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ぶっちゃけ例年に比べ地味だが、ディズニーかネトフリが初の頂点へ? 多様性加速のアカデミー賞ノミネート

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ノマドランド』

昨年は韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の大逆転、ブラッド・ピットの初の演技賞受賞など、キャッチーで華やかなトピックで盛り上がり、その前の年は、是枝裕和監督の『万引き家族』が日本映画として10年ぶりに国際長編映画賞に、そして細田守監督の『未来のミライ』が長編アニメ映画賞にノミネート。『ボヘミアン・ラプソディ』の主演男優賞も話題になった。さらにその前年は、日本人のアーティスト、カズ・ヒロ(当時は辻一弘)が、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。さらにさらにその前年はスタジオジブリ製作の『レッドタートル ある島の物語』が長編アニメ映画賞ノミネートで、授賞式のクライマックスでは作品賞発表の封筒受け渡し間違い事件が起こり……と、ここ数年、アカデミー賞は、日本の、ある程度、一般レベルにも関心を広げるネタを提供し続けてきた。

3/15、第93回アカデミー賞のノミネートが発表され、予想していたとおりとはいえ、今年は一般レベルまでの盛り上がりをみせることはなさそう……と、新型コロナウイルスによるアメリカ映画の停滞を、日本からすると、そのまま実感するような結果ではある。日本でもヒットした『TENET テネット』あたりがもう少しメインに入ってきてほしかったが、そういった番狂わせもなかった。とはいえ、各賞ノミネートの作品はアカデミー賞らしく傑作ぞろいなので、むしろこういう年こそ、日本の映画ファンには注目してほしい、というわけで、今年のノミネートのトピックをいくつか紹介したい。

「鬼滅」ノミネートならず…は予想どおり

これまで『千と千尋の神隠し』が受賞を果たすなど、日本映画としては毎年、最もノミネートの可能性が高いのが、長編アニメ映画賞のカテゴリー。今年はコロナ禍の中、日本のみならず映画興行を押し上げた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、もしアカデミー賞でもノミネートされたら、授賞式まで日本でも話題がとぎれなかっただろう。「鬼滅」は、それまでの予想ではつねに6〜10番手あたりの第2グループにつけていたが、今年は例年以上に上位の作品が強力だった。「鬼滅」と同じく、スタジオジブリの『アーヤと魔女』や、世界の映画祭で受賞を続ける『音楽』などの日本作品も例年なら、もう少しノミネートに至近距離だったかも。裏を返せば、最有力の『ソウルフル・ワールド』や、対抗馬の『ウルフウォーカー』など、ノミネートされた作品のレベルの高さは、ぜひ実感してほしいところ。

例年以上にノミネート作品が、日本でも観られる!

アカデミー賞を受賞しそうな作品は、日本では結果とともに盛り上がることを期待して、授賞式前後に劇場公開日が設定されることもよくあった。昨年の『パラサイト』こそ、授賞式の前にすでに日本でもヒットしていたが、2018年度の作品賞『グリーンブック』の場合、授賞式が2/24で、日本公開が3/1。2017年度作品賞の『シェイプ・オブ・ウォーター』が、授賞式3/4で、公開が3/1。2016年度、作品賞有力だった『ラ・ラ・ランド』が、授賞式2/26で、公開が2/24……といった具合。しかし今年は作品賞最有力といわれる『ノマドランド』が3/26公開で、同じく有力の一本『ミナリ』が3/19公開と、授賞式のかなり前に日本の劇場でも観られる。さらにストリーミング会社の作品が年々増加し、今年はコロナ禍で大躍進したことで、最多10部門ノミネートの『Mank/マンク』を筆頭に、ネットフリックス、アマゾンプライム、ディズニープラス、Apple TV+で、各部門ノミネート作品が例年以上に、ノミネート発表の現時点で視聴可能なのである。作品賞ノミネート8本のうち、ストリーミング会社の作品は3本である(ただ、今回のこの割合は予想以下。まだまだ従来のスタジオの作品が強い!)

『Mank/マンク』 ネットフリックスで独占配信中
『Mank/マンク』 ネットフリックスで独占配信中

頂点の作品賞は、ディズニーの悲願達成?

ノミネートが発表されて、最多は『Mank/マンク』の10部門で、そこから2番手が6部門ノミネートの6作。一見、『Mank/マンク』の一人勝ちのようでもあるが、多くの人の予想で、頂点の最有力に君臨したままなのが『ノマドランド』である。ヴェネチア、トロントという大きな映画祭で最高賞を受賞し、そのまま多くの前哨戦も制し、勢いは衰えていない。アカデミー賞までのレースでは、序盤に勢いがあると後半、息切れで失速し、昨年の『パラサイト』のように終盤、急激に追い上げた作品が頂点となるケースも多い。しかし『ノマドランド』に迫ってくる作品がなかなか現れないのが今年の実情。むしろ『Mank/マンク』の方が、ノミネート数のわりに息切れムードでは、という予想を耳にする。結果的に受賞自体は少ないのではないか。『ノマドランド』は、『シェイプ・オブ・ウォーター』などと同じサーチライト・ピクチャーズの作品で、2019年、ディズニーのFOX買収によって、同社もディズニーの傘下に入った。つまり配給を手がけるのはディズニーである。過去92回という長い歴史を誇るアカデミー賞で、これまでディズニーが作品賞を受賞したことは、一度もない(意外!)。サーチライト製作とはいえ、『ノマドランド』はディズニーの作品でもあるので、ひとつの快挙となる。もちろん『Mank/マンク』が作品賞でも、ネットフリックス、つまり配信(ストリーミング)会社にとって初の栄誉なのだが。

『ミナリ』Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24
『ミナリ』Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

韓国系強し! アジアとして応援したい

昨年の『パラサイト』の快挙に続いて、今年も韓国は盛り上がっている。作品賞など6部門でノミネートされた『ミナリ』は、アメリカ映画ではあるが、韓国人移民の家族の物語で、セリフの大部分は韓国語。父親役で、ドラマ「ウォーキング・デッド」などで知られるスティーヴン・ユァンはアジア系として史上初となる主演男優賞にノミネート(パキスタン系のリズ・アーメッドも今年、同賞ノミネート)。さらに韓流ファンにはおなじみの、韓国の超ベテラン女優、ユン・ヨジョンが助演女優賞にノミネートされた。『パラサイト』も演技部門ではノミネートゼロだったし、これまで渡辺謙、菊地凛子など日本人の助演賞ノミネートはあったが、韓国人俳優では初なので否が応でも期待が高まっている。ユァンの受賞は難しそうだが、ヨジョンは下馬評でも可能性が高めなので、アジア系として応援したいところ。

その他の注目点としては……

監督賞ノミネートに女性2人は、史上初

そのうち『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督は受賞も濃厚。受賞すれば女性としては2人目で、ジャオは中国人(アメリカ在住)なのでアジア系としても3人目となる。

『マ・レイニーのブラックボトム』 ネットフリックスで独占配信中
『マ・レイニーのブラックボトム』 ネットフリックスで独占配信中

故チャドウィック・ボーズマンの受賞なるか

マ・レイニーのブラックボトム』で主演男優賞にノミネートされたチャドウィック・ボーズマンは、2020年に逝去。受賞も有力視されており、そうなれば故人の演技賞受賞は、『ダークナイト』のヒース・レジャー以来、史上3人目となる。

授賞式は2元中継?

例年どおりのドルビーシアターと、ロサンゼルスの鉄道の駅であるユニオン・ステーションでの2元中継で授賞式が行われることが正式にアナウンスされた。コロナ禍でのリモートも駆使されるだろうが、まったく新しい試みになるのは間違いない。

アカデミー賞授賞式は、4/25(日本時間4/26)に開催される。

『ノマドランド』 (C) 2020 20th Century Studios. All rights reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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