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「いい風呂の日」に温泉療法を考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 今日11月26日は「いい風呂の日」(日本浴用剤工業会)だ。肌寒くなってくる師走前、温かな湯にのんびり浸かることで心身共にリラックスする。日本は火山国で温泉も多く日本人は入浴好きでもあるが、温泉療法(Balneotherapy)の可能性も次第に明らかになってきている。

温泉療法に効果は期待できるか

 身体を温める効果は古くから知られ、温泉でなくても温かい湯に浸かることで血行が良くなって筋肉が解きほぐされ、精神的なリラクゼーションも期待できる。こうした温熱を含む温泉療法は、化学治療や理学療法の一種でもあり、うつ病(抑うつ状態だけが起こるタイプの大うつ病性障害、Major Depressive Disorder)の改善にも効果があるようだ(※1)。

 自然にある温泉やミネラル分の豊富な鉱泉を利用した温泉療法は、欧米でも17世紀頃から広がり始め、シナイ半島にある死海(Dead Sea)やトルコにあるカンガル(Kangal)温泉、アイスランドのブルーラグーン(Blue Lagoon)温泉などが有名だ(※2)。死海では関節炎の治療に効果があるとされ(※3)、36℃のカンガル温泉では、小魚が皮膚の老廃物を食べてくれる(※4)。

 複数の研究論文を比較評価するシステマティック・レビューで権威のあるコクラン(Cochrane)によれば、579人が参加した9論文を比べたところ、関節リウマチには温泉療法が効果があるのではないかという(※5)。

 ただ、明確な効果があるというわけではなく、全くの無治療や単なる泥パックなどよりはいい結果が得られるが、リウマチの疼痛の緩和では1論文だけに有意な効果があっただけだった。温熱を含む温泉療法には今後さらなる調査研究が必要だろう(※6)。

 一方、患部を熱することで治療効果を期待する研究は多い。化学療法の一種としての温熱療法では、がんなどの腫瘍の治療に他の治療法と併用され始め(※7)、ナノサイズの金属粒子を患部へ投入して熱する治療法も開発されている(※8)。

 温泉の多い日本では温泉療法の効果についての研究も少なくない。先日も温泉で有名な大分県別府市にある九州大学病院別府病院などの研究グループの論文(※9)、道後温泉のある愛媛大学などの研究グループの論文(※10)が相次いで発表された(※11)。

体調や持病などに要注意

 これらの研究によれば、高齢者が日常的に温泉に入ることは、女性は高血圧や膠原病の予防や改善に、男性は心血管疾患の予防や大腸がんの予後に効果があり、また中高年の場合、入浴する頻度と湯温が高いほど心血管疾患や動脈硬化のリスクを抑える効果が期待できるようだ。

 ただ、特に高齢者の温泉を含む入浴には注意が必要で、健康状態や持病によって泉質を選んだり、入浴の方法を考えたほうがいい。身体が弱っていたり病気で発熱していたりするときに湯に入ると体力を消耗し、湯に浸かることで受ける水圧は心血管疾患や呼吸器系の病気を悪化させる危険性がある。

 皮膚が弱かったり皮膚炎などがある場合、温泉の泉質によって皮膚に悪影響が出たり病気が悪化することもある。こうした持病がある場合は医師の指導をしっかり受けてから入浴したい。

 また、温泉や鉱泉などを飲むこともあるが、水質によって身体に影響が出ることがある。泉質による注意などをよく調べてから入浴することが重要だし、時間経過とともに成分が変化したり雑菌が繁殖するため、温泉を持ち帰っての飲用は止めるべきだ。

 もちろん、出血しているときの入浴は禁物だし、飲酒後や過度な運動直後、高齢者や子どもの単独での入浴も危険だ。脱水症や血栓症になったりするので、入浴の前後で水分を十分に摂るほうがいいだろう。

 今日は風呂の日ということで、帰宅後にゆっくり湯に身体を浸したいと考える人も多そうだ。温熱を含む温泉療法にはリラクゼーション効果もある。体調や持病に不安がある人で温泉へ出かけたいなら、あらかじめ環境省の「あんしん・あんぜんな温泉利用のいろはについて」(2018/11/26アクセス)を確認し、心配なら「温泉療法医」(一般社団法人日本温泉気候物理医学会:2018/11/26アクセス)に相談してもいいだろう。

※1:Clemens W. Janssen, et al., "Whole-Body Hyperthermia for the Treatment of Major Depressive Disorder─A Randomized Clinical Trial." JAMA, Vol.73(8), 789-795, 2016

※2:Hagit Matz, et al., "Balneotherapy in dermatology." Dermatologic Therapy, Vol.16, Issue2, 132-140, 2003

※3:S Sukenik, et al., "Balneotherapy at the Dead Sea area for knee osteoarthritis." The Israel Medical Association Journal, Vol.1(2), 83-85, 1999

※4:Sedat Ozcelik, et al., "Kangal Hot Spring with Fish and Psoriais Treatment." The Journal of Dermatology, Vol.27, Issue6, 386-390, 2000

※5:Arianne P. Verhagen, et al., "Balneotherapy (or spa therapy) for rheumatoid arthritis." Cochran Database of Systematic Reviews, 2015

※6:Shuji Matsumoto, "Evaluation of the Role of Balneotherapy in Rehabilitation Medicine." Journal of Nippon Medical School, 85(4), 2018

※7:Rolf D. Issels, "Hyperthermia adds to chemotherapy." European Journal of Cancer, Vol.44, Issue17, 2546-2554, 2008

※8:Paul Cherukuri, et al., "Targeted hyperthermia using metal nanoparticles." Advanced Drug Delivery Reviews, Vol.62, Issue3, 339-345, 2010

※9:Toyoki Maeda, et al., "Preventive and promotive effects of habitual hot spa-bathing on the elderly in Japan." Scientific Reports, 8, Article number133, 2018

※10:Katsuhiko Kohara, et al., "Habitual hot water bathing protects cardiovascular function in middle-aged to elderly Japanese subjects." Scientific Reports, 8, Article number8687, 2018

※11:「温泉『入浴』効果〜別府と道後から出た2論文」Yahoo!ニュース:2018/7/31

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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