「ゴールデンカムイ」完結! 土方歳三は二度死ぬ(一)
人気漫画「ゴールデンカムイ」(作・野田サトル)の単行本最終巻がこのたび刊行され、物語が完結した。北海道のどこかに眠る財宝をめぐる男たちの争いにも、ようやく決着がついたのだった。
この漫画で特筆されるのは、主要人物の一人として、年老いた新選組の土方歳三が登場することだ。明治2年(1869)の箱館戦争で戦死したはずの土方が、実は生きていて、老人ながら凄腕の剣客として登場する、胸アツの展開になっているのである(以下ネタバレ含む)。
そんな土方も、「ゴールデンカムイ」最終巻において再び敵の攻撃に倒れ、壮絶な最期をとげた。歴史上の死と、物語における死――。まさしく土方は、「二度死ぬ」ことになったのである。
箱館に渡った土方歳三
歴史上の土方歳三の死は、どのようなものであったのか。
明治元年(1868)から翌年にかけて、旧幕府脱走軍と明治新政府軍が対決した箱館戦争がその舞台となる。徳川幕府そのものはすでに新政府軍に降伏していたが、徹底抗戦を主張する者たちが本州を脱走して蝦夷地の箱館(函館)に渡り、戦いを続けていた。
この旧幕府軍にあって、京都で新選組を率いた歴戦の勇士として、兵士たちのカリスマ的存在になっていたのが土方歳三だった。総裁榎本武揚からの信頼も厚く、旧幕府軍陸兵を指揮する陸軍奉行並に任命されていた。
しかし、両軍の戦力には大きな差があり、箱館の戦況は日に日に旧幕府軍に不利となっていく。追いつめられた総裁榎本は、戦闘継続をあきらめ、ついに新政府軍に降伏する方針を固めるのだった。
これを知った土方はひとり嘆いた。
「ああ俺は死に遅れた。もし降伏をして生きながらえることになれば、あの世で近藤勇に合わせる顔がない」
新選組局長として無念の死をとげた盟友近藤に顔向けができないといって、土方は最後の戦いに出ることを決意するのだった。
一本木の戦いに散る
明治2年5月11日、新政府軍が総攻撃を開始した日の朝、五稜郭の本営から土方は騎馬で出陣した。従う兵はわずか80人。土方についていけば負けるはずがないと思っている者たちばかりだった。
進軍途中の一本木には、五稜郭側と箱館市街を区切る関門が設置されていたが、この一本木関門に差しかかった時、土方は自軍の兵が敵に押されて退却してくるのを見た。思わず土方は乗馬のまま大刀を抜き払って大喝する。
「退くな、退く者があれば斬る」
いつもこうして兵を奮い立たせてきた土方だった。
しかし、そのとき一発の銃弾が飛来し、土方の腹部に命中した。敵が馬上の土方を狙撃したものか、それとも流れ弾であったのかはわからない。
たまらずに落馬した土方は、そのまま絶命した。享年35。新選組の鬼と呼ばれた男の壮烈な最期だった。
ただ、土方の最期を見届けた者があったのかどうかは、いまだにはっきりしていない。馬丁の沢忠助が付き添っていたことが有力とされているが、残念ながら忠助は多くを語り残さなかった。
そのあたりの状況が、負傷した土方が死なずに敵兵に捕縛され、網走監獄で長い年月を生きながらえるという、「ゴールデンカムイ」の熱い物語が生まれる下地になったといえるのかもしれない。