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パッキアオそして日本期待の佐々木尽が標的にするウェルター級王者バリオスの実力

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
WBCウェルター級王者マリオ・バリオス(写真:WBC)

すでにトレーニングに入ったパッキアオ

 ボクシングのタイトル承認団体で最大勢力を誇るWBC(世界ボクシング評議会)は19日、ウェルター級暫定王者マリオ・バリオス(米)を正規王者に昇格させた。同級4団体統一王者に君臨しパウンド・フォー・パウンド(PFP)トップをスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)と争うテレンス・クロフォード(米)が先月、休養王者へシフトされており、バリオスの昇格は必然的な流れだった。

 バリオス(29勝18KO2敗=29歳)は先週土曜日15日、フランク・マーティン(米)に印象的なKO勝ちでWBA世界ライト級王座の防衛を果たしたジェルボンテ・デービス(米)や元ウェルター級統一王者キース・サーマン(米)、同級WBAスーパー王者ヨルデニス・ウガス(キューバ)らと対戦しており、経験豊富で知名度もそれなりにある。だがボクシングファン以外に名前が浸透している選手とは言いがたい。そのWBC王者に熱視線が注がれている。

 バリオスをリングに誘い出そうとしているのは6階級制覇王者マニー・パッキアオ(45歳)。2021年8月、ラスベガスでウガスに判定負けしたパッキアオは現役引退を表明し23年12月、韓国で総合格闘技家とエキシビションマッチを行った以外はリングから遠ざかっている。そのパッキアオが7月28日、格闘技イベント「超RIZIN」で、総合格闘技家でキックボクサーの鈴木千裕と3分3ラウンドのボクシングルールのエキシビションマッチを行う。その後10月か11月をメドにパッキアオはラスベガスでバリオスに挑戦する話が持ち上がっている。

 発信元はマニー・パッキアオ・プロモーションズ社長ショーン・ギボンズ氏。年末に井上と4団体統一王座を争ったマーロン・タパレス(フィリピン)、同じく先月、井上に挑戦したルイス・ネリ(メキシコ)に帯同して来日している米国人だ。同氏によるとパッキアオは2週間前からコンディションづくりに励んでいるという。これは鈴木戦のための準備だろうが、その先を見定めていることは間違いない。

「こちらも望むところ」とバリオス

 3年ぶりの復帰を目指すパッキアオは「私は40歳でキース・サーマンに勝って歴史をつくった。45歳でも十分やれると思う。ブランクが長いけど、その分ダメージを被っていない」と明かす。ギボンズ氏も「マニーはもう一度、勝ちたいと望んでいる。私も彼といっしょにトレーニングしている。彼はまだ速く、クイックで10年前の半分まで到達している。正直に言おう。マニー・パッキアオが80パーセントの状態に仕上がれば、現役選手の多くに勝てるだろう」と援護射撃する。

 私はそれほど甘いと思っていないが、高齢といえどもパッキアオが戻ってくれば、彼との対決を熱望する選手は少なくない。他ならぬバリオスがその一人だ。「レジェンドと対戦する可能性があるので、とてもエキサイトしている。彼とリングをシェアするのが夢だった」と歓迎。ダンスパートナーを務める心意気をアピールする。

王者復帰を目指すと宣言したマニー・パッキアオ(写真:BoxingScene.com)
王者復帰を目指すと宣言したマニー・パッキアオ(写真:BoxingScene.com)

日本人未到のクラスに挑む佐々木

 パッキアオが正規王者に昇格したバリオスに執心するのはウェルター級が特別なクラスであることの証だ。147ポンド(66.68キロ)リミットのウェルター級は歴史があり、数多くの名チャンピオン、強豪を輩出してきた。現在、世界ナンバーワンの世界チャンピオン保有国である日本はミドル級で村田諒太、竹原慎二が頂点に立っているが、それより2つ軽いクラス、ウェルター級では誰一人、世界王者は誕生していない。そもそも世界タイトルに挑戦することが難しく、辻本章次、龍反町、尾崎富士雄(2度)、佐々木基樹の4人が挑んだのみ。09年10月、佐々木がWBA王者ビアチェスラフ・センチェンコ(ウクライナ)に挑戦して以来15年近い歳月が経過している。

 ようやく日本にもウェルター級王座挑戦を視野に入れる逸材が出現してきた。ОPBF(東洋太平洋)&WBOアジアパシフィック王者の佐々木尽(八王子中屋)だ。22歳の佐々木は17勝16KO1敗。WBAとWBOで4位、WBCとIBFで5位にランクされる。クロフォードという絶対王者がスーパーウェルター級へ転向が濃厚になり、王座が分裂し始めたことからタイトル挑戦のチャンスは確実に増えると推測される。

 その佐々木も「マリオ・バリオスとか相性がいいので、ほぼほぼ勝てると思っています」と頼もしい言葉を発している。果たしてバリオスは狙い目のチャンピオンなのか?

WBOアジアパシフィック王者・佐々木尽(写真:ボクシングビート)
WBOアジアパシフィック王者・佐々木尽(写真:ボクシングビート)

“タンク”デービスにはTKO負け

 “エル・アステカ”のニックネームを持つバリオスは1995年5月18日、米国テキサス州サンアントニオ出身。ニックネームから判断できるようにメキシコ系で、祖父母がメキシコからの移民。母イサベルがボクシングファンだったことが影響し3歳年長の姉セリナといっしょに6歳の時からグローブを握った。

 アマチュアでリングに上がった後、13年11月プロデビュー。当時はスーパーバンタム級で、16戦目で日本でWBC世界スーパーフェザー級王者(当時)粟生隆寛に挑戦したデニス・ボスキエロ(イタリア)に12回判定勝ち。しかし体重維持が苦しくライト級を超えてスーパーライト級へ進出。19年9月、王座決定戦でバティル・アフメドフ(ウズベキスタン)に3-0判定勝ちでWBA世界スーパーライト級レギュラー王者に就く。

 1度防衛後デービスに11回TKO負けで初黒星。復帰戦でサーマンに判定負けで連敗したが、23年9月、ウガスに判定勝ちでWBCウェルター級暫定王者に君臨した。3月ファビアン・マイダナ(アルゼンチン)からダウンを奪って3-0判定勝ちしたのが最新試合。

 特筆すべき武器は持っていないが、全体的にまとまっている選手。KO率もそこそこ高いことから、楽観視することはできない。体格もウェルター級にマッチしている。PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下でキャリアを進めており、同プロモーションの選手を日本のリングに上げることは今のところ難しい。先にパッキアオが挑戦し、仮に勝てば、佐々木がパッキアオに挑むシナリオになるかもしれない。ドリームファイトのカギを握っているのがバリオスだという見方もできるのだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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