なぜエムバペの移籍は決まらないのか?パリSGの算段とレアル移籍の固い意思。
トッププレーヤーの移籍実現は、難しい。
この夏、世間の注目を集めているのがキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)の去就だ。エムバペの原稿契約は2024年夏まで。すでに1年の契約延長オプションを行使しない旨がクラブ側に通達されており、移籍の噂が加速している。
パリSGはプレシーズンのアジアツアーにおいて、招集リストからエムバペを外した。契約期間が残り一年となり、エムバペを売りたいというのがクラブの本音だろう。
■サウジアラビアのビッグオファー
チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、インテル、バルセロナ…。現在、複数クラブがエムバペの獲得に関心を寄せている。
そんな中、エムバペにサウジアラビアからもビッグオファーが届いた。アル・ヒラルが、移籍金3億ユーロ(約450億円)を準備。フランスに赴き、エムバペを説得しようと試みた。
だがエムバペの答えは「ノー」だった。彼の意思は明確で、それはレアル・マドリー移籍にある。
他方で、パリSGはエムバペの代役を見つけなければいけない。
ラスムス・ホイルンド(アタランタ)、ハリー・ケイン(トッテナム)、ドゥサン・ヴラホビッチ(ユヴェントス)、ウスマン・デンベレ(バルセロナ)…。複数名が候補に挙げられている。だが彼らとて“人気銘柄”であり、獲得競争は熾烈を極めるだろう。
■状況を静観するマドリー
一方、マドリーは状況を静観している。
マドリーは当初、この夏のエムバペ獲得を考えていなかった。マドリーが動くのであれば、エムバペあるいはパリSG側から打診があった時――そして、ここにきて、エムバペの実質的な代理人である母親のファイサ・ラマリ氏が、移籍金2億5000万ユーロ(約375億円)での取引を持ちかけたと言われている。
マドリーが状況を静観しているのには、理由がある。エムバペはすでに契約延長の意思がないことを明確にしている。つまり、2024年の夏に、フリートランスファーで獲得できる選手なのだ。
マドリーとしては、現実的に言えば、“どちらでもいい”のである。この夏、性急にエムバペ獲得に動かなくても、次の夏に確保するのは難しくない。エムバペの希望がマドリー移籍にある以上、この交渉はマドリーに優位に傾く。敏腕のビジネスマンであるフロレンティーノ・ペレス会長が、そのポイントを抑えていないはずがない。
■補強と新システム
一方、マドリーは、このプレシーズンで新たなシステムを試している。従来の【4−3−3】を放棄して、【4−4−2】を使用している。
このシステムで、躍動しているのがジュード・ベリンガムである。
マドリーは今夏、ボルシア・ドルトムントからベリンガムを獲得。移籍金1億300万ユーロ(約151億円)をドルトムントに支払い、オペレーションをまとめた。
そのベリンガムを、カルロ・アンチェロッティ監督はトップ下で起用している。前線にヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエスを据え、ベリンガムをトップ下に配置したシステムは“擬似3トップ”に見えなくもない。いずれにせよ、ベリンガムの2列目の飛び出しと得点力を活かすための布陣であるのは間違いない。
「我々は完璧なチームになっている」
「(エムバペに関する質問に)不快感を感じてはいない。単に、答えないだけだ。我々は、うまくやっている。しかし、継続性を持たなければいけない。得点力は十分にある。ブラヒム(・ディアス)、ホセル、新加入の選手たちが、ゴールを奪うために攻撃面で貢献してくれるだろう」
これはカルロ・アンチェロッティ監督の言葉である。
指揮官の言葉通り、マドリーはエムバペ抜きでチームビルディングを進めている。
そして、マドリーは、ペレス会長は知っている。この交渉に関しては、時計の針が進めば進むほど、自分たちが有利になることを。