で絶対的エースだったアントン・ポノマレフ(30歳)とアナトリー・コレスニコフ(29歳)という2メートル級の選手がいた。どちらも代表歴が長く、得点とリバウンドでチーム1、2位を占める2枚看板。2人とも昨季までアスタナに所属していたが、昨リーグが終わると姿を消した。

 アントン・ポノマレフについては今夏に怪我と休息を理由に現役引退を表明しているが、コレスニコフについては行方がわからないままだった。その理由を質問すると「彼は今バスケをしていないようだし、辞めた理由もよくわからない。わかるのはカザフスタンにはいないことだけ」との返答。

 8月のアジア競技大会の頃は「2人のエースが抜けた穴を埋めるのは大変なことだ」と語っていたヘッドコーチが「でも、今は彼らが抜けてもやれることがフィリピン戦で証明できたでしょう」と、うれしそうに答えるのだ。

 カザフスタンはエースもチームカラーも以前とは違う。いやアジア競技大会や9月のWindow4からも生まれ変わろうとしている。こうしたチームや選手個々の成長に対応できるかどうかもポイントとなる。

 ただ、カザフスタンにも弱点はいくつもある。ビッグゲームで2連勝できる力はあるのか。3ポイントは2試合連続で当たるのか。これまでの国際大会ではターンオーバーから崩れて失速することが多かった。実際にターンオーバーは一試合平均21.1でアジア予選では最下位(日本は11.1)。とくに主軸のガードコンビは得点も取るが、ボールを失うミスも多い。またカザフスタンからマニラ、そして富山への移動の疲労は、ホームで2連戦する日本の比ではないだろう。

 カザフスタンにとって日本へのリベンジは、若い指揮官が抱く野望と、新しいチームに生まれ変わるためのチャレンジである。その挑戦を打ち砕き、世界への切符獲得のために突き進むためには「Windowを通して成長しているチームディフェンスをやること」だとキャプテンの篠山竜青と竹内譲次は口を揃える。竹内譲次が「日本バスケットボール界は分岐点にいる」と言う今このとき、カザフスタン戦はもっとも重要な試合となる。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

小永吉陽子の最近の記事