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自民党の政治資金パーティを予算委員会で追及した野党のお粗末

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(727)

極月某日

 自民党各派閥の政治資金パーティに政治資金規正法違反の疑いがあると最初に報じたのは、11月1日発売の月刊情報誌『選択』だった。記事は上脇博之神戸学院大学教授の刑事告発を受理した検察が、自民党各派閥の事務担当者を呼んで事情を聴いたところ、問題がなかったのは茂木派だけで、安倍派の政治資金収支報告書への不記載が突出して多かった。

 そのため10月23日召集の臨時国会で岸田総理が冒頭解散することを期待する声が自民党内にあった。総選挙に突入すれば検察の動きは止まり、総選挙後に検察の事情聴取が行われてもダメージは小さくなるという思惑だ。しかし岸田総理は冒頭解散に踏み切らなかった。

 そうなると野党が臨時国会で安倍派の「政治とカネ」を追及し、国会閉会後には政治資金規正法違反容疑で安倍派議員が検察に事情を聞かれる展開が予想される。それでは来年の通常国会を含め、当分、解散を打つことなどできず、岸田政権も自民党もじり貧になるという内容だった。

 この記事が示しているのは、岸田総理に解散をさせようとしているのは「政治とカネ」の問題で窮地に立った安倍派であり、それに対し岸田総理は全く聞く耳を持たなかったという事実である。

 もし岸田総理が解散を決意すれば、たちまち「岸田総理では選挙を戦えない」という声が自民党内に起こり、岸田総理は権力の座から引きずり下ろされる。選挙がなければみんなで選んだ総理の足を引っ張る大義名分は生まれない。論理的に考えれば岸田総理が自分の不利になる解散を打つことなどありえない。

 そのためフーテンはメディアがしきりに解散風を煽ることをこれまで批判してきた。しかし『選択』の記事で謎は解けた。解散風を煽っているのは検察の捜査を恐れる安倍派であり、多くのメディアがそれに乗せられたのである。

 反権力を装いながら実は安倍派の手先となってきたのがメディアと野党で、その一方、岸田総理は自らの政権がじり貧になろうが、自民党がじり貧になろうが、権力を失うことになる解散を打つ気はない。

 フーテンの想定通りなら、岸田総理は再来年の衆参同時選挙を考えている。一般的に同時選挙は与党に有利になると言われるが、1年半の準備期間を利用して野党が候補者の一本化に成功すれば、政権交代の可能性も出てくる。

 従って再来年は久しぶりに一大政治決戦の年となり、それに勝利すれば岸田総理は自民党本流である宏池会政権の長期化に乗り出す。他方、野党が多弱体制から脱却できれば、政権交代可能な政治が復活して日本政治は活性化される。それが岸田総理の念頭にあるのかもしれない。

 いずれにしても『選択』の記事が示すのは、自民党の政治資金パーティを巡る検察捜査の背後には、最大派閥安倍派の力を削ごうとする岸田総理と、岸田総理に早期解散を迫る安倍派の暗闘があるということだ。

 そうした状況のさなか8日に衆参予算委員会の集中審議が行われた。それを設定したのは自民党安倍派の「5人衆」の一人である高木国対委員長と立憲民主党の安住国対委員長である。2人は、問題を安倍派ではなく岸田政権への追及にすることを話し合ったとフーテンは想像する。

 自社馴れ合いの国対政治を見てきたフーテンの経験がそう思わせるのである。立憲民主党は昔の社会党とそっくりになってきた。社会党は国民には自民党と激突しているように見せながら、裏では自民党と談合し、自民党から金まで貰っていた。田中角栄元総理は社会党から「金権政治家」と批判され、「金権は俺ではなく社会党の方だ」と笑っていたのを思い出す。

 立憲民主党は社会党と違って金を貰っているとは思わないが、しかし激しく対立しているように見せて実は自民党に利益を与えている構図は変わらない。8日の予算委員会でも何故かその日の朝に松野官房長官が1千万円を超すパーティ資金の還流があったと報じられ、立憲民主党は岸田政権の中枢が違法行為をやったと追及し、安倍派追及にならなかった。

 興味深かったのは立憲民主党と共産党だけがパーティ資金問題を追及し、日本維新の会も国民民主党もれいわ新選組もそれを追及しなかったことだ。それが昔の社共共闘を思い出させ、自民党を万年与党にしてきた原因も社共にあったことを思い出した。

 さらに追及の仕方にも問題があった。立憲民主党は政治資金のキックバックが悪であるかのような追及をしたが、政治資金収支報告書に記載がなかったことが違法で、記載があればキックバックは違法ではない。

 次に記載のない資金は「裏金」と呼ばれるが、その「裏金」が何に使われたのかが問題になる。私的なことに使われれば、脱税の可能性が浮上する。しかし政治活動に使われたのであれば厳しい処罰の対象とはならない。

 昔、金丸信自民党副総裁が東京佐川急便から5億円の「闇献金」を受け取った容疑で捜査対象になった。金丸は政治資金収支報告書への不記載を認め、検察は略式起訴で20万円の罰金刑とした。なぜなら東京佐川急便からの献金を金丸は私的に使ったのではなく、政治活動にすべて使っていたからだ。

 しかし「5億円の闇献金」という報道を信じた国民はこの処分に怒った。中年の男が検察庁の玄関にある表札に黄色のペンキを投げつける騒ぎが起き、国民の批判に検察は存亡の危機に立たされた。

 しかし法律上、検察が下した処分はおかしなものではない。むしろメディアに「5億円の闇献金」をリークし、報道させたことの方に問題がある。検察は私的流用があると思ってリークしたが、捜査してみたらすべて政治活動に使われていた。

 世間にはなんでそんなに政治に金が必要なのかという疑問がある。日米の政治を見てきたフーテンにはそういう疑問が出てくるのが分からない。民主主義政治には金が必要だ。政治家にとって何が重要かと言えば情報が命だからである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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