バイデン米大統領は明日にも戦争になるというが、その覚悟をさせているのはプーチンの側で西側ではない
フーテン老人世直し録(633)
如月某日
世界を「民主主義対専制主義」の対立と見る米国のバイデン大統領は20日、大統領就任1年1か月を迎える。そのバイデン大統領のロシア軍ウクライナ侵攻を巡る発言がこのところおかしい。まるで明日にも戦争が始まるかのような発言を繰り返し、西側世界の危機を煽っている。
いや本当に戦争が始まるなら危機に備える覚悟を持つことは必要だ。戦争に備えて民主主義諸国の国民は万全な体制を作り、どう行動すればよいを頭の中に入れなければならない。ところが米国大統領の発言は、国民に覚悟を求めてはいない。ただ危機を煽るだけだ。
それを見る限りバイデン大統領は本気で戦争が起こると思っているわけではなく、危機を煽り国民に恐怖を抱かせるところに目的があるように見える。何のために。中間選挙でレームダック化しないためにである。
しかしそれにしても今からじたばたするのは現職大統領としてみっともない。大変失礼な言い方だが、老人性の症状が出て、あらぬ妄想に憑りつかれているのではないかとも見える。例えばマクベスが敵兵の動きを「森が動いている」と錯覚したように。
フーテンは軍事専門家ではないので、現在のウクライナを取り囲むロシア軍の数が、何を目的としているのかが分からない。あるいは何を目的としていると思わせようとしているのかが分からない。しかし必ず目的を分からせようとしているはずだ。
それに対して西側諸国はどの程度のダメージまでならロシアに対して優位に立てるか計算しているに違いない。それを国民に公表しろとは言わないが、そういうデータが大統領の頭の中にあれば、それはおのずと大統領の言動に反映されるものだ。
しかし今回のバイデン大統領の言動にはそれとも結びつかない一種の軽さを感じる。本当にこの人物が世界最強国家米国の最高権力者であるのか、フーテンは心許なく感じる。
フーテンがワシントンで米国大統領をまじかに見たのは1981年に就任したレーガン大統領が最初である。レーガンはフーテンがワシントンに到着したその日に暗殺未遂の被害に遭った。テロリストはフーテンと同じホテルに投宿していた。
次のブッシュ(父)は、国民には人気がなかったが、フーテンは高く評価している。彼はロシアのゴルバチョフ大統領との間で冷戦を終結させた。この時、NATO軍と対峙していたワルシャワ条約機構軍は解体された。NATO軍はそのまま残ったが、条件としてNATOの東方拡大はしないという約束があるというのがロシアの言い分だ。だが、公式文書が残されておらず、NATOの東方拡大はクリントン政権以降顕著になった。
ブッシュ(父)は内政でもレーガノミクスに反対で、増税をしたため国民に人気がなかった。また国連を尊重し、湾岸戦争では初めて多国籍軍を組織した。その後のクリントン政権以降、米国は国連を無視して有志連合で戦争をやるようになる。
「米国の民主主義がソ連の社会主義に勝った」とする米国一極支配の始まりで、クリントン政権は世界を米国の価値観で統一しようとした。ロシアのエリツィン大統領は「我々は米国のジュニア・パートナーだ」と発言してフーテンを驚かせた。ジュニア・パートナーとは日本のような「従属国」のことをいう。それほどロシアは混乱し、世界第二位の軍事力を持ちながら米国の言いなりだった。
クリントン政権の路線はそのままブッシュ(子)に引き継がれ、一方のロシアにはエリツィンの後継者としてプーチンが登場した。わがもの顔に「テロとの戦い」を進める米国に対し、2007年にプーチンはそれが失敗に終わることを予言した。プーチンの予言通り米国は中東での「テロとの戦いに」足を取られ、オバマ政権は身動きが取れなくなる。そしてついにトランプという異形の大統領を生み出すのである。
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