”自作の曲を演奏できなかった作曲家、JASRACに敗訴”の件、控訴審でもJASRAC勝訴
8月に書いた記事「”自作の曲を演奏できなかった作曲家、JASRACに敗訴”の件の判決文が公開されていました」の知財高裁における控訴審の判決文がもう公開されていました(判決言い渡しは10月28日です)。
基本的な内容は地裁判決とほぼ同じです(地裁判決を多少修正して引用する形になっています)。大きな争点は以下の3つです。結果的に前の記事に書いたことの繰り返しになりますが再度書きます。
1) JASRACの演奏の許諾の拒否は応諾義務違反か?:大前提として、JSARACのような著作権管理団体は「正当な理由」なしに楽曲の利用を拒否できません(著作権等管理事業法)。そして、JASRACに対する過去の使用料が清算されていないことはこの「正当な理由」にあたるというのが判例上確定しています(そうでなければ、過去の支払いをバックれつつライブハウスとして普通に営業できてしまいますので当然と言えば当然です)。そして、このライブハウスはウェブサイトにおいてJASRAC楽曲を演奏したい人は個人で許諾申請するよう呼びかけていた等の事情があるので、個人が形式的にライブハウスに代わって許諾申請しているだけである(ゆえに、利用を拒否する正当な理由がある)と判断されました。
2) 「自分の楽曲」を演奏するために許諾が必要なのは不公正な取引か?:これについては、そもそも、控訴人(アーティスト)は、楽曲の著作権を音楽出版社に譲渡すており、もはや著作権者ではないため、原告適格がないとされました(現在は、JASRACから(および、おそらくは音楽出版社からも)著作権管理を引き上げているようですが、この事件が起きた時点での著作権者は音楽出版社であったのでどうしようもありません)。なお、CDを出すときに「楽曲のプロモーションと管理は自分でやるので楽曲の著作権は音楽出版社に譲渡せず自分で保持したい」と言ってもそうはできない(法律的にはできるが業界慣行として許されない)という問題はあると思います(ジャズ系のアーティスト等の場合は自分で管理していることは多いようですが)が別論です。
3) 許諾拒否の後に別のライブハウスで演奏した時に支払った著作権使用料が分配されていないことによる損害の賠償: JASRACが音楽出版社にちゃんと支払っている証拠を提出しているため、控訴人(アーティスト)の主張は根拠がないとされました(地裁と同じです)。これについては、この別のライブハウスからの支払時期に関して控訴人とJASARACの間に言い分の齟齬があり、控訴人は規定通りの期日に支払われていないと主張しているのですが、裏付けとなる証拠が出されていないので認められていません。
結局のところ、新しい証拠や新しい争点が出たわけではなく、地裁の議論が繰り返されただけ(そして、同じ結論が出ただけ)のように思えます。特に3)については、控訴人側は訴えの前提となる事実をちゃんと立証していないようなので、この別のライブハウスの関係者に証人になってもらえばよいのに、なぜそうしなかったのかという疑問は残ります。